今や“貧乏”とは収入の少なさだけで語られるものではなくなってきた。いくら収入があっても、出ていくカネが多ければ生活は容易に転落する。
家賃、投資、親の搾取etc.汗水垂らして働けど貧しくなる、現代人のリアルに迫った。

「新型貧乏」と呼ぶべき状態が発生

年収はあるのに生活苦…急増する「NISA貧乏」の正体。“非課...の画像はこちら >>
かつて貧乏とは、収入や資産が少なく、経済的に苦しい状態を意味した。だが、税金や社会保険料など公的負担が増す一方で実質賃金が上昇しない今、ある程度の収入を得ているのに生活が苦しい「新型貧乏」と呼ぶべき状態が生まれている。

典型的なのが、国会でも問題になった「NISA貧乏」だ。老後不安から収入を投資に回しすぎて、むしろ今の生活費に困窮する人が増えている。ファイナルシャルプランナーの風呂内亜矢氏が話す。

SNSは新NISAで儲けたという情報で溢れているため、それらを見て焦りを感じて、急かされるように投資に走っている人もいます。その様子は、まるで1800万円の非課税枠をいかに早く埋めるかを競うゲームをプレイしているかのよう。制度をハックする快感を得ているのかもしれませんが、それでは資産の価値を維持するための試みという、本来の目的からは逸脱します。投資のために生活費が不足した結果、高利のリボ払いやキャッシングを利用するようになってはもったいないです」

不合理な行動を取ってしまう原因は?

なぜこのような不合理な行動を取ってしまうのか。心理研究に関するベストセラーを多く手がける明治大学教授の堀田秀吾氏が解説する。

「過剰な老後不安が原因です。ミネソタ大学の行動経済学者の研究では、お金の心配を想起させると、人は冷静な判断ができなくなり、IQが13ポイントも下がったという結果があります。これは徹夜明けの脳の状態と同様の水準でした。
つまり、お金の不安が脳のリソースを占領し、認知能力が低下した結果、人は通常では考えられない不合理な行動を取るのです」

NISA貧乏は、老後不安に焦るなかで目先の利益や快楽を追求した結果、新型貧乏に陥るパターンと言える。

新型貧乏に共通する3つの危険な心理

年収はあるのに生活苦…急増する「NISA貧乏」の正体。“非課税枠を埋めるゲーム”に夢中になる人々の盲点
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新型貧乏には、一定水準の収入がありながら多すぎる支出が収支バランスを崩しているという共通点がある。新型貧乏になる法則を、堀田氏はこう読み解く。

「人間には、①『ヘドニック・アダプテーション(快楽順応)』という心理的傾向があります。これは例えば、給料が上がって喜んだのに少したつとそれが当たり前に感じるような状態です。だから収入が増えると、ライフスタイルのインフレを引き起こす。フードデリバリーやタクシーを頻繁に使い、サブスクの利用が増え、趣味や投資に多額のカネを費やすようになる。

しかし、一度上がった生活水準を下げるのは難しい。これは行動経済学の②『損失回避』という心理で、人間は失うことや、やめることを極端に嫌うからです。さらに、遠い将来の大きな利益よりも目の前の小さな利益(快楽)を優先してしまう③『現在バイアス』が働くので、支出を削ることも難しい。これら①~③の要素が個人の性格や特性と絡み合うことで、新型貧乏になる可能性が生まれるのです」

これらの心理状態が重なり家計の収支バランスが崩れると、一気に新型貧乏に陥る危険性が高まる。特に影響が大きいのが、家計に占める割合が高い住居費だ。首都圏の新築マンション価格は4年連続で過去最高を更新し、東京都の家賃が3年で15%も上昇している現在、生活苦の大きな要因になっている。


「『同僚が買ったから』と住宅の購入に踏み切る人は今も昔も多いですが、同じ年収や年次だから同じ経済状態とは限りません。若い頃から貯蓄していたり、親が裕福で援助してくれる人もいる。年収は当てになるパラメーターではなく、買ったときはよくても後々ローンの支払いに苦しむ人もいます。一方、賃貸住宅に住む人なら家賃が安い郊外に引っ越す手もありますが、忙しいのに通勤時間が長くなるといったバランスで選びづらい人もいます」(風呂内氏)

家庭内の問題も新型貧乏の原因に

これらは甘い見通しが判断を誤らせ、さらに一度上げた生活水準が下げられなくなる典型的なパターンだろう。また、家庭内の問題も新型貧乏の原因になり得る。

「少子化で子供1人当たりにかけるお金が増え、都市部では中学受験が一般化しています。すると塾の費用は上がりますし、教育にかかる出費は加速度的に増えていきます。本当は『ウチは公立でいい』という選択肢もありますが、都市部では選びづらい。出費を抑えるという選択が頭をかすめつつも心情的に難しいこともあります」(同)

また、高齢化した親の負担も新型貧乏の呼び水になる。

「公的支援を仰いでもなお、自身の生活が困窮しているのに、親の世話を続けている場合『現在バイアス』が働いている可能性が高いです。責任感に加えて、将来の自分の心配よりも親の面倒を見て感謝する顔を見たいという、本人の“目先の利益”が混在している状態です」(堀田氏)

より良い人生を送るために頭を悩ませた結果、自ら「新型貧乏」の沼へダイブしていくという、なんとも笑えない現代の喜劇だ。

陥りやすい「新型貧乏」3タイプ

年収はあるのに生活苦…急増する「NISA貧乏」の正体。“非課税枠を埋めるゲーム”に夢中になる人々の盲点
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老後不安の焦り×損失回避
やりすぎ資産形成型

老後不安に焦り、SNSを見て「みんな大儲けしている!」と確信。「絶対勝てる!」と根拠不明の自信を胸に、収入の多くを証券口座に突っ込む。
将来のリターンより毎月積み立てることを優先し、生活に窮するように……。

家族への責任感×現在バイアス
家族関係こじらせ型

必要以上にかけた子供の教育費、親の介護費用や医療費が、家計の負担に。相手が家族なだけに半ば強制的に支払いを続け「新型貧乏」に陥っても、見捨てることができない。向けられる感謝が判断を一層麻痺させてしまう。

どんぶり勘定×快楽順応
見栄っ張り出費型

同じ年次や年収の会社の同僚がやっているから「自分も大丈夫」と、住居にお金を投じるが、見通しが甘く家計を圧迫。上がった生活水準は戻しづらく、家賃の安い部屋への引っ越しなど、安価な選択肢への転換は難しい。

【ファイナンシャルプランナー 風呂内亜矢氏】
1級ファイナンシャル・プランニング技能士。CFP®認定者。『9割が知らずに損してる! スマホ決済「超」入門』(青春出版社)ほか著著多数
年収はあるのに生活苦…急増する「NISA貧乏」の正体。“非課税枠を埋めるゲーム”に夢中になる人々の盲点
ファイナンシャルプランナーの風呂内亜矢氏
【明治大学法学部教授 堀田秀吾氏】
言語学者。専門は法言語学。56万部のベストセラー『科学的に証明された すごい習慣大百科』(SBクリエイティブ)ほか著著多数
年収はあるのに生活苦…急増する「NISA貧乏」の正体。“非課税枠を埋めるゲーム”に夢中になる人々の盲点
明治大学法学部教授の堀田秀吾氏
※2026年5月26日号より

取材・文/週刊SPA!編集部

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