ナポリタンのリバイバルや“ロメスパ”ブームなどを経て、いま注目を集めているのがカレー・スパゲッティだ。

日本の国民食ともいえるカレー、ナポリタンなどに通じる炒め系パスタ。
ふたつの要素を持つ“カレースパ”がここにきてブレイクの兆しを見せており、ロメスパ店をはじめ各地でカレースパゲッティを提供する店も増えつつある。

そんな中、愛好家たちによると、カレースパが初めて世の注目を集めたのは料理マンガの先駆け『包丁人味平』(作・牛次郎/画・ビッグ錠、1973~77年)のカレー戦争編に登場した「スパカレー」だという。

主人公にして天才料理人・塩見味平が厳しい修業や料理人たちとの激しいバトルを経て、誰もが美味しく食べられる大衆料理とは何かを探し求めていく本作は連載開始時から大人気に。中でもカレー将軍・鼻田香作との対決をデパートの集客合戦とともに描いた「カレー戦争編」は屈指の名エピソードとして知られる。

そこで作者のビッグ錠氏を直撃、「スパカレー」秘話や『包丁人味平』の物語にまつわる逸話を聞いた!

―カレースパゲッティに注目が集まりつつありますが、愛好家たちの間では最初に注目を集めたのは『包丁人味平』の「スパカレー」らしいんです。

ビッグ そうなの? でも僕、スパカレーなんて描いたかなぁ。


―えーっ、描いてますよ!(「味平」の単行本を見せる)

ビッグ あ、本当だ。これは「カレー戦争編」だね。

―主人公・味平のライバル、カレー将軍こと鼻田香作が子供客を呼ぶ奥の手として考えたのが、スパゲティにカレーをかけたスパカレーです。

ビッグ あ、そうだった。段々と思い出してきたよ(笑)。

―これを描く上で、モデルなんてあったんですか

ビッグ そんなのないよ。
だって当時はほとんどの店でスパゲッティといえばナポリタンとミートソースって時代だったからね。日本人はなんでもカレーにしちゃうでしょ。パンとかうどんとか。だったらスパゲティもいいだろうって。そこからの発想だよね。

―先生のオリジナルだったんですね。
「カレー戦争編」を改めて読むと「中村屋」や「デリー」など実在するお店が載っているのでモデルがあるのかなと。

ビッグ いろいろ取材はしたけどね。昔、1番とか5番とか日本で初めて辛さを注文できるインドカレーの「ボルツ」ってお店があってね。それはマンガの中のモデルになってるね。

―スパカレーは実際に作って試食はされたんですか?

ビッグ したと思う。味は忘れちゃったけど(笑)。
味平に出てくる料理はね、普通に考えたらできないんだけど、もしかしたら本当にできるかもってものを大なり小なり意識して描いてたんです。言っちゃえば『巨人の星』の消える魔球みたいなね(笑)。

―一応の理屈はあるから思わず納得しちゃうと。「味平」には麻薬成分が入った「ブラックカレー」、糸一本で肉の塊をバラす「白糸バラシ」、マグロの解体を何本もの包丁と花火でやっちゃう「地雷包丁」とか、ものすごい料理や技が続々と出てきましたけど、納得して読んでましたもん。

ビッグ でしょ。まぁウソばっかなんだけどね(笑)。
そういえば「ラーメン祭り」編で「つけ麺」ってのを描いたんだけど、当時、つけ麺って見かけたことがなくてね。だから出てきた時は驚いたよ。マンガのメニューって特許とれないのかな、なんて考えたり(笑)。スパゲッティのカレーが今、注目なんて聞くとそれもびっくりだけど。

―そもそも「味平」はどういう経緯で始まったんですか?

