「地主」と聞くと、広大な土地を持つ裕福な資産家というイメージを持つ人も多いかもしれない。実際、地主とはどのような人たちなのか? また何から収入を得ているのか?
『借地の真実』(マネジメント社)などの著書を持ち、「地主の参謀」として地主専門のコンサルティングを行う松本隆宏さんと、資産税専門のコンサルティング・ファームであるタクトコンサルティングの髙木駿さんに「地主とはどのような人たちなのか」を聞いた。
二人とも地主の家系に生まれ、地主について精通している。ともすると、土地持ちで悠々自適な暮らしをしているイメージのある地主だが、必ずしも経済的に余裕があるわけではなく、地主ならではのさまざまな悩みや課題に直面しているという。
「地代」や「家賃」が主な収入
――地主というと田舎で広い土地を持っている地元の名士というイメージがあるのですが、そもそも「地主」とはどのような人々なのでしょうか?髙木:一般的に「地主」を定義しようとすると、所有する土地を貸し付けて、地代収入を得る人のことを指します。江戸時代や明治時代など、先祖代々昔からの土地を引き継いできている家系が多いと思います。また、エリアは地方だけでなく、中には東京の一等地の地主さんもいます。
松本:私たちの祖父母くらいの世代が不動産を大量に買って、息子、孫へと受け継いでいる比較的新しい世代の地主もいます。割合でいうと、やはり先祖代々の土地を受け継いでいる方が多いと思います。

髙木:そもそも不動産は、土地と建物に分かれます。地主で一般的に多いのは、地主が所有している土地を貸し出し、その土地を借りた借地人が自身の自宅を建てているケースですが、借地人がマンションやアパートなどを建てているケースもあります。借地人がマンションやアパートなどの収益物件を建てているケースでは自分が所有する収益物件から「家賃収入」を得ることができ、地主は土地を貸している対価として「地代」をもらうことができます。
松本:地主は、所有している土地を貸して得る「地代」や、地主自身が収益物件を建てて得る「家賃」が主な収入源と言えますね。
私も地主家系の長男で、地主に共通する悩みを多く見てきました。地主の家系は「守る意識」が非常に強く、外部の情報を警戒しすぎる傾向があります。そのため、専門家のアドバイスを受けずに問題を抱え込んでしまうケースが多いですね。
髙木:「誰々が騙されて財産を失った」といった失敗談が広まりやすいので、慎重にならざるを得ないのでしょうね。実際に相続争いで泥沼化したケースや、不動産投資に失敗した話も少なくありません。
親が亡くなると兄弟間の関係も変化します。結婚して配偶者が加わると、それぞれの家庭の経済的な価値観が違うため、主張の衝突も起こりやすい。結果として、遺産分割や資産運用においてトラブルが発生しやすくなります。
――具体的に、どのようなトラブルが多いのでしょうか?
髙木: 昔は原野商法といって、「この土地は将来開発されるから値上がりする」と言われて購入し、今も更地のままのケースもあります。私の顧客の中にも、過去にそのような土地を購入してしまい、現在も北海道や富士山麓の土地を持っている方もいますが、ほとんど活用されていません。
ほかにも賃貸需要があまりないエリアで一部のハウスメーカーからの提案を鵜吞みにして収益物件を建築してしまい、稼働状況がよくない“負動産”となってしまっているケースも散見されます。
松本:地主は「資産家」と見られやすいので、さまざまな投資話や保証人の依頼が舞い込みます。私の祖父も、騙されて契約書にサインしてしまったことがありました。このような苦い経験があるのも、ウチだけではないのではないでしょうか。
実は資金に苦心している地主は多い?
――親や先祖代々の土地を受け継ぎ、人生安泰のイメージがある地主ですが、地主の課題にはどのようなものがあるのでしょうか?髙木:地主に多いのは、先ほど申し上げたような、自分の土地に別の人(借地人)がマンションやアパート、戸建てなどを建てているケースです。一番収益性が高いのは、建物を持っていることなんですね。
ですから、地主からすると、なるべくその借地人からこの土地の権利を買い戻して、完全所有権にして、建物も自分で建てたほうがいいんです。ただ、当然ですが、その建物を持っている建物所有者、借地人さんがいると「どいてくれ」とは言えません。
松本:土地を持っていて貸し出していても、実はそれほど収益は上がらないですし、毎年の固定資産税も払わなくてはいけないですし、相続するときには相続税もかなり取られるので、土地を完全所有権にするなどして、その権利を調整することが必要になります。
髙木:そうですね、権利関係が調整できて完全に自分の所有になってから、自分でアパート、マンション、戸建て貸家などの建物を建てて貸し出すと収入が増え、しかも安定するので、そういったしっかりとした土地活用ができれば一番理想的ですね。

