審理が行われている101号法廷は傍聴席が67あり、一般傍聴席が34で、記者席は約30。
フリー記者にも認められた記者席
今回、筆者は傍聴券を求めて並ぶ必要がなかった。10月10日、来年1月21日の判決までの全公判(予備日含め19回)の記者席の申請をしたところ、地裁の総務課広報係長から24日、「記者席での取材を認める」という電話があった。裁判所内にある司法記者クラブのメンバー以外のフリー記者に記者席が与えられるのは極めて異例だ。筆者の隣に座ることの多い鈴木エイト氏は小学館の枠で記者席を申請し認められている。地裁の決定の経緯はブログ「浅野健一のメディア批評」に公表した。
事件発生と山上被告の逮捕から3年3カ月後にやっと始まった裁判員裁判。13日(木)に開かれる第7回公判では、山上被告人の母親が証言する。本裁判は最初の大きなヤマ場を迎える。母親は今も世界平和統一家庭連合(統一協会)の影響下にあるとされる。統一協会は母親の記者会見を行う動きを見せていたが、結局実現されなかった。母親が公の場で事件について語るのは、毎日放送(JNN系)記者の短い取材以外ない。
また、山上被告と面会を重ねているとされる妹も証言する可能性がある。弁護側は親族を含め、旧統一教会に詳しい宗教学者、統一協会の高額献金問題に取り組んでいる弁護士など、合わせて5人への証人尋問で立証し、刑を軽くするよう訴える方針だ。本稿では、第7回公判の前に、これまでの公判の様子や筆者が感じたことを改めてまとめてみる。
警察関係者、医師の証言
初公判では、被告人の認否、検察・弁護双方の冒頭陳述が行われ、第2回公判から検察側の立証に入り、目撃者として安倍氏の隣にいた佐藤啓参院議員(現官房副長官、奈良選挙区)が最初に証言台に立った。その後、奈良県警の警察官・研究員の計4人と安倍氏の遺体を司法解剖した粕田承悟・奈良県立医科大学教授(法医学)が証言し、安倍氏の持病とされた潰瘍性大腸炎の痕跡はなかったという指摘もあった。警察官の証言で、山上被告が逮捕された直後に「当たったか」と警官3人の前でつぶやいたことや、安倍氏の近くにいた自民党関係者の髪を銃弾がかすめたなどの新事実も明らかになった。検察側は犯行に使われた手製銃や現場で見つかった鉛玉などが裁判官・裁判員に示された。押収された手製銃7丁に殺傷能力があったとする実験の動画もモニターに出された。検察、弁護側の双方が裁判員に呼び掛けることも多くあった。裁判では、刑の重さが争点だ。
裁判の事件名は「殺人、銃砲刀剣類所持等取締法違反、武器等製造法 違反、火薬類取締法違反、建造物損壊被告事件」と異常に長い。山上被告が現場で現行犯逮捕された2日後、松本恒平弁護士(奈良弁護士会)が接見した。
裁判では法廷外の壁に開廷票が掲示されるが、事件番号と罪名、被告人・裁判長・書記官の氏名しか記されておらず、陪席裁判官2名、当事者である検察官・弁護人の氏名はない。
統一教会の高額献金と自民党との関係
事件後、山上被告の母親が世界平和統一家庭連合(統一協会)の熱心な信者で、1億円を超える献金をして家庭が崩壊し、山上被告は「統一協会トップが日本に来たときに、殺そうと思っていたが、来ないのであきらめ、統一協会の宣伝をしている政治家の安倍氏を狙った」と供述しているとされる。この事件で、統一協会の高額献金は、国会でも問題になり、今年3月には、東京地裁が解散命令を決定し、現在、東京高裁で審理が続いている。
筆者は22年8月以降、被告に手紙や著書、記事などを郵送したり、弁護士の伯父を訪ねるなど、山上被告の裁判に強い関心を持っている。それは、この事件で、統一協会が日本で布教を開始した際、安倍氏の祖父、元A級戦犯の岸信介元首相が全面支援し、その後、半世紀にわたって自民党が統一協会と一体だったことが明るみになったからだ。
この事件では、精神鑑定が長引き、9回公判前手続きを経て、拘束から3年3カ月後に初公判を迎えた。民主主義国ではあり得ない異常な事態だ。筆者は古川、小城両弁護士に取材し、日刊SPA!に<安倍氏殺害の山上容疑者「精神鑑定で4か月も留置」は口封じの政治的拘束か>というタイトルで記事を書いている。
思索を重ねて達観した哲学者のように見えた
山上被告を起訴したのは奈良地検で、裁判は奈良で行われるのに、身柄は大阪拘置所に移されたままだ。弁護団は奈良の拘置所に移送を求めているが、認められていない。異例の対応といえる。
山上被告の入退廷では、制服姿の頑強な拘置所係官が5人も付き添い、手錠を掛け、腰縄を付けられている。先に着席している田中裁判長が「拘束を解除ください」と促し、手錠などを外す。裁判員、傍聴人に手錠姿の被告人を見せるのは不適切ではないか。山上被告が弁護人の隣に着席すると、係官の一人が後方に密着し、ずっと威圧しているように見えた。
