鹿児島市から南に約135km。樹齢2000年代~7200年とも言われる縄文杉や九州最高峰の宮之浦岳(1,936m)など、太古の大自然が今もなお残り、日本で初めて世界自然遺産にも登録された「屋久島」。

 そんな神秘の島に一人で移住し、山小屋でのたくましい暮らしぶりをYouTubeチャンネル「すずの田舎暮らし」(サブチャンネル「すずの音チャンネル」)やSNSで伝えているのが、独身女子のすずさん。前回に引き続き、屋久島での暮らしの実情や魅力、今後の展望などを聞いた。

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最初は視聴者を意識せずに投稿していたが…

――現在の収入の内訳はどんな感じですか?

すず:農園のバイトで得る収入がメインです。将来的にYouTubeチャンネルが伸びて、ある程度の収入が入ってくるようになれば理想なのかもしれませんが、今は登録いただいた視聴者の方が楽しんでもらえる作りにしていきたいな、と思ってやっています。

――最初は視聴者を意識せずに投稿していたそうですね。

すず:そうですね。「自分の思い出として残していこう」といった意識でやっていたので、視聴者の目は意識せずに漠然と投稿していました。なので、登録者数が増えていた時に、「あ、増えてる! えっ誰かが見てるんだ!?」って思ったりしてしまって(笑)。

――動画やSNSの投稿を見ていて、すずさんが海岸の岩場に倒れ込んでいるシーンがインパクトがあって面白かったのですが、あれは“自然と一体になる”みたいなイメージなんですか?

すず:ちょうど動画を撮っていた時に足を捻挫していたんです。それで歩くのがしんどかったのですが、それでも「海の中は見たいな」と思っていました。そこであの体勢をしてみたら思いのほか楽だったので(笑)。私がコロッと転がっている感じが視聴者の方からもけっこう好評だったので、たまに倒れ込んでいます。

日々の暮らしが「ネタの宝庫」

――動画はありのままの日常を伝えるVlogのような感じですが、今後も方向性は変わらない?

すず:そうですね。わざわざ企画を練らなくても日々の暮らしがネタの宝庫という感じなので(笑)。
今住んでいる山小屋もYouTubeの企画のために借りたわけではなく、もともとこういう家で生活したいなと思っていましたし。

それと、私は色々とできないことが多いのですが、「できないのにがんばっている」という姿も伝えたいんです。移住したての頃は「都会から来た人はどうせすぐに帰るでしょ」「自然をなめている」といったコメントなどをいただくことも多かったのですが、それでも頑張って暮らしているということを伝えていきたいんです。

――すずさんをアニメのキャラクターに例えるコメントも寄せられていました。

すず:『ハイジ』(アルプスの少女ハイジ)とか『サン』(もののけ姫)とか、あと借りぐらしなので『アリエッティ』(借りぐらしのアリエッティ)と言われたりもしていますね(笑)。

――言い得て妙ですね(笑)。ちなみに、すずさんのYouTubeチャンネルには『すずの音チャンネル』と『すずの田舎暮らし』という2つのチャンネルがありますよね。どのように棲み分けているのですか?

すず:『すずの音チャンネル』は特にテーマを設定しないサブチャンネルの位置づけで、趣味の山登りだったり、旅行に行った時などに撮った動画を投稿しています。『すずの田舎暮らし』に投稿しているのが屋久島での暮らしですね。川風呂に入ったり、住んでいる山小屋のDIYをしたり、釣りに行ったり……島ならではの暮らしぶりをお伝えしています。

「娘のことだと思って応援しています」というコメントも

屋久島に移住した独身女性が“苦労する”ことは…たまに東京に行くと「SFの世界みたいに感じます」
視聴者に「支えられている」と感じるそうだ
――山登りが趣味とのことですが、ヒマラヤ山脈のエベレスト街道にも挑戦されていましたよね?

