着古したTシャツ姿で、灰皿を黙々と拭く男がいる。都内の喫煙カフェで、清掃に立つ“店長”だ。
常識をぶっ壊す中卒経営論
「オールドルーキー」の看板を掲げた喫煙喫茶やサウナが、都内で静かに増殖している。愛好家を唸らせている仕掛け人は、インターネット広告会社・(※1)アドウェイズの創業者で、社長として最年少上場(当時)を果たした岡村陽久(はるひさ)氏だ。だが、その経歴から想像する、いわゆるネットベンチャーの社長像からは、いい意味でかけ離れている。会長職に退いた今も店舗に立ち、“店長”として自ら清掃も行う。なぜ、成功した経営者があえて現場にこだわるのか。その姿勢から垣間見える、異端の経営者の素顔に迫った。――この取材場所の喫煙コワーキングスペースにも、愛煙家たちが“いい顔”で煙を燻らせていますね。
岡村:タバコを吸う意味って、会社で人間関係のストレスや怒りを抱えたとき、一服して『まぁ、いっか』と許せたり、煙と一緒に小さなストレスを吐き出せることだと思うんです。でも、30年前と比べてタバコの値段は3倍。その一方で、吸える場所は50分の1に。
――都内4店舗は新宿、神田など、一等地のオフィス街。電源とWi-Fi完備で、30分220円(税込み)と超格安です。
岡村:入室管理、会計もセルフ。人件費がかからない分、安くできるのが大きい。省人店のため店のルールもできるだけシンプルにして、お客さんが迷わず使えるように設計している。オペレーションで回すイメージですね。喫煙喫茶って一度来店した人はまた来てくれて、7割以上がリピーターだけど、テレビCMなんて打てないから客が劇的に増えることはない。この店も採算ラインギリギリで、儲かっても月5万円(苦笑)。
岡村:実は一番喜んでくれたのはお客様ではなく、地域の方々。この辺(西新宿)って、純喫茶も喫煙所もないので路上喫煙が多いけど、タバコのポイ捨てが激減したんです。出店したどの地域でも、同じように喜ばれています。
――岡村会長自らが店舗に出向き、掃除しているそうですね。
岡村:バイトに任せないのは、僕が実際に掃除することで、速くきれいにする効率的な方法を確立できるから。これをマニュアル化すれば、目標の1000店舗になったときに運営コストを大幅に圧縮できる。それに親会社のアドウェイズのIT技術や掃除ロボットも導入してます。ロボットは遅刻ゼロでサボらないから、ウチではバイトよりポジションが上です(笑)。無店舗でもマナーの悪いお客さんには、遠隔のスピーカーで注意もできる。ITとの融合も、格安でできる理由ですね。
サウナ経験ほぼなしで、強烈サウナ店を経営
――’22年に立ち上げたサブスク型店舗の「(※3)オールドルーキーサウナ」も話題です。岡村:よく「サウナーですか?」と聞かれますが、実は立ち上げ時までほとんど行ったことがなかったんです(笑)。
岡村:喫煙カフェと同じで、店員が不在時でもお客さんが迷わず使えるように設計しています。コアなサウナーはしっかりマナーを守ってくれるのも大きい。ただ、自然災害時などの万が一に備えて、サウナ室内には“大型ハンマー”を置いています。いざとなればぶち破って出られるように。
――現在、上場企業の会長ですが、社会人のスタートは中卒で就いた営業マンの仕事でした。
岡村:父親が教員だったんですが、かなり変わった人でね。入学前から『お前は高校なんて行かず、中国に行って働け!』なんて言うんです(苦笑)。
岡村:飛び込みセールスは嫌われ者で、大半の家はドアさえ開けてくれず、ほとんど犯罪者扱いです(苦笑)。経験上、5軒に1軒はドアを開けてくれるとわかっていたので、走って5軒分の呼び鈴を一気に押し、開いた家だけを回る。10代で体力もあったので、一日12時間、週7日働き、受注率は高くなかったですが、その分、数で契約件数を積み上げていったんです。
――とはいえ、ピンポンの回数が増えれば断られる回数も増えるし、辛くなかったのですか?
