渋谷駅から歩いて10分弱。誰かに連れてこられないと絶対たどり着けなそうな、ボサノヴァがかかったワインバー「bar bossa(バール ボッサ)」。


この店のマスター・林伸次氏が、経営の裏側とカウンターから見えてくる人間模様をつづるのが『バーのマスターはなぜネクタイをしているのか? 僕が渋谷でワインバーを続けられた理由』だ。林氏に聞いた。


―バーのマスターならではの観察がとても面白いですね。例えば、男女の客がカウンターに座っているとして、ふたりが関係を持っているのか、見ていてはっきりわかるとか。

「ええ。例えば、1回目に来たとき、男性に敬語で接していた女性が、1ヵ月後、同じカップルで来てるのにタメ口になっていたら明らかですよね。
最初はオーダーも男性任せだったのに、次は男性よりも先に『私、シャンパーニュ。あ、ボトルにしようかな』なんて言ってたら確実です」

―あるあるすぎますね! 女性はなぜかセックスするとタメ口になったりする。

「もちろん、僕が下世話で観察好きだからというのもあるのですが、関係性を把握しておくことは重要なんですよ。主導権がどちらにあるのかで、オススメするものも違ってきます。寝る前だったら、男性がものすごくお金を使って女性に飲ませようとすることもありますしね。

男性同士のお客さまでも同じです。
相手が取引先なのか上司なのか、支払いは会社持ちなのかで、接客は変わってくる」

―さまざまなエピソードが出てきますが、いちばん気になったのは、“バーで隣り合った初対面の女性を店の外に誘う方法”です。「もう一軒行きませんか」では、まず失敗すると。

「ひとりで飲んでるってことは、その女性は常連なわけですよね。そこでついていったら、バーテンダーやほかのお客さんに軽い女だと思われてしまう。だから、この場合は……」


―おっと! 意外と古典的な正解は本を読んでのお楽しみということで。しかし、それだけ観察していたら失敗パターンもよくご存じでしょうね。


「そんな大げさなものではないですけど、最近のお客さんで増えてきたなと思うのが、女のコを酔わせたいのにフードを頼まない方。バーをやってるから言うわけじゃないですけど、これはもったいない。

女のコって、とにかく食べることが大好きで、レストランで食事してからでもおなかすいてるんですね。だから、しょっぱいものを頼めばもっとお酒が進むのにな、なんてよく思います。

それから、オーダーのときに説明してあげない若い男のコも増えている気がします。『ここはワインがおいしいんだよ。
グラスがいい? さっぱりしたのがいい?』って聞いて、『彼女にさっぱりした何か』ってオーダーしてあげるのが定石だった。でも、それをしないで『俺、重めの赤』と言って、黙って座っているのをよく見ます」

―だから、「男は就職前の一年間、バーで働くことを義務づけるべき」なんて主張されているわけですね。

「男女の機微だけでなく、社会のこともいろいろ学べると思いますよ。理不尽な理由で頭を下げなきゃいけないこともあるし、憧れの会社の別の側面も見えてくる」

―ここまで冷静に見られているとわかったら、バーで口説くのが怖くなりそうな……。

「でも基本、黒子ですから。それに、酔っぱらってきたらそんなことも全然気にならなくなって口説いていると思いますよ、きっと(笑)」

●林伸次(はやし・しんじ)


1969年生まれ、徳島県出身。
レコード店、ブラジル料理店、バー勤務を経て、97年、bar bossaをオープン。選曲CD、CDライナー執筆多数。有料メルマガ『cakes』でエッセイ『ワイングラスのむこう側』を連載中

■『バーのマスターはなぜネクタイをしているのか? 僕が渋谷でワインバーを続けられた理由』


DU BOOKS 1680円


渋谷の繁華街を抜け、通りの裏の小路の、そのまた裏の路地。同じ場所で17年間営業してきたワインバー「barbossa」のマスターが明かす、店舗経営と恋愛に効くTips

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