将棋の伊藤匠王座が第73期王座戦五番勝負第5局から一夜明けた29日、山梨・甲府市の常磐ホテルで会見を行った。

 伊藤は28日の同局で藤井聡太六冠=竜王、名人、王位、棋聖、棋王、王将=に勝利。

シリーズ3勝2敗でタイトルを獲得し、叡王に続く二冠となった。通算タイトル獲得数は3期となり、九段昇段も決めた。

 前日の会見では「まだまだ実感が湧かない。信じられないという気持ち」と率直な思いを明かしていたが、一夜明けて「フルセットまで戦うことができて、より課題が見えてきた部分もあるけど、自分の良い部分も出せたと思う。充実した時間を過ごすことができたかなと感じています」と冷静に語った。7日に行われた第4局から本局までの間に他棋戦もあり、多忙を極めたが「たくさん対局を重ねていく中で非常に成長できた部分もある。対局を重ねることで、いい状態で臨むことができた」とコンディションは万全だったという。

 伊藤の元には祝福のコメントが多数届いた。「家族だったり応援してくれている方、棋士仲間…たくさんの方から連絡をいただいて、ありがたい」と感謝。伊藤が八段昇段時に「師匠に並びました」と連絡を入れた師匠の宮田利男八段とは「まだやりとりができていない。またこれから報告できればと思っています」とした。

 獲得してきた2度の叡王、王座は、いずれもフルセットにもつれこんでの奪取、防衛。

「フルセットの状況で対局できることに喜びを感じながら対局していました。タイトル戦は色々な対局場で指させていただくので、なるべく1局でも多く対局するのが理想なのかなと思っている」。思い出に残る対局を聞かれると、自身初の海外対局となった開幕局・シンガポールを挙げ「貴重な経験で、印象に残ってる。将棋は悔いの残るものになったけど、シンガポールを観光する時間とかを楽しむことができた」と振り返った。

 伊藤の強さが光るのが終盤。終盤力の秘けつには「中盤に課題があるのかな。苦しい状態で終盤を迎えるケースもよくあって、将棋は形勢がよくても勝ちきるのが難しい」としながらも「形勢が苦しい中でも最善を尽くして指し続けるところが、ここ最近はできているのかな」と語った。

 藤井との番勝負も4回目。「藤井さんに初めて挑戦した頃は競り合いに持ち込めない将棋が続いていたけど、そこから叡王戦、王座戦で徐々に自分の内容もよくなってきていると感じる」と実感。「今回のシリーズでの第3局や第5局は、対藤井戦ではできなかった将棋ができたので、自信につながる部分。ここ最近はある程度よい勝負ができているんじゃないかなという感覚」とうなずいた。藤井がタイトルを持つ2日制の対局(竜王、名人、王位、王将)挑戦についても「持ち時間が長い方がより精度の高い将棋を指せると思う」と意欲を見せた。

 最近の趣味を聞かれると「フェアリー詰将棋」。通常の詰将棋とルールを変更して行うもので、攻めと受けが協力して詰ませるなどするという。「変則的な詰将棋を解くのが趣味で、対局後に考えるのが息抜き」と盤を離れても将棋を楽しんでいる様子だった。

編集部おすすめ