「動かさなくても原子炉は残る。廃炉には何十年もかかる。だったら動かした方がいいでしょう。動けば、この町の経済も潤(うるお)うんだから」
原発が稼働していた間も、この町の経済は下降線を辿(たど)る一方だった。なのに、原発が動けば金が回るとまだ信じている。
「福島はさ、結局、地震じゃなくて津波のせいでああなったわけでしょ。ここは地盤もしっかりしているし、動かしてもだいじょうぶ」
赤ら顔でそう訴えたのは60代の男性だ。しかし、わたしが聞いた話では、実情は違う。この辺りは特殊な火山帯に属しており、御嶽山(おんたけさん)のように山頂付近で噴火が起こるのではなく、もし噴火するとしたら山ごと吹き飛ぶような超巨大噴火が起きる可能性が高いということだった。直径20キロ、30キロという規模のクレーターが生じ、雨が降れば、地上5階建ての高さの土石流が流れ込んでくる。
だれかの言葉が耳によみがえったーー桜島の火山灰はいいよ。掃除すればいいんだから。でも原発になにかあったら……放射線は掃除できないからね。
「とにかくね、原発で働いてるやつらがこの町で金を落とさないのがけしからんよ」。商店を営んでいるというおじさんが言う。「この町はコンビニのひとり勝ちさ。原発労働者はコンビニで弁当とビール買って寮やホテルで食べて飲むだけ。お偉いさんは新幹線で鹿児島に行って飲んじゃう。それじゃ、原発を誘致した意味がないでしょう」