『キン肉マン』大好き漫画家のおぎぬまXが、コミックス8巻を熱く語る
『キン肉マン』第8巻
新たに始まった超人オリンピックがいよいよここから本格化。しかし、決勝トーナメントに移り、物語が進むにつれて前大会とはまったく異質なゆでたまご先生の狙いも徐々に見えてきて!?
●シリアスとギャグ、両方やるという矜持!
まずは、あえて3巻のレビューの繰り返しになりますが、この8巻を語る上でも、やはり触れずにはいられないのが、ゆでたまご先生の変わらぬ〝オーパーツ〟的な構成力についてです。
第21回超人オリンピックの最終予選から決勝トーナメント準決勝戦まで、決勝戦を除く大会日程のほぼすべてがこの巻に。しかも以前に増して恐ろしいのは、先の大会の決勝進出者は8名、今回はなんと12名。
このミラクルの謎は簡単に解けそうにないですが、でもその手がかりとして挙げられるのがこの巻の3話目「犠牲者続出!!の巻」でしょうか。あの伝説のホビー対決、チエの輪マン対キューブマン、そして今後の最重要キャラのデビュー戦、ウォーズマン対ティーパックマンを完全収録。さらに大事な主人公の初戦、キン肉マン対キングコブラの中盤でヒキとなって次回に続く......という、こうして文字に起こしてみただけでもありえない満載具合のオーパーツ回に仕上がってます。
実はこの回、読者のみんなが待ちわびた決勝トーナメントの初回なんですよね。その初回でいきなり2試合終わらせて3試合目にまで突入しようという超電撃作戦。その開幕戦のチエの輪マン対キューブマンなんてものすごく記憶に残ってますけど、見直したらたったの2ページなんですよね。それもたいした省略もなく攻防はほぼすべて描いて最後は「ウ~~ン 近代オモチャにゃかなわん...」なんてシビれる名言まで残して、たった2ページ、信じられない。それに拍車をかけてすごいのが、直後に超どシリアス展開のウォーズマン対ティーパックマン戦を持ってきて、まったく毛色の異なるこの2戦を立て続けに描き切ったということです。
『キン肉マン』という作品はここまでを見ても、初期の怪獣退治編に代表されるギャグパートとアメリカ遠征編に代表されるシリアスパート、そのどちらの路線で行くかでシリーズごとに作風が交差してきたところがありました。
どっちもやる、というゆでたまご先生の決意はそこからも見て取れますよね。もちろん、テンションの上げ下げも大変だし、とてつもなく難しいチャレンジだったと思うんですが、その明暗をまさに一話の中で描き切ったのがこの「犠牲者続出!!の巻」の回。序盤も序盤なので、ストーリー的には重視されにくい回ですが、作家としてのゆでたまご先生の姿勢に注目した場合、シリーズ内でも屈指の隠れた珠玉回だといえるでしょう。
●前大会とは似て非なる要素が盛りだくさん
もうひとつ、前回の超人オリンピックとの決定的な違いとして注目したいのが、ラスボスが中盤までまったく読めない点。前回は誰がどう見てもラスボス候補はロビンマスク一択。そこへたどりつくまでに、キン肉マンがどう成長を遂げるかという物語でした。しかし今回のラスボスは、シリーズ開始時に注目されたウルフマンかと思いきや、実は復讐に燃えるブロッケンか、それともひたすら不気味なウォーズマンか......と中盤までまったく見えません。それは同じ超人オリンピックを繰り返しているようで決してそこをなぞるのではない、まったく異なるストーリーを作り上げようとしているゆでたまご先生の意図が強く感じられる仕掛けです。
試合に関しては、一戦一戦を語りだすとキリがないので、僕がこの巻で最も好きな一戦を挙げさせていただくと、キン肉マン対ウルフマンの準決勝戦。ここまではお約束のラッキーもありましたが、ここからいよいよ僕が大好きな〝本当はめちゃくちゃ強いキン肉マン〟が全面解禁。
●こんな見どころにも注目
ゆでたまご先生は、この作品の神であると同時に悪魔でもあるなと、あらためて強烈に感じさせられたのがこの巻のカバー折り返しコメント。ここで先生は、ラーメンマンの読者人気の高さに触れ「ラーメンマンこそ真の超人ナンバー・ワン!!」と大称賛。そんなコメントを寄せた巻の彼の結末が再起不能状態だなんて......殺すよりエグい......。テリーマンの義足の件にしろ、相変わらずゆでたまご先生にえこひいきなし。
●おぎぬまX
1988年生まれ、東京都町田市出身。漫画家。2019年第91回赤塚賞にて同賞29年ぶりとなる最高賞「入選」を獲得。21年『ジャンプSQ.』2月号より『謎尾解美の爆裂推理!!』を連載。小説家としての顔も持ち、『地下芸人』(集英社)が好評発売中。
構成/山下貴弘 撮影/中里 楓 ©ゆでたまご/集英社