東京都世田谷区、松陰神社通り商店街。2021年10月末「共悦マーケット」は、62年の歴史の幕を閉じた。この昭和のマーケットが取り壊されることを知ったひとりの写真家が、1年前からこの場を劇場に見立ててゲリラ的にパフォーマンス上演を開催してきた。そして、10月には、子どもたちによる「共悦マーケットの人々」と題した演劇が上演され、まちぐるみでマーケットに別れを告げた。
老朽化と耐震性能の不足からマーケットの取り壊しが決まった
東急世田谷線の二両編成ののんびりとした電車に乗って三軒茶屋駅から5分あまり。松陰神社前駅の周辺は、昔ながらの八百屋や魚屋といったお店と、今どきのカフェやスイーツ店が混在する、暮らしてよし散歩してよしの楽しい商店街がある。クルマ通りもほとんどない、まちの人たちが安心して歩ける雰囲気も魅力だ。
その商店街に面して「共悦マーケット」はあった。1959年に建築された4軒の2階建て木造建物の間に通路が設けられ、小規模ながら屋根掛けされた私設アーケードが、この共悦マーケットだ。このマーケットには、居酒屋、定食屋、古本屋兼シェアオフィス、レコード屋、アパレルショップ、整体院、ハチミツ屋、フランス料理店……昔ながらのお店と新しいお店が混在して商店街の魅力の中核を担っていた。
ところが、築60年を過ぎて建物が老朽化し耐震性に劣ること、大家さんの高齢化などの理由から、建て替えられることになった。大家さんは2年ほど前に「取り壊し」を、賃借しているお店に伝えたのだという。