1番から9番まで打者を並べておけば、単純に得点率は上がるかもしれない。実際、2025年シーズンのパ・リーグ総得点は2898なのに対し、セ・リーグは2756だった。投手側からしてもメリットはある。途中で代打を出される心配がないから、長いイニングを投げられるようになるだろう。
※本記事は、江本孟紀著『長嶋亡きあとの巨人軍』より適宜抜粋したものです。
セも実施する「DH制」によって失われるメリット
何を懸念しているかというと、「パ・リーグのチームに在籍してはいるものの、実はセ・リーグ向いているかもしれない選手」の存在だ。それぞれの特徴を簡単に述べよう。「ストレートと変化球を投げ分ける投手」と、「ヤマを張りながら対処する打者」が多いのがセ・リーグ。対して、パ・リーグは「速いストレートで圧倒する投手」と、「ブンブン振り回す打者」が多い。各リーグにおける文化の違いは、想像以上に大きいものだ。
いざドラフトで指名した選手が、パ・リーグ向きではないケースも実際にある。最近では、現役ドラフトで移籍した選手の例が分かりすい。
「セ向きの選手」が埋没してしまう
2022年オフに、ソフトバンクから阪神に移籍した大竹耕太郎や、24年オフに日本ハムから巨人に移籍した田中瑛斗は、まさにセ・リーグが合う選手だった。大竹、田中は、それぞれ前所属では出場機会が限られていた。だが移籍した途端、水を得た魚のように躍動したのだ。セ・パの違いを察知していた阪神と巨人が、しかるべき人材を獲得した好例だ。
私は、現役ドラフトに限らず、トレードは積極的に行っていくべきだと考えている。ただ、セ・リーグがDH制を導入することによって、今後「セ向きの選手」が埋没してしまう事態を危惧しなければならない。日本の野球界にとっても大きな損失といえよう。
また、どのチームであっても金太郎飴のような野球に終始してしまうのではないか。12球団それぞれが個性を喪失してしまえば、見る側にとっても魅力を感じにくくなるのは、言うまでもない。
DHを打つのはこんな選手たち
パ・リーグがDH制を実施したのは、1969年から1971年にかけて起きた「黒い霧事件」に端を発する。未曽有のスキャンダルにより、もともと少なかったのに拍車をかけて、観客動員数が減少の一途をたどってしまった。そこで、人気の低迷に歯止めをかける策として導入された経緯がある。それから50年が経ったタイミングで、セでも導入する流れになったわけだ。
だが、勘違いしてはいけないのは、「打力だけ優れた選手」がドラフトで指名されるとは限らないということ。
野球は、「投げる、打つ、守る、走る」の4要素を必要とする。打力に特化していたとして、「投げられない、守れない、走れない」選手に対して、プロのスカウトが興味を持つとは考えづらい。
たとえばこれまでのパ・リーグの本塁打王を見てほしい。もちろん打力に突出した選手が獲得している例はあるが、それはあくまで外国人選手や、門田博光や山﨑武司のような選手だ。彼らの場合は、ベテランになって守備と走塁の力が衰えてきたからDHになった……そんな背景がある。
若いときに「DHだけに専念した打者」が、本塁打のタイトルを獲った例はこれまでに1度もない。ということは、スカウトの基準はこれまでと変わらないのではないか。
「第二の大谷翔平」は生まれなくなる?
それは、「大谷翔平のような二刀流の選手が生まれなくなるんじゃないか」ということだ。
先述したとおり、打てるだけの高校生をプロが獲得することはあり得ない。いくら高校時代に卓越した成績を残したといっても、たかが知れている。
大谷は、高校時代から投打において並外れた才能を存分に見せつけていた。両方の能力を開花させたいと考えたからこそ、日本ハムは前代未聞の二刀流起用を提案したわけだ。大谷もその提案を素直に受け入れ、プロの世界に足を踏み入れた。
今や大谷の二刀流が当たり前のものとなりつつあるが、彼のようにマルチな才能を持った選手は、今後見出されにくくなるのではないだろうか。
<談/江本孟紀>
【江本孟紀】
1947年高知県生まれ。高知商業高校、法政大学、熊谷組(社会人野球)を経て、71年東映フライヤーズ(現・北海道日本ハムファイターズ)入団。その年、南海ホークス(現・福岡ソフトバンクホークス)移籍、76年阪神タイガースに移籍し、81年現役引退。プロ通算成績は113勝126敗19セーブ。
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