「昔はね、原発っていうのは未来を輝かせる科学技術の最先端だったと思うんですよ。安価で安全なエネルギー。それが雇用を生み、周辺の自治体も発展していく……でもね、もう安全なエネルギーじゃないことはだれの目にも明らかになったじゃないですか。それに自治体だって……原発ができる前、この辺りは人口が12万だったんです。それが、平成の大合併で周辺の市町村と一緒になったのに、現在の人口は9万ですよ。全部嘘っぱちだったんだ。それなのに、どうして動かそうなんて思うんですかね」
この真っ当な問いかけに、政府や電力会社はどう答えるというのだろう。いや、答える必要はない。連中は無視するだけなのだ。
道路のことを訊いてみた。他の原発の町は立派な道路を整備しているのに、なぜこの町は違うのか?
「道路? 他の原発の町のことは知らないから、なんとも……」
なら、原発の金はどこへ消えたのか?
「土建屋の懐じゃないですかね」
訊いた相手は吐き捨てるように答えた。
夜、寂れた繁華街を歩いた。どこもかしこも閑古鳥が鳴いている。辛うじて客の姿が見えるのは安い居酒屋のチェーン店だけだ。
梯子(はしご)酒をしながら、原発再稼働に賛成だという市民の声にも耳を傾けてみた。
「原発? 再稼働した方がいいに決まってるだろう」