ビッグ 先に原作の牛次郎さんと一緒に『釘師サブやん』(1971年)ってのを「週刊少年マガジン」でやってね。「味平」はその流れで描いたんですよ。


―「サブやん」って、元祖・パチンコマンガで若い釘師がライバルと勝負をしながら腕を磨いていく作品でしたね。一時期は『あしたのジョー』や『巨人の星』と並ぶ人気だったとか。

ビッグ うん。あれは初めて職業を題材にしたマンガで。それが読者には新鮮だったんだよね。で「週刊少年ジャンプ」の編集長が料亭でメシを食ってる時に、パチンコのマンガができるなら料理のマンガもできるだろうって話になったらしくて。

―そこで、先生方のコンビに再び白羽の矢が立ったと(笑)。

ビッグ そう。あと僕は、昔から西部劇が大好きでね。「サブやん」は西部劇に見立てて描いたんだ。だからパチンコの話なのにライバルが次々と現れて決闘する。牛さんも僕のアイデアを面白がってくれて。しかも彼は昔、パチンコメーカーに勤めてたこともあってリアルなウソを絶妙につくんだよ。

それが成功したんで、そのパターンをもう一度「味平」に持ち込んだわけ。ライバルがいて決闘シーンがあって。包丁を拳銃のようにくるくる回したり(笑)。

―普通に考えたら料理マンガって、本来、食べ物の逸話とか修行の物語になりそうですもんね。そういえば「味平」には『美味しんぼ』のような料理のウンチクはほぼ出てこないです。

ビッグ うん。そこはあまり触れなかった。ウンチクを書いちゃうと、よほどうまく描かないと料理を仕事としてる人は、わかってて楽しくないんじゃないかなとも思ったし。でも以前、フランス帰りのシェフが六本木に店を開くというから行ってみたら「先生のマンガをよく読んでました!」なんて言われてね。料理のエンタメとして楽しんでくれたみたいでホッとしたよ。

―あと「味平」でもうひとつ気づいたのは、登場人物のドラマが実は描き込まれていること。味平と父・松造とのエピソードとか、カレー戦争編でいえば、梨花ってコが親との確執から不良少女になった話とか。青春ドラマとしても楽しめます。

ビッグ やってて気づいたんだけど、料理マンガって、実はいろんなことが描けるんだよね。例えば、水島新司が野球マンガなのに家族の話や子供同士の友情とかいっぱい描いてるでしょ。料理の枠に収まらないような作品にしたいとは心がけてたかな。それにちょっとクサいけど、料理の最高の調味料は愛だと思ってるから(笑)。

人間臭さを描くことはやっぱり大事なんだよね。そういえば料理で思い出したけど、僕は「味平」にせよ、その後の作品にしても料理の絵だけはアシスタントに触らせなかったんだよね。

―それはどうしてですか?

ビッグ 旅行に行くと、駅で駅弁の写真が飾ってあるでしょ。でもあれが美味しそうに見えなくて。でも駅弁の包み紙に描いてある絵って、地元の絵師さんが描いてたりするんだけど、なんだかうまそうに見える。今の人は写真を見て上手に描こうとするんだけど、同時に想像力をもっと駆使して描かなきゃダメなんだよね。

―先生はマンガ家を辞めてデザインのお仕事をされてた時期があったんですよね。それも影響しているのでは?

ビッグ すごくあると思う。貸本マンガを辞めて「サブやん」をやるまで広告の仕事をたくさんやってたからね。写真になくてもコーラの瓶のようなしずる感や魚の焦げ目とかものすごく意識したし。

―それが画(え)にも出たと…。

ビッグ そうだね。後に描いた『スーパーくいしん坊』(1982年)の時だけど、子供たちが本屋で「うまそうだな!」とか言いながら立ち読みしてるのを見て。本当に嬉しかったですよ。

―ちなみに名作マンガの続編は多々ありますけど、「味平」の続きは描かれないんですか。最終回で外国に料理の修業に出た味平がその後どうなったのか、知りたい人も多いと思いますが。

ビッグ 実は話はあったんです。しかも牛さんはやる気満々で。昔の「味平」で寿司をやらなかったから、今度こそみたいな話もあったし。でも僕が断りました。料理マンガの元祖として伝説のように思ってもらえてるなら、伝説のまま残しておこうって。だから「味平」は心のどこかで覚えててくれればいいんですよ。

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(取材・文/大野智己)

■ビッグ錠


1939年生まれ。大阪府出身。代表作に「釘師サブやん」「包丁人味平」「スーパーくいしん坊」など。現在はイベントや講演会を中心に活動している。

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