これは、愛する我が子の成長を優しいまなざしで綴った、心温まるイクメン日記ではない。2015年11月の長男誕生から約1年にわたる、苛烈なる“樋口家の戦い”の記録である。
弁護士・タレントである妻の三輪記子(ふさこ)さんとの馴れ初めは、彼女が樋口さんのベストセラー『タモリ論』を読んだことだった。ふたりは14年3月に初めて会い、3度目のデートで男と女の関係になった。しばらくして、樋口さんは彼女から衝撃的なリクエストを突きつけられる。
「樋口さんの子供が欲しい。一切迷惑はかけません。お金もいらないし、籍も入れなくていいから」
ところが、この申し出とは逆に、まもなく樋口さんは住み慣れた東京を離れ記子さんの住む京都に引っ越し、入籍し、主夫・イクメンとなる。もちろん、小説を書く時間などなくなった。現在、長男・一文くんは1歳10ヵ月。いまだ怒涛の日々が続いているが、人の親になり何が変わったのか? 樋口さんと同じ新米パパの記者が話を聞いた――。
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―子供を持つと、何気ない街の景色が変わって見えませんか?
樋口 本当にそうですよね。「ベビーカーを引いているお父さん、お母さんがこんなにいたっけ? 昔より赤ちゃん増えた?」って。そんなわけはない。自分が親になったことで、視界に入るようになったんですね。