すず:屋久島に移住する前までは一人で山に行くことなんてなかったのですが、屋久島に来てから一人で山登りをしたことがあって、「一人でも登れるんだ」と自信を持てたんです。それで、エベレスト街道にも挑戦しようと(笑)。エベレスト街道にある『ゴーキョ・ピーク(5,360m)』という展望地までたどり着くことができました。
本当に命がけだったのですが、生きていく上でさらに自信が持てたというか、最高の経験でした。

――動画に寄せられているコメントを見ると、すずさんを応援されている方がすごく多いなという印象です。すずさんにとって視聴者はどんな存在ですか?

すず:私はもともと人に話したり説明したりすることが苦手なので、「動画で私のことを伝えられれば」という思う部分もあるんです。なので、動画を見てくださった方から「勇気をもらいました」などとコメントをいただけたりすると、やっていてよかったなと思ったり。最初は「誰も応援してくれないだろうな」と心のどこかで思っていたりもしたのですが、今はすごく応援してもらっているので、視聴者の皆さんは自分にとってありがたい存在ですし、支えられているなと感じています。

――視聴者の男女の比率は?

すず:男性が6割、女性が4割です。

――女性の視聴者も多いですね。

すず:そうなんです。最初は男性が9割、女性が1割ぐらいになるんじゃないかと知人から言われたのですが、意外と女性の方にも見ていただけているんだなと。「娘のことだと思って応援しています」とコメントをいただくこともあって、お会いしたことがないけど“お母さんがいっぱいいる”みたいな感じです(笑)。視聴者の方からの温かいコメントを見ていると、目がうるうるしてしまうんです。

水が美味しくて、お酒の割り水としても最高

――ちなみに生活についてお聞きしたいのですが、水道光熱費はどんな感じですか?

すず:水道料金は水道管が通っていないのでかかりません。水をくみ上げるための電動のポンプを川に投げ込んでいます。
飲み水も川からくみ上げているのですが、フィルターを付けてろ過してから飲むようにしています。水は本当に美味しくて、お酒の割り水としても最高です。屋久島産の『三岳』という芋焼酎が安くて手に入りやすいので、それを毎日水割りで飲んでいます。

 鹿児島県など南九州の方言で、『だれやめ(一日の疲れを晩酌でリセットするという意味)』という言葉があると地元の方から聞いたのですが、それを実行している感じですね(笑)。

――屋久島の水で割る地元の焼酎は美味しそうですね。ちなみに光熱費は?

すず:電気代は2千円ぐらいです。ガスは屋久島ではどこのご家庭もプロパンガスなのですが、私は契約していないのでカセットコンロを利用しています。カセットボンベを毎月3缶ぐらい使っているので千円ぐらいですね。あと、お湯を沸かすと結構ガスを消費してしまうので、電気ポットでお湯を沸かしています。

 それと、トイレが汲み取り式なんです。まだ業者が汲み取りに来たことがないのですが、たまって汲み取りをするとなれば、たぶん5千円ぐらいかかるんじゃないですか。一般的に1~2ヶ月で汲み取りに来てもらうようですが、私は農園のバイトをしたり家にいないことも多いのでたまるのが遅いほうだと思います。


朝5時に起きて、7時からアルバイト

屋久島に移住した独身女性が“苦労する”ことは…たまに東京に行くと「SFの世界みたいに感じます」
愛犬と。今や欠かせないパートナーだ
――1日の生活の流れはどんな感じですか?

すず:朝5時ぐらいにロン(愛犬)に起こされて散歩に行き、散歩から帰って来たらアルバイト先の農園に向かいます。夏は農園のアルバイトが始まる時間が早くて7時から始まり、夕方の5時ぐらいには帰宅しています。

――アルバイトの休憩は?

すず:11~12時ぐらいから13~14時ぐらいは太陽が真上にあって仕事ができないぐらい暑いので、川に行ったり昼寝をしたりしています。その時間が休憩という感じですね。

――帰宅後はどのように過ごしていますか?

