関ジャニ∞の村上信五とマツコ・デラックスがMCの『月曜から夜ふかし』(日本テレビ系)で一躍、株主優待の第一人者として大ブレークした、桐谷広人さん。有効期限内に優待券を消費するために、自転車を猛スピードで運転している姿をメディアで見た人も多いことだろう。

 自身の投資テクニックを解説した新刊、『一番売れてる月刊マネー誌ZAiと作った桐谷さんの株入門 改訂版』(ダイヤモンド社刊)が発売即増刷するなど、いま注目の桐谷さんに、お金への価値観やプライベートについて聞いた。

「絶好調のときほど天狗になるな」株人生の教訓



株主優待の桐谷さん“二度の大損を経た”資産5億円超への軌跡「...の画像はこちら >>

桐谷広人さん(撮影/山本祐之)

――35歳のときに株の売買を始めて現在、投資歴は40年弱になります。株人生で得た教訓を教えていただけますか。

桐谷広人(以下、桐谷):「絶好調のときほど“天狗”になるな!つねに謙虚であれ」です。株の売買に限らず、多くの人に当てはまる言葉ではないでしょうか。藤井聡太棋士もつねに謙虚であるからこそ、史上初の八冠全冠制覇を達成できた。

一方の私は、「資産が2億円になった」「3億円になった」と自慢するたび、悲劇に見舞われましてねぇ。
ピークに達して「自分は株の天才だ!」と有頂天になった直後、奈落の底に突き落とされてきたんですよ。しかも二度も。

――最初は1990年の、バブル崩壊直後でしたよね。

桐谷:金融資産は全部で2億円ありましたけど、株で1億円すってしまいました……。儲けたぶんは自分の金だ! という思いがあるからかなり心身ともに大打撃を受けて。購入銘柄の現状価格を考えると夜眠れない、睡眠不足だからプロ棋士なのに将棋もベタ負け。


現金と株式を担保に証券会社から金を借りる、信用取引に手を出したのもいけなかった。追証(おいしょう)を食らうハメに陥ったんです。

――追証とは?

桐谷:担保不足になると、追加分の保証金が必要になることを意味します。パソコンの画面が黄色いと、そろそろ危ないという「警告」。真っ赤になると、数日以内に金を支払うか株を売るかの「指示」をされます。

「やってられるか!」という思いで忘れもしない1990年9月の28日の金曜日、不足分の証拠金をすべて差し入れ終えて1年ほど、株の売買はお休みしました。


二度目の奈落の底で3億円が3000万円に



――また株の売買を始めた経緯は。

桐谷:「喉元過ぎれば熱さを忘れる」ってやつですね(笑)。普段はかなり上手なほうなので、徐々に取り戻せたらいいかなと思ったんです。少しずつ株資産が増えていって、2006年には小泉郵政相場で金融と株資産合わせて3億円ほどになりました。

――その後、2009年にリーマンショックが起きました。

桐谷:私にとっては、二度目の奈落の底です。総資産3億円が一転、信用取引分を精算すると3000万円ほどになってしまいました。


当時は年金の納付も滞りがちで、株資産がなくなれば老後の収入も心もとない。後日、未納だった年金の納付金を妹が貸してくれたんです。恩返しを期待していたわけではなかったんですけど、将棋の養成所時代、コツコツ貯めた2万円を送金したり、プロになってからは妹の奨学金を肩代わりしたからかもしれません。

でも、まだ年金をもらえる年齢ではなかったし、2007年にプロ棋士を引退していたから定期収入もない。毎日数百万円、数千万円単位の追証を食らうから、時給で働くアルバイトをする気にもなれない。一方で配当金は、家賃13万円に届くか届かないかというレベルだったので、超ド貧乏生活でしたね。


病院に行く金もないから、持病の糖尿病の薬は、治験のアルバイトでもらっていました。食生活は株主優待でもらったお米券を手に、スーパーでお米と惣菜を買うとか。バブル崩壊のときと同じで、夜寝ても1時間ほどで起きてしまう。そしてパソコンとにらめっこをして、株価を一晩中眺めている。今考えると“株うつ”状態だったのかもしれません。でも、優待のおかげで何とか生き延びることができたので、2009年からは株主優待と配当で生計を立てると決めたんです。


