馬トク報知で過去の名勝負を当時の記事から振り返る【競走伝】。今回はナムラクレアが勝った2022年の函館スプリントSを取り上げる。

浜中騎手が覚悟の減量を行い、しっかり結果を出した。長く活躍した名牝の重賞5勝の中でも記憶に残るレースのひとつだ。

 力が違った。前半3ハロン32秒8の超ハイペースで流れた4コーナー。最軽量50キロのナムラクレアに騎乗する浜中は、まだ持ったままだった。直線入り口で先行する2頭に並びかけると、浜中のアクションに応えるようにグイッと加速。2馬身半差をつけてゴールに飛び込むと、浜中は左手を上げ、頭を左右にブルブルッと震わせた。

 極上のスピードで古馬の壁を楽々と打ち崩した。「本当に強かったです」。ゲート内でガタガタしたが、ヒヤッとしたのはここだけ。五分にスタートを切ると、すぐに3番手を確保した。「最初のポジションをとることだけに集中していた」。

行く馬を行かせて、3番手で思い描いた形が完成。隊列が定まったところで勝負は決していた。

 覚悟があった。普段は体重51キロの浜中が、斤量50キロの馬に騎乗するためには、最低でも49キロまで落とさなければならない。51キロより軽い斤量で騎乗するのは、2008年の小倉記念(49キロ)以来、約14年ぶりになる。「50キロでは乗れないと思ったら(騎乗依頼を)断っていました。(レース当日の)今日も飲んだり食べたりできたので。体調は大丈夫でした」。

 いざとなればきっちり落とすのがプロとでも言いたげな口調だったが、過酷な減量があったことは想像に難くない。元騎手の長谷川調教師も“汗取り”の苦しみは熟知している。それだけに「桜花賞の直後に覚悟を決めてくれた。ナムラクレアでG1に行きたいという気持ちが伝わってきた」と敬意を表した。

浜中はその後今まで4年間、50キロはもちろん、51キロでの騎乗すらない。それだけ特別な一戦だったのだ。

 ただ、ナムラクレアにとって、頂点は非常に遠かった。今年の高松宮記念(6着)で引退するまでG1に11度挑戦。23~25年に3年連続で高松宮記念2着、スプリンターズS3着。勝利には手が届かなかったが、重賞5勝を挙げるなど長く一線級で走り続けた競走生活は、多くのファンに愛された。現在は生まれ故郷である北海道浦河町の谷川牧場に戻り、繁殖牝馬として第2の馬生を送っている。

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