すず:動画の編集をしたり、食事をしたり、お酒を飲んだり……ほとんどの日がそんな感じです。パソコンで映画とかドラマを見始めると楽しくなってきちゃって寝るのが遅くなる日もあるのですが、平均的に22時~23時には寝ています。

休みの日は悠々自適に過ごす

――アルバイトが休みの日は何をしていますか?

すず:散歩をしたり、動画を撮ったり、友達とランチを食べに行ったりしています。あと山登りが好きなので、晴れている日に山に行くこともあります。

――動画の編集は屋久島に移住される前からされていたのですか?

すず:そうですね。Final Cut Pro(ファイナルカットプロ)で編集をしています。撮影に関しては長尺の動画は全部自分で撮っていて、ショートムービーやリールは友達に協力してもらって制作しています。過去の自分の動画を見ることが多くて、「この時はこんなことを思っていたな」と振り返ったりすることも多いです。

今は逆に、東京が別世界みたいな感じ

屋久島に移住した独身女性が“苦労する”ことは…たまに東京に行くと「SFの世界みたいに感じます」
以前は屋久島が“非日常”だったが…
――移住前と移住後で屋久島のイメージは変わりましたか?

すず:旅行で屋久島に来ていた時は、それこそ“非日常”という世界でした。ただ、今は逆に東京が別世界みたいな感じです(笑)。たまに東京に帰ると「なんかSFの世界みたいだな」と。
東京も屋久島も同じ時代に存在しているけど、全く違う世界という感覚です。東京から見れば島の暮らしは現実逃避ができるし、のびのびできて……というイメージかもしれませんが、実際に住むと大変なことも多いですよ。

――例えばどんなことですか?

すず:ちょっとしたことでも噂になったりするんです。友達や仕事関係の方と一緒に車に乗っていたりするだけで、「付き合っているんじゃないか」と噂になってしまったり…。以前、私が男友達と一緒にいた様子を見た方が心配して、私が住む家の大家さんに電話をかけてきたこともあって。大家さんから「変な男と付き合っているみたいだけど大丈夫なのか?」と言われたり……。

 それと、普通の食事だと思っていたらお見合いだったこともありました。私以外にもそういう話は聞きますね。そういうことが嫌で島から出て行ってしまう人もいたりするようです。

――島暮らしの苦労を挙げるとすれば、そういった精神的な部分?

すず:私の場合はそうですね。虫がたくさんいるので「大変だな……これは無理」と思ったこともあるのですが、冬になれば虫は出てこないじゃないですか。でも、人間関係ってずっと続くものだし、だからこそ難しい部分なのかなと。


移住してから「物事をはっきりと言えるようになった」

――今後の夢やビジョンはありますか?

すず:今は自分が周囲の方々に助けられてばっかりで……。最初に屋久島に来た時、何も持たずにノープランで来たので、「私って野垂れ死んじゃうのかな」と思ったりもしていましたが、いろいろな方が助けてくれたんです。働く場所がなくてお金がなくて困っていたり、車のタイヤがパンクしたり、転んでケガをしたり。そういう局面で不思議と助けられることが多いんです。

 でも、この先もずっとそんな感じじゃ良くないですし、逆に私が困っている人を助けられるぐらいの余裕のある生活を送れるようになりたいな、恩返しをしていきたいな、という気持ちがあります。

――すずさんにとって屋久島とは?

すず:すごく魅力的な島です。いい人が多いですし、みんな白黒はっきりしていて曖昧な受け答えがないんです。もともと私はあまりはっきりしない性格で、結構考え込んでしまうタイプだったのですが、屋久島に移住してからは物事をはっきりと言えるようになりました。住み心地の良さはもちろん、人間的な成長も促されているというか、そんな感じがします。

<取材・文/浜田哲男>

【浜田哲男】
千葉県出身。専修大学を卒業後、広告業界を経て起業。「ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)」の取材をはじめ、複数のスポーツ・エンタメ・ニュース系メディアで連載企画・編集・取材・執筆に携わる。X(旧Twitter):@buhinton
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