それでも今月からは練習拠点のグランドが開放され、数人ごとに自主トレができる環境にはなっている。「ボールを蹴られるだけでサッカー少年に戻ったような喜びを感じています」と守備陣の軸を担う中谷進之介が言えば、新人ながら開幕スタメンを勝ち取った成瀬竣平も「今までどうしてもコンクリートの上を走ることが多かったので、もともと膝のケガを抱えていた自分は気を付けてやらないといけなかった。今は芝の上を走れるのですごくいいですね」と前向きにコメントしていた。仲間と会ってちょっとした会話ができるだけでも気分的に明るくなるだろうし、チームの一体感も高まるに違いない。
今シーズンの開幕時点で1トップを任されていた前田直輝も「公園で毎朝6時からボールを触っていましたけど、芝生の上でできる喜びは格別。GKはいませんがゴールに向かってシュートを打つこともできているので、かなり楽しいですね」と嬉しそうに話す。
5月16日には特別企画「選手と話そう!」に自らの意思で2度目の登場。「背番号25は若い頃から背中を見て育った東京ヴェルディ時代の先輩・平本一樹さん(現町田強化担当)に憧れて、この番号にしています」「集合写真撮影の時に正面を見ないのは、松本山雅にいた20歳くらいの時にかわいがってもらった先輩・田中隼磨さんの真似をしているから。試合前からグッと入り込まず、精神的余裕を持つという意味もありますね」といった隠れたエピソードの数々を披露。参加者を大いに喜ばせていた。
この中で特に印象的だったのが、日本代表への想いを問われた時の回答だ。
「正直、グランパスに来る前までは『入れたらいいな』というくらいのイメージだったんですけど、Jリーグでもある程度の数字を残せるようになってきたので、『入らなきゃいけない』に少しずつ変わってきてるなと。もう25歳だし、若くもない。早く入らなきゃいけないという危機感が今はすごく強いので、サッカーをしたくてウズウズしています」と彼はストレートに語ったのだ。
東京Vの後、J1初昇格した松本山雅にレンタルで出され、横浜F・マリノス移籍後は思うように出場機会を得られず、再び赴いたJ2・松本山雅でも不遇の時を過ごすなど、2013年にプロになってからの人生は紆余曲折の連続だった。2018年7月に名古屋に完全移籍してからは出番が増えたものの、本人の中では「どこか突き抜けられない自分がいる」という思いが強かったのではないか。
名古屋に赴いたのとほぼ同時期に、森保一監督率いる日本代表が発足。
「翔哉とは小学校からずっと一緒に成長してきた仲なので、追いつけ追い越せじゃないけど、頑張りたいですね」と前田本人も語るように闘志を胸に秘めながらレベルアップに勤しんできたが、ここまで同じ日の丸をつける機会は訪れていない。同学年の南野拓実が得点源になり、年下の堂安律や冨安健洋が主力級へと飛躍している姿を見れば、「自分だってやれる」という闘争心が湧いてくるのも当然だろう。
「代表の試合を見てる時に『自分だったらこういうプレーをするな』とか『こういうプレーを求められているな』というのは考えますけど、まだどのポジションを狙いたいとか具体的なものはないです。確かに自分は右でドリブルするのは好きだし、右からのカットインは一つのストロングポイントだと思ってますけど、今はFWをやることもあるし、それ以外の幅を広げるために練習してるつもりです。今まであんまりやったことのないヘディングにも取り組んでる。
本人も言うように、名古屋でトライしているトップを自分なりに確立させられれば、新たな強みになるのは間違いない。森保ジャパンの最前線は大迫勇也(ブレーメン)依存症と言える状態にあるだけに、フレッシュな新戦力が出てくれば、指揮官にとっても朗報だろう。
「自分は1トップでは代表に入れないでしょう。グランパスでもサマになってないんだから」と苦笑いする前田だが、中断期間に加入した万能型FW金崎夢生のようなお手本も身近にいる。
「コロナの影響で試合がない間も『毎日うまくなりたい』と思って、ペースを落とさずトレーニングしてきた。むしろこの期間は『差をつけるチャンスだ』と思って、三密を避けながら、右足のリフティングとか壁打ちの練習をしてました。『中断期間に落ちた』と思われないようにいいプレーを見せること。そこからまずやっていきたいです」
常に前向きに高みを目指し続ける25歳のレフティー。ここからの彼に託されるのは、昨季の9ゴールを超える2ケタ得点だ。