黒澤明監督「影武者」「乱」などで日本を代表する俳優として知られる仲代達矢さんが死去したことが11日、分かった。92歳だった。

昭和、平成、令和と約65年にわたった役者人生の始まりは、再会がかなわなかった“恩人”の一言だった。

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 1952年に俳優座養成所の第4期生となり、55年劇団俳優座に入団し「幽霊」で初舞台を踏んだ仲代さんは、父を早くに亡くした。小学校時代はいじめられて毎日のように泣き「内気で引っ込み思案だった」という。「学歴がなくて食っていくためにはボクサーか役者しかなかった」と考え、ボクシングをやっていた時期もあった。

 転機は大井競馬場でアルバイトをしていた19歳の時に訪れた。「お前は顔がいい。役者になったらどうだ?」と20代半ばの男性に勧められた。その男性は受験料も負担し、試験会場まで車で送ってくれた。

 結果は合格。そして仲代さんは舞台から映画に活躍の場を広げ、「影武者」「乱」など黒澤明監督作品に出演し、日本を代表する名優となった。恩人の存在は常に心にあり「あの一言がなければ、私は役者になっていない。女房(脚本家で演出家の宮崎恭子さん)とも、もし再会できたらどれだけ借金をしてもお礼をしような」と約束していたがかなわなかった。

「悔い」と口にしていたお礼の機会は、天国で訪れるかもしれない。

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