市川紗椰が大相撲七月場所を観戦「普段気づくことができない土俵...の画像はこちら >>

厳戒態勢での観戦は貴重な体験でした。今後も気を緩めずに九月場所を迎えたい!

『週刊プレイボーイ』で連載中の「ライクの森」。

人気モデルの市川紗椰(さや)が、自身の特殊なマニアライフを綴るコラムだ。両国国技館で大相撲七月場所を観戦した彼女が驚いたこととは――?

* * *

コロナ禍のなか、元大関・照ノ富士関の歴史的な復活優勝や、十両の立浪部屋3人による「優勝決定巴(ともえ)戦」で盛り上がった七月場所。初日の1週間前に、制限付きで観客を入れることが決まったときはびっくりしました。

相撲はファンの年齢層が高く、競技そのものが濃厚接触の極み。スポーツ界で唯一現役選手も亡くなっており「急ぐ必要はないのにな」と思いつつ、感染防止対策の徹底をした上で新型コロナと共存する方法を見つけないと、大相撲自体が消えてしまうという現実を鑑みて、私も今回の対応に納得しました。となれば、観戦するしかないでしょう。

観客数がたった2500人なのでプラチナチケットになると思いきや、簡単に取れました。販売方法の限定と都の移動自粛要請のせいか、売れ残りが目立ち、ネットを使いこなせる世代の東京在住の観客が多かったようです。厳戒態勢での観戦は貴重な体験でした。夏場所は通常名古屋で行なわれるので、両国国技館を薄着で過ごすのも新鮮!

声を出しての応援は自粛、飲酒は禁止。通常4人で座る升席はひと升ひとりで、距離を確保するため、升の中央に座るよう何度も館内放送で呼びかけがありました。升をひとりで独占するのは、百人一首の札に描かれた偉い人になった気分。

向正面を見ると、同じ間隔で座る観客がおひなさまみたいでほほえましく映りました。マスク着用の徹底も呼びかけられていたので、普段みたいにダラダラと食べ続ける空気ではなく、気づけば正座をし、静粛な雰囲気で相撲と向き合う感じでした。

期待どおり、音がすごかった。骨と骨がぶつかる音、足裏が土俵に擦れる音。息遣いひとつひとつが耳に届き、呼出さんや行司さんたちの個性が際立ちました。驚いたのは、花道の奥から聞こえてくる出番待ちの力士の準備の音。

パチパチパチパチ!と体を激しく叩く力士もいれば、一声だけ「ヴっふ」と気合いを入れる人も。見えないけど、普段気づくことができない土俵裏の模様がうかがえて興奮しました。

拍手での応援も予想以上に心地よかったです。声が出せない分、拍手に精いっぱい心を込めようとしている自分がいて、パワーを送っている錯覚を味わいました。もしかして、声援より拍手のほうが気持ちが伝わるかも!? 近年はコールや組織的な応援が増えていますが、全員が気持ちいい応援について考えるきっかけになるかもしれません。

今回は開場の13時から観戦しましたが、幕内の取組が始まる15時までには正座も崩し、足を贅沢(ぜいたく)に広げました。

周りを見ると、寝姿の大仏のようにゴロンと横たわっている観客がちらほら。きっちり正座している人と、まるでリビングにいるような人の両極端が混在する、今回ならではの光景でした。

私は横になる手前の、可能な限りの広々とした座り方に落ち着きました。なんて楽ちん。1.3m×1.3mの升。定員の4人で座るのはきついサイズとかねがね感じてました。

これを機に現代サイズに区画整理をしてくれたら、と淡い期待を寄せてマス。

しかし土俵の上は、異例ずくめの状況を忘れさせるような熱い戦いの連続でした。肝心の相撲のお話はまたします。よっ! 伊勢ヶ濱軍団!

●市川紗椰(いちかわ・さや)
1987年2月14日生まれ。アメリカ人と日本人のハーフで、4歳から14歳までアメリカで育つ。モデルとして活動するほか、テレビやラジオにも出演。

著書『鉄道について話した。』が好評発売中。マックスのキャパで升席に座っているところに、お茶屋さんが無理やりお土産を押し込む光景は好き。公式Instagram【@sayaichikawa.official】