岡村:一日に何百軒も断られると、全否定された気持ちになってメンタルを削られる。ただ、さっき言ったように僕の父はかなり変わった人で、子供の頃から何をお願いしても『ダメだ』と言う人。基本、否定から入られる幼少期で、『じゃあ、どうする?』と考える癖がついていた。売れる方法を自分で見つけていきました。
ネットの知識ゼロで、ネット広告会社を起業
――そんな飛び込み営業のセールスマンが’01年に突如、アドウェイズを起業します。岡村:この年、(※4)東証マザーズに上場した(※5)サイバーエージェントの(※6)藤田社長が、テレビで『これからはインターネットが全て変えていく』と話しているのを見て、当時、大阪の営業会社にいたんですが『こりゃ換気扇のフィルター売ってる場合じゃねえ!』って。修業のためにサイバーエージェントの採用試験に応募して、①給料はいらない②経費も自分で持つ③(藤田社長が週114時間労働だったので)週124時間働く④いつクビにしてもいい、と雇用リスクゼロの提案をしたんですが、2回落ちて……。
岡村:ありません。ただ、市販されていたインターネットの解説書を2冊だけ徹底的に読み込んだので、当時にしては知識だけは上のほうだったと思いますよ(笑)。問題は、実際にシステムを作れる人がいなかったこと。そこで新大阪のコンピュータ専門学校の前に行って、一本釣りしました。開発できそうな人は見ればわかる。メガネで痩せてる学生に『開発できる?』って声をかけたら、『できる』って言うから任せたんです。すぐに50万円渡して依頼したんですが、結局できないし、お金も戻ってこない(苦笑)。それで、改めてネットで人を探して、一緒に会社を始めました。
――創業以来、右肩上がりで今も成長を続けてます。成功の要因は何だと思いますか?
岡村:中卒の僕を大阪で受け入れてくれた近畿設備という会社は、厳しく育ててくれた一方で、17歳の僕を所長の次のポジションに抜擢してマネジメントを任せたり、多くのチャレンジをさせてくれた。
岡村:会社説明会で『福利厚生は充実してますか?』と聞かれて、『ふざけんな! 舐めんなよ』と心の中でキレかけたことがある(笑)。ウチはベンチャー企業なので、社員に与えるのは安定・安心ではなく成長機会。(※7)ラーメン二郎で『ヘルシーなメニューありますか?』って聞くようなもんですよ(笑)。
ITで効率を極限まで突き詰めながら、発想は“ぶち破る”。その振り切った経営哲学で、オールドルーキーの躍進は今後も続きそうだ。
【Haruhisa Okamura】
1980年生まれ。アドウェイズ会長、オールドルーキーサウナ店長。高校中退後、訪問販売会社に就職。その後、大阪の近畿設備に転職し関西トップのセールスマンとなる。’01年、アドウェイズを設立。’06年、当時史上最年少の26歳で東証マザーズに上場
(※1)アドウェイズ
’01年、現会長の岡村氏が設立したインターネット広告代理店。現在は東証スタンダード市場上場
(※2)オールドルーキーカフェ
新宿小滝橋通り店、日本橋馬喰横山店、溜池山王店、神田東口店の4店舗。全店駅近で低層階と喫煙者ファースト。アドウェイズのグループ会社が運営
(※3)オールドルーキーサウナ
六本木、渋谷、新宿、銀座の4店舗を構える会員制・招待制のサウナ。一部店舗は会員登録なしのビジター料金で利用可能。SPA!主催の第6回「サウナ大賞」にて、3店舗が総合トップ10にランクインした
(※4)東証マザーズ
かつて東京証券取引所が開設していた、将来成長が期待されるベンチャー企業向けの株式市場。’22年、グロース市場へ再編・統合
(※5)サイバーエージェント
1998年、創業。’00年、東証マザーズ上場。’14年、東証1部(現プライム市場)に移行
(※6)藤田社長
藤田晋氏。サイバーエージェント代表取締役会長、AbemaTV代表取締役社長、新経済連盟副代表理事。米経済誌『フォーブス』によれば、’21年の日本長者番付の第33位。資産額1944億円
(※7)ラーメン二郎
東京都港区三田に本店を構えるが、ほかにのれん分けした同名店が多数ある。麺量の多さ、山盛りの野菜、巨大な豚(チャーシュー)、ニンニクと圧倒的なボリュームが特徴
取材・文/齊藤武宏 撮影/尾藤能暢
―[インタビュー連載『エッジな人々』]―
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