無罪を推定されている被告人の手錠の扱いを法廷外で行う裁判体もあるので、改善してほしい。山上被告は初公判で起訴事実を「すべて事実です。
初公判の閉廷後、弁護人二人が囲み取材に応じた。受け答えを聞いていて、しっかりした弁護団だと改めて思った。ラジオ・フランスの西村カレン記者が「検察は死刑を適用しようとしているのか」と質問。藤本弁護士は「その可能性はある」と答えた。新聞記者が「山上被告から贖罪、謝罪の言葉は出ているか」と聞いたのに対し、松本弁護士は「被告人質問で被告人が詳しく話すと思うので、それを待ってほしい」と答えた。筆者は「精神医学の専門家の証人は呼ばないのか」と聞いたが、松本弁護士は「予定はない」と答えた。
実名で証言する県警警察官の実名を書かない既成メディア
第3回公判から、県警奈良西警察署警備課のヤスイ巡査(当時、現在は高田署・巡査部長)、事件当日に捜査に当たった県警本部捜査1課のヤスオカヒデカズ警部、県警本部組織対策本部薬物銃器対策課のナカタニヒロアキ氏(階級は不明)、県警科学捜査研究所のカネヒラタ・シン主任研究員が証言した。警官の氏名は開示されず、私のメモに基づきカタカナ表記した。法廷で実名を名乗っている公務員の実名をみんなで隠蔽する企業メディア。警察官たちの正確な名前、肩書、階級が不明だ。NHKや近畿の準キー局は公判を詳しく報じているが、証言した警官を「自宅を捜索した警察官」「銃器捜査担当の警察官」としか報じていない。
主任検察官はヤマモトと時々名乗り、証拠説明する検察官もイケダと尋問に入るが、フルネーム、役職はわからない。報道している記者も名前を出していない。権力者は仮名、一般市民は実名。企業メディアの記者たちは、警官を顕名にし、証言後に記者会見を求めるべきではないか。日刊SPA!では、21年に実名報道の問題を取り上げ、私のコメントを載せている。
安倍氏の「潰瘍性大腸炎は認められなかった」と断じた奈良県立医大教授
また、検察官は「被害者は持病の潰瘍性大腸炎があるとされていたが、その症状、痕跡はあったか」と質問。粕田氏は「肉眼的・病理学的にも潰瘍性大腸炎は認められなかった」と断言した。
なぜ、検察側が事件と無関係な安倍氏の疾病についてわざわざ質問し、粕田氏が潰瘍性大腸炎の跡形もなかったと断定したのか疑問が残る。報道各社はこの証言を報じていない。
「髪の毛を弾がかすめていた」という新事実
第4回公判で証言したヤスオカ氏は検察官に「被害者の他に銃弾が当たった人がいなかったか」と聞かれ、「被害者が演説したゾーンには14人いた。被害者のすぐ後ろにいた、自民党(奈良県連)の桜井大輔青年局長の頭髪が跳ね上がったことが、鹿島建設が現場を防犯カメラで撮っていた映像、車のドライブレコーダー、自民党員のスマホ動画などで確認できた。髪の毛を弾がかすめていた」と証言した。今まで報道されていない新「事実」だ。弁護人が「風で髪がなびいた可能性はないか」と質したのに対し、「総合的に判断して、鉛弾が頭髪に当たったと見ている」と断言した。県警は桜井氏に確認したのであろうか。主要メディアは桜井氏を仮名にしている。
犯行で使われた手製銃が裁判員の手に
6日の第6回公判では、事件で使用された手製パイプ銃を鑑定したカネヒラタ氏は、7丁の手製銃がいずれも実際に発射でき、殺傷能力も認められたと証言した。実験に当たっては、山上被告に面会し、実験に立ち会ってもらい、銃、弾丸の作り方について説明を受けて再現実験を行ったという。
手製銃と鉄パイプの発射実験を撮影した動画をモニターで上映。弾丸6個がバラバラに飛ぶ映像もあった。裁判員らが銃の現物を手にする様子を山上被告はちらっと見たが、無表情で手元の書面を見ていた。
安倍氏を師と仰ぐ、高市首相ら安倍政治を継承する政治家が復権した自維野合政権の下で、高市氏の地元奈良の裁判所で審理される裁判。政治的背景を踏まえ、司法が公正さを保てるか注視したい。
裁判は12月18日に結審の予定。判決は来年1月21日に言い渡される。<取材・文・写真/浅野健一>
【浅野健一】
1948年、香川県高松市生まれ。72年、共同通信社に入社。84年『犯罪報道の犯罪』(学陽書房)を発表。ジャカルタ支局長など歴任。94年に退社。94年から2014年まで同志社大学大学院メディア学専攻教授。人権と報道・連絡会代表世話人。『記者クラブ解体新書』(現代人文社)『安倍政権・言論弾圧の犯罪』(社会評論社)『生涯一記者 権力監視のジャーナリズム提言』(社会評論社)など著書多数。 Xアカウント:@hCHKK4SFYaKY1Su フェイスブック
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