調子がいいときほど、信用取引に手を出しがちです。「自分の金で株を売買して儲かるんだから、証券会社から金を借りて手を広げればさらに儲かるはずだ」と。ですが、私が何度も追証を食らったように、信用取引はリスクが高い。自分が動かせる範囲の、少額から始めることを強くオススメしたいです。

株主優待の桐谷さん“二度の大損を経た”資産5億円超への軌跡「3億円が3000万円に…株うつ状態でした」
桐谷広人

『一番売れてる月刊マネー誌ZAiと作った桐谷さんの株入門 改訂版』(ダイヤモンド社)



独身を貫いてるわけではないんです



株主優待の桐谷さん“二度の大損を経た”資産5億円超への軌跡「3億円が3000万円に…株うつ状態でした」
桐谷広人

撮影:山本祐之

――肝に銘じておきます。桐谷さんは一極集中投資ではなく、分散投資ですよね。その理由もお伺いしたいです。

桐谷:小学生時代、手塚治虫先生の『鉄腕アトム』を読みまして。確か、『宇宙ヒョウの巻』だったかなぁ。宇宙から来た未知の生物が、地球を侵略しようと目論むんです。未知の生物を全部叩き潰したのが大型ロボットなんですが、実は大型ロボットは小型ロボットの集合体だったという結末でした。小さなものをいくつも持っていたほうがいいという手塚先生の考え方を、株にも応用しています。

――プライベートなお話も。現在一人暮らしですが、メリットとデメリットを教えてください。

桐谷:メリットは好き勝手に自由を謳歌できること、デメリットは炊事洗濯が大変というところですかね。

私、独身を貫いているわけではなくて結婚はしたいんですよ。人生で一度も恋愛した経験がないから、好きな人と結婚したいです。もし結婚したら妻との時間も作らなきゃいけないから大変になるのはわかっているけど、結婚したいです。

優待品と株関連の書類に囲まれて



――パートナーにされたら困ることはありますか。

桐谷:私が知らないときに、勝手に株関連の書類を片づけられたら困ります。テレビ番組のスタッフさんが年に一度大掃除をしてくれてありがたいのですが、書類がどこに行ったかもわからなくなってしまう。80平米の部屋は優待品と株関連の書類で山積みですが、書類がどこに置いてあるのかは大体、把握しているんです。敷布団の上やシーツの上にも書類が置いてあってかきわけて寝る状態ですが、崩したらわからなくなってしまいます。

 優待品と書類の山で、結婚したらどこに妻を住まわせるのか……。自分で自分が悩ましいです(笑)。

株主優待の桐谷さん“二度の大損を経た”資産5億円超への軌跡「3億円が3000万円に…株うつ状態でした」
桐谷広人

『一番売れてる月刊マネー誌ZAiと作った桐谷さんの株入門 改訂版』(ダイヤモンド社刊)より

 生活費は配当&優待品でまかない、株資産を切り崩すことなく資産形成を続けた桐谷さん。近年の株価高騰の恩恵も受け、現在の総資産5億円は超えている。語り口は飄々としながらも、二度の失敗からくる“謙虚”さは言葉の節々に感じられた。

きりたに・ひろと
1949年10月15日、広島県竹原市生まれ。365日株主優待と配当で生計を立てる投資家。プロ棋士七段。バブル絶頂期の1984年に株を始め、バブル崩壊やITバブル、リーマンショックなど相場の浮き沈みを経験。資産は5億円超。

<取材・文/内埜さくら>

【内埜さくら】
うちの・さくら。フリーインタビュアー、ライター。2004年からフリーライターとして活動開始。これまでのインタビュー人数は3800人以上(対象年齢は12歳から80歳)。俳優、ミュージシャン、芸人など第一線で活躍する著名人やビジネス、医療、経済や一般人まで幅広く取材・執筆。趣味はドラマと映画鑑賞、読書