「未来の資源」として1950年代から期待されながらも、培養の難しさから研究が途絶えかけていた藻の一種、ミドリムシ。世界で初めて、その大量培養に成功したのが『僕はミドリムシで世界を救うことに決めました。
東大発バイオベンチャー「ユーグレナ」のとてつもない挑戦』の著者・出雲充氏率いるベンチャー企業「ユーグレナ」だ。これにより、出雲氏は世界経済フォーラム(ダボス会議)の「ヤング・グローバル・リーダーズ」に選出されるなど、現在、世界的に注目を浴びている。

―ミドリムシというのは相当、すごいらしいですね。

「よく、青魚を食べるとDHAが摂れてボケなくなりますよ、なんていわれますよね。あのDHAは、青魚が作っているわけではなくて、実はミドリムシが持っているものなんです。ミドリムシが体内で栄養素を作り、それをミジンコが食べ、それを魚が食べて体内にため込んでいます。
それを人が摂取する、というわけです」

―知らず知らずのうちに、多くの人がミドリムシが作った栄養素を口にしていると。

「それだけじゃありません。ミドリムシがすごいのは、魚だけでなく、体内で動物の栄養素も生成できるということ。こんな生物はほかにいない。ミドリムシを世界中に行き渡らせることができれば、栄養失調の問題は解決します」

―しかも、ミドリムシはジェット燃料にもなると聞きました。

「ミドリムシからは化石燃料に近い油を精製することができます。
だから飛行機も飛ばせますし、将来はガソリンスタンドで、『レギュラー』『ハイオク』『ミドリムシ』なんてふうに売られているかもしれません」

―現時点での課題は?

『ミドリムシはとても栄養価が高いのでミジンコなどに食われやすく、そのためこれまでは屋外で培養できていませんでした。幸いにして僕らは大量培養に成功しましたが、ジェット機で使うようになるには、今の培養プールからさらに100倍レベルの広さが必要です。100倍の広さで培養ができたら、ミドリムシ燃料も市場で供給できるようになるはずです』


―日本が“産油国”になれるということですね! それも無尽蔵な。

「太陽が出ている限り、という条件つきですが」

―夢のある話ですが、そんな出雲さんのビジネスの原点は、『こち亀』(秋本治『こちら葛飾区亀有公園前派出所』)にあるとか。

「 『こち亀』の85巻に、両さんがザリガニを養殖して高級フレンチの食材とウソをついてひと儲けしようとする話があります。僕も小さい頃、それをまねようとしたんですよ。
結局、ザリガニ同士が共食いしてしまって、うまくいかなかったのですが」

―本当に『こち亀』みたいな失敗談ですね。

「でも、主人公の両さんは、お金がないとか機械が壊れたとか、そんな理由では一度も諦めたことがないんですよね。車のレースに出てエンジンが壊れたとしても、自分の脚で漕いで優勝したりする。もちろん、後にバレて、大原部長に怒られたりするんですが。ベンチャーでやっていくには、ピンチのときになんとかそういう発想が必要なんですよ。儲かるものに対するセンス、実現するための行動力。
僕は両さんを本当に尊敬してるんです」

―ミドリムシ事業は『こち亀』みたいなオチになったりしないんですか?(笑)

「『こち亀』も、オチの一歩手前まではベンチャーの教科書だと思いますよ。ジャンボジェットでのミドリムシ燃料事業化の目標は2018年度です。5年後には、世界を沸かせるニュースを発信できるように頑張ります」

(撮影/高橋定敬)

●出雲 充(いずも・みつる)


1980年生まれ、広島県呉市出身。東京大学卒業後、東京三菱銀行を経て、株式会社ユーグレナ立ち上げる。現在は代表取締役社長。食品、機能性食品、燃料などで事業化を目指す

『僕はミドリムシで世界を救うことに決めました。



東大発バイオベンチャー「ユーグレナ」のとてつもない挑戦』


ダイヤモンド社 1575円


食料、環境、エネルギーなどさまざまな問題を解決させる夢の資源、ミドリムシだが、半世紀以上、多くの研究者が培養を実現できずにいた。ベンチャー企業「ユーグレナ」は2005年、それに成功する。背景には、出雲氏やスタッフらの執念と苦闘があった

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