"音鉄"市川紗椰のひそかな楽しみ「ブルートレインの発車時から...の画像はこちら >>

地下鉄として唯一世界遺産に登録されている「ブダペスト地下鉄1号線」。走行音も最高ですが、ハンガリー王室が一番きらびやかな頃に作られていた駅のタイルやアール・ヌーヴォーな鉄骨も魅力的

『週刊プレイボーイ』で連載中の「ライクの森」。

人気モデルの市川紗椰(さや)が、自身の特殊なマニアライフを綴るコラムだ。前回に続き、「鉄道の音」の楽しみ方について語る。

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音鉄的に聴きどころの多いのが、大阪の「長堀鶴見緑地線」。この路線は、電車がホームに入ってくるときの接近メロディが大阪弁のイントネーションに近いメロディになっていることで知られています(気になる方はネットで動画を探して確認してみてください)。

この長堀鶴見緑地線は発車メロディも個性的です。電子的なメロディの後に、突然「ハァー」と人の声のような音がするんです。

しかもいろんな音が一緒になっているから、とにかくうるさい。

これを私は天使の声だと思って聴いているんですが、人によっては不気味に感じられるようです。なかには「死者の声だ」とホラーのようなことを言っている人も......。

ちょっとうるさめのブレーキ緩解(かんかい)音や、リニアモーターの甲高い加速音。長堀鶴見緑地線はどの音も特徴的で、さまざまな音が混じり合っているのでシンフォニーのようです。

海外でオススメなのは「ブダペスト地下鉄1号線」(ハンガリー)。

開業は1896年と古く、電気運転の車両としては世界初の地下鉄になります。

今より技術がなかった時代の地下鉄だけに、地上からの深度は浅く、車両もかなり小ぶりです。

通常、電車のモーターは床下に設置されていますが、この地下鉄は車両の高さを確保するため車両間の連接台車の上に機器室を置くというかなり特殊な構造になっています。ちょうど立っている人の耳の高さにモーターがあるので、複雑な音が聞き取りやすいです。

『タモリ倶楽部』(テレビ朝日系)で出演者が耳を床につけてモーター音を楽しむ映像を見たことがあるかもしれませんが、この電車なら床に這(は)わなくてもダイレクトにモーター音を楽しめますね。小ぶりな車両に合わせた小型のモーターで、どこかおもちゃっぽく、軽快な音が魅力的なんです。

ほかにも好きな鉄道の音はたくさんありますが、なんだかんだいって好きなのは、寝台列車の音かもしれません。自分で録音した、ブルートレインの発車時から到着時までの音を聴きながら寝ると、自宅のベッドが寝台列車になります。

しかも、ちょうど目覚めるタイミングで朝のチャイムの音が鳴るんですよ。『ハイケンスのセレナーデ』というクラシックの曲らしいんですが、このチャイムに続いて「皆さま、おはようございます」という車掌さんの声を聴くと、とても気持ちよく起きられます。寝台列車が走っていた頃の幸せな気分が蘇(よみがえ)ってきて、切なくもありますが。

ちなみに、私は列車の音や動画を録るのが趣味です。

以前はモハラジオと呼ばれる聴診器のような装置で録っていたこともありますし、今でもたまに専用の録音機を使うこともあります。

ただ、ここ数年で羞恥心が芽生えたのか、そうしたものを持って録っていると、不意に人の目が気になることがあります(苦笑)。

そんな私が今、重宝しているのはスマホの動画機能。なぜかボイスメモよりもいい音質で録音できるような気がします。これならスマホを持っているだけなので不審がられずに済むし、音活がはかどります。

●市川紗椰(いちかわ・さや)
1987年2月14日生まれ。

アメリカ人と日本人のハーフで、4歳から14歳までアメリカで育つ。現在、モデルとして活動するほか、J-WAVE『TRUME TIME AND TIDE』(毎週土曜21時~)などにレギュラー出演中。キハ40形、キハ48形のうるさいディーゼルエンジンの音を聴くと、旅情をかきたてられる