髙木:例えば、もともと農家で土地をたくさん持っていた地主が、その土地を貸してあげていたとします。借地人がそこに建物を建てて、今その土地の価値が1億円になっているとしましょう。
この場合には、建物を持っている借地人に借地権(地代を支払うことで一定期間土地を利用する権利)が帰属することになり、その価値は場所によっては土地の価値の6~7割相当にもなります。つまり、土地を貸していたのに、地主がその土地を買い戻そうとすると、6000万~7000万円を借地人に払って買い取らないと自分の所有権にならないんです。
松本:古い地主さんだとこのようなケースが複数あってなかなか大変なので、髙木さんのような不動産に特化してコンサルティングをする税理士や専門の不動産業者などのプロの方が入って、「組み替え」といって借地人さんと交渉して、土地の権利関係を調整する必要があるんです。
髙木:そのような借地を数十件と持っている方だと、どんなふうに組み替えていけばいいのか、もう手の付けようがないケースもあります。そこで、「ここは買い戻して自分で収益物件を建てよう」とか、「逆にこっちのエリアは売って、別のエリアに資金集中させて収益の安定化を図りつつ、管理しやすいようにまとめよう」とか、大きな絵を描いてあげてあることが大事になります。
松本:この土地を売った資金でこっちの土地を買い戻すとか、銀行の融資を受けてマンションを建てたり、大局を俯瞰することで、地主にあった解決策を考える人が必要になります。
髙木:最初の状況からすると所有する土地の総面積は減るかもしれませんが、「収益力」は逆に上がるようなことも往々にしてあります。
地主に寄り添い、プロフェッショナルをまとめる専門家の重要性
――地主が持つ「守る意識」が強すぎることで、どんな課題が生じるのでしょうか?松本: 変化を嫌い、古い価値観にとらわれてしまうことですね。例えば、ある地主が「借金は悪いもの」と決めつけ、新しい不動産投資のチャンスを逃してしまうケースがあります。また、「うちにはアドバイスをくれる顧問税理士がいるから大丈夫」と思い込んでいる人も多いですが、その税理士が不動産や資産運用、資産形成に詳しいとは限らないですよね。
髙木: 実際に、税理士の業務は申告書の作成が中心であり、資産運用のアドバイスまではしないことがほとんどです。私たちのように相続や事業承継に特化した税理士法人では、地主ファミリーの中長期的な意思決定をサポートする役割を担っています。
松本:地主は税理士、弁護士、銀行・金融機関、不動産業者、建設業者など、それぞれの専門家と連携し、総合的な戦略を立てる必要があります。ただし、それを統括する存在がいないと、各専門家がバラバラに動いてしまう。私たちがその「指揮者」として、地主が最適な意思決定をできるようサポートする立場の存在が重要だと考えています。地主が今後も資産を守り、発展させていくためには、専門家との適切なパートナーシップを築き、時代の変化に適応していくことが不可欠ですね。

ライフマネジメント株式会社代表取締役。高校時代は日大三高の主力選手として甲子園に出場し、東京六大学野球に憧れて法政大学へ進学。大学卒業後、住宅業界を経て起業。「地主の参謀」として資産防衛コンサルティングに従事し、数々の実績を生み出している。最年少ながらコンサルタント名鑑「日本の専門コンサルタント50」で紹介されるなど、プロが認める業界注目のコンサルタント。そのほか講師、作家、ラジオパーソナリティとしても活躍中。
髙木 駿
公認会計士・税理士。税理士法人タクトコンサルティング所属。慶應大学法学部卒業後、有限責任監査法人トーマツに入社。IPO支援や監査業務に従事した後、税理士法人タクトコンサルティングに入社。事業オーナーや地主・不動産オーナーを中心に資産税に関する幅広いコンサルティング業務(問題抽出から対策の立案&実行)を行う。信託銀行やデベロッパー、ハウスメーカーの税務相談顧問も多数。
<取材・文/日刊SPA!編集部>