―[佐藤優のインテリジェンス人生相談]―

人生100年時代、不安な老後資金を貯めるべく、節約しながら日々マジメに働き、資産形成に勤しむ人は近年増えてきた。しかし、いざ実際に使おうとしても、無趣味の寂しいおじさんになっているもの。
そんな悩める読者から今回はハガキが届いた。「倹約と投資、仕事に励んだ無趣味の自分はどうお金を使えばいいのか」ーー。経験豊富な“外務省のラスプーチン”と呼ばれた諜報・外交のプロ・佐藤優がその悩みに答える!

貯めたお金の使い方がわかりません

★相談者★老いの独学(ペンネーム) 農業 57歳 男性

仕事→倹約→投資で生まれた無趣味の「カネ余りおじさん」の正し...の画像はこちら >>
お金の使い方がわかりません。若い頃から仕事に励み、倹約と投資に努めてきたこともあって、それなりの額の資産を形成することができました。これから先、お金に不自由はしないで済みそうですが、逆に何にお金を使ったらよいのかわからなくなりました。お金を使う場面になると、節約する方法を発想するのがいつもの習慣になっています。振り返ると、仕事にかまけて、人付き合いも家族までも犠牲にして蓄財してきました。今さら、他人のためにお金を使おうという気持ちにはなれません。グルメにもおしゃれにも車にも大して興味がなく、酒・タバコ・クスリもやらず、大けがもせず持病もありません。私のような人間に向いている、お金の有益な使い方を教えてください。

佐藤優の回答

 努力してお金を貯めたあなたは立派です。一方で、お金を使いたいと考えているのもとてもよい傾向です。通常、ある程度のお金を貯めた人はもっと貯めたいと思い、使えなくなるからです。


 お金はそもそも商品を交換する過程で、便利だから生まれたものです。お金があれば、欲しい商品が手に入ります。そこから、お金があれば何でも手に入るという考えが生まれてきます。マルクスはこれを物神崇拝(フェティシズム)と名づけました。フェティシズムとは、石や人間が作った細工物を神のように拝む現象を指します。

 これとの類比で、マルクス経済学では貨幣に物神的性格があると説きます。マルクス経済学者の宇野弘蔵はこんな説明をしています。

〈貨幣は、一般的には商品に対して直接交換可能性を独占するものとして、商品経済的富を代表するものとなるわけで、本来のフェティシズムのような幻想的なものではありません。それは商品経済を永久的なものと考える幻想とともに幻想となるわけですが、しかし商品経済の社会にあっては、単にそれを礼拝すれば災を免れるというような霊力をもつのではなく、それをもっていなければ生活資料をも手に入れることができないという特殊の「霊力」をもつものになるのです。〉(『資本論の経済学』115頁)

 吝嗇(りんしょく)で、ひたすらお金を溜め込む人は、物欲が無限大に拡大している物神崇拝にとらわれている人です。しかし、あなたは貨幣(お金)の物神性にとらわれていません。

 まず、お金の使い方について考えるために、奥様と2人でクルーズ船のセミスイート以上の船室に乗って、世界一周をしてみることをお勧めします。
2000万~3000万円くらいかけてクルーズをする過程で、何か欲しいものがあるか考えてみましょう。欲しいものが出てきたら、それを買えばいいと思います。

 何も欲しいものが見つからなかった場合は、農業高校や高校の園芸科出身の生徒を対象に、大学の農学部に進むための給付型奨学金に充てたらいかがでしょうか。あるいは、農業関連の起業をする学生を応援するのもいいです。そのベンチャーが成功して上場した場合は、株の一部をあなたが受け取るストックオプションをつけておくといいでしょう。

 その場合、かなりの利益が出ます。その利益をまた、未来の農業者への支援に使っていけばいいと思います。こういうことのためには、お金はいくらあっても足りません。だから、お金の使い方がわからないというあなたの悩みも解消します。

★今週の教訓……奥様とクルーズ旅行に行ってみましょう

仕事→倹約→投資で生まれた無趣味の「カネ余りおじさん」の正しいお金の使い方/インテリジェンス人生相談 佐藤 優
マルクス経済学の大家が、資本主義の経済法則、経済学と唯物史観などの基本的理論を説いた一冊。レーニンの帝国主義論やスターリン論文にも言及。1969年刊
※今週の参考文献『資本論の経済学』(宇野弘蔵 岩波新書)

―[佐藤優のインテリジェンス人生相談]―

【佐藤優】
’60年生まれ。’85年に同志社大学大学院神学研究科を修了し、外務省入省。在英、在ロ大使館に勤務後、本省国際情報局分析第一課で主任分析官として活躍。
’02年に背任容疑で逮捕。『国家の罠』『「ズルさ」のすすめ』『人生の極意』など著書多数
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