痛快にして愉快、そして生々しい。
男の性(さが)の滑稽さに、女性は頷き、男性はチクリと心を痛ませるだろう。

東京大学大学院修了、日本経済新聞記者という“お堅い”経歴を持ちながら、一方でセクシー女優としても活躍、キャバクラや銀座のクラブでの水商売経験を語り、注目を集めている鈴木涼美さんの新刊『おじさんメモリアル』(扶桑社刊)は、様々な男性の欲望が詰まった「おじさんエピソード集」だ。

本書は鈴木さんが実際に出会ったり、友人・知人から聞いたりした、「おじさん」たちの哀れなエピソードが詰まった本書。名言をひたすら作りだすおじさん、別れ話を切り出すメンヘラおじさんなど、さまざまな「おじさん」たちが登場する。
そして、鈴木さんのおじさん観察からは、厳しい目もありながら優しさも感じられるのが救いだ。

一体「おじさん」とはどんな人たちなのか? 新刊JPは本書について鈴木さんにインタビューを敢行した。

(取材・文/金井元貴)

■突き抜けられない「おじさん」たちはどこへ向かうのか――面白かったですが、中年以上の男性はこの本を読むうえで開き直りが必要ですよ。

鈴木:ありがとうございます(笑)。

――鈴木さんがスレてしまった中学時代から現在までの約20年にわたる「おじさん」観察記録ですが、「おじさん」の定義はどうされているんですか?

鈴木:年齢とかは関係なくて、上司や先輩、先生っていうところが「おじさん」になりますね。東大大学院のときの指導教官は若い先生で、研究室の中にはその先生と同い年の人もいたんですけど、おじさんという風には見られなかったです。

――同じ年齢だけど先生は「おじさん」で、学生は「おじさん」ではない。

鈴木:そうですね。同様に、自分と同い年の人もおじさんと思うことが多くなってきました。

同世代でも、学生を続けている人を見ると子どもっぽさを感じますし、逆に所帯を持って落ち着いていると「おじさんっぽいな」と思うことがあります。

やっぱり立場なのかな。キャバクラでアルバイトしていたり、アダルトビデオのサイン会に来てくれる人は年齢関係なく「おじさん」だと思いますね。

――経済的な側面で「おじさん」を感じることは?

鈴木:それはありますね。お金を使うことで価値を見せる人はおじさんです。

――本書で描かれているような「おじさん」の滑稽さってどこから生まれてくるのでしょう。

鈴木:巻末の高橋源一郎先生との対談でも話したのですが、男性は女性に対して優位に立ちたいと思いつつ、振り回されたい、甘えたい欲望もある、自身の感情がアンビバレントなのだと思います。

ネタになる男性って、一貫した姿勢を持っていればいいのになぜかバランスが上手く取れていないことが多いんです。甘えればいいのに変なところで支配欲を出してきたり、偉そうにしていればいいのに妙なところで下手に出たり。

若い頃は体力も精力も有り余っているし、男性としての自信を持ちやすいじゃないですか。でも、年齢を重ねると、体力も低下するし、変なところから毛が生えて、体臭も強くなる。若さに対して劣等感を抱いてしまって、経験値やお金しか縋るものがなくなってバランスを崩してしまうのではないかなと。

――経験値やお金で突き抜ければいいのでしょうけど…。

鈴木:そこまで割り切れていないんでしょうね。

――そう考えると、男とは悲しい生き物です。■「お前の魅力は俺が知っている」男は嫌われる

『おじさんメモリアル』に登場する「おじさん」たちのエピソードは、鈴木さんが出会った男性に限らず、彼女の知人であるキャバクラ嬢や風俗嬢といった女性たちによって語られるものもある。キャバクラ、ヘルス、SMクラブ…そこにいる男性たちに違いはあるのか?

――水商売や風俗業界にもいろいろな業態がありますが、それぞれ客の質は違うのですか?

鈴木:これは特徴ありますね。キャバクラは意外と客がパターン化していて、奇想天外な人は少ないです。

だいたい想定内みたいな。

でも、風俗はかなり奇想天外です。「誘うみたいにエロく踊って」と言われて、クラブミュージックに合わせて2時間踊り続けただけとか、「妻に見せたい」ということで夫婦の前で3Pをしたりとか。

――客層がそもそも違うのでしょうか?

鈴木:客層が全く違うというわけではないと思います。キャバクラは場内全体が見えるし、見られているから、社会性が高い場所ですよね。接待で使われるくらいですから。

風俗は個室でお互い裸になって1対1だから、個人的な領域の欲望が開花しやすいのだと思います。秘密が漏れない安全な場所だからこそ、ドロッとしたものを一気に出せる。

キャバ嬢同士の話って「こういう客いるよね」ネタで盛り上がるけど、そこまで面白い話は出にくいんです。すべらない話ならば風俗嬢ですね。そういう話をコレクションする子もいますよ。

――欲望コレクターですね(笑)。でも、男性同士では「風俗行ってこんなプレイをした」という話はあまり話題に出ないから怖いです。

鈴木:男性同士で見せている顔は実は真正面ではないと思いますよ。みんな変態な部分を抱えて、それを隠して、そういう場所で一気に解放している。

――嫌われる男性のタイプは共通しているのでしょうか?

鈴木:そうですね。さっきも言ったような、変にバランスが取れていない人。これは夜仕事に限らないことだと思うのですが、実力以上に大きく見せる人はどの世界でも嫌われやすいです。

あとは、いやに私のことを知ったかぶる人。女性に対して「君はこういうタイプの子だよね。でも僕は君の魅力をもっとよく知っているよ」って言う人(笑)。

――そういう男性、多くないですか?

鈴木:いるんですよ。多分、男性は「俺は他の男とは違うんだよ」っていうところを見せたいんだと思います。でも、私たちからすれば「他の男に見せていない部分をお前にも見せるわけないでしょ」って。

――男性が勘違いしちゃうってことですよね。これは怖い…。耳が痛い話ばかり聞いてきましたが、「ネタになる愛すべきおじさん」はいるのでしょうか?

鈴木:いますね。例えば、名言をよく口にするおじさんとか、さっきも言った「踊り続けてくれ」おじさんとか。嫌うほど私たちに実害がない男性は、ネタとして語られる「愛すべきおじさん」になりやすいです。

――なるほど。でもかなり際立ったネタを用意しないといけないですよね…。「愛すべきおじさん」への道は険しい…!

(後編に続く)