年間約100人に精子を提供する正人さん(25歳、仮名)。生まれた子供の数は、現在妊娠中も含めれば36人だという
無精子症の夫婦、選択的シングルマザー、同性愛者......子供が欲しくても「精子がない」人に対する、「第三者による私的な精子提供」が近年、急増している。医療機関を介さず、「倫理的にアウト」という批判もあるなかで、彼ら"精子ドナー"たちが活動を続ける理由とは? 当事者たちを直撃した。
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■日本で精子バンクが成り立たない理由
第三者の精子を使い妊娠へと導く「AID(非配偶者間人工授精)」という医療行為がある。日本では年間約3000件が実施され、その半数以上を慶應義塾大学病院が担っている。
しかし昨年8月、慶應病院は患者の新規受け入れ停止を発表した。「精子を提供してくれるドナーが減少したためです」と、同病院の産婦人科産科診療科部長、田中守氏は言う。
慶應病院では公募をせず、「声が届く範囲でボランティアとして協力を依頼」し、ドナーを確保。ドナーの個人情報は患者にも明かさない完全匿名を大原則としていた。
しかし近年、AIDで誕生した子供が遺伝上の親の情報を知る権利――「出自を知る権利」を法律で認める動きが世界的に加速。日本でもAIDによる出生児たちが法整備を求める活動を始めている。
「法制度が未整備のまま、ドナーの情報が明かされれば、生まれた子供が将来、ドナーに扶養義務や財産分与などを求める可能性が発生します」(田中氏)