リチウムイオン電池は、新型旅客機ボーイング787型機で出火・発煙事故が相次いだことから、安全性について疑問視する声があがっている。しかし、矢部教授は言う。
「あれはリチウムイオンだけではなく、すべての電池がもつ根本的な特性です。ひとたび発火すれば、電池の媒体は最後まで燃え尽きてしまうもの」
そうした問題をクリアした「世界一安全な電池」が、矢部教授の「フィルム型マグネシウム電池」だ。薄い膜状のマグネシウムがグルグルと巻かれて箱に収納されており、昔懐かしのビデオテープをイメージさせる形状をしている。
マグネシウム電池自体は数十年前から存在し、例えば、車のおもちゃなどで使われている。
「ただ、それはマグネシウムの塊(かたまり)で、表面が酸化すると内部が使えなくなるという重大な欠点があった。そこで薄い膜状にして特許を取ったわけです。フィルム状なので、万が一、発火してもすぐに切れるので燃え続けることはない」(矢部教授)
だが、このフィルム型マグネシウム電池は結果として「世界一安全な電池」とわかっただけで、開発のそもそもの目的は、ズバリ、エネルギー革命だ。
例えば、ケータイやスマホ。
「マグネシウム電池には同重量のリチウムイオン電池の8倍以上の電力量があります。せいぜい一日しかもたない今のスマホと同程度なら、マグネシウム電池は1グラムでいい。つまり、30グラムあればスマホは1ヵ月もちます。その電池代の原価はたったの6円です」(矢部教授)
夢のような話だが、いつ実現するのか?
「開発は来年からです」(矢部教授)
スマホ用の電池だけではない。矢部教授はすでに2月上旬、マグネシウム電池を日本人なら誰もが知っている大企業に納品済みだという。
(取材・文/樫田秀樹、撮影/五十嵐和博)
■週刊プレイボーイ10号「夢のマグネシウム電池ってなんだ!?」より