●東京生まれ東京育ち。中央線の飲み屋をこよなく愛するライター・松田義人による中央線一人飲み案内。
吉祥寺駅南口。周辺は雑居ビルが濫立し、そして狭いバス通りを行き交う人でごった返しています。“吉祥寺の小さなカオス”とも言うべきこのエリアを抜け、数十メートル先の井の頭通りに出たところに、50年以上もこの地で愛され続ける名店『カッパ』があります。
創業は1968年。狭い店内には、いわゆる「コの字型」のカウンターがあり、そこに客がギュウギュウ詰めの満席状態で飲んでいます。なかには待ちきれず、スタッフの承諾を得て、その隙間で立ち飲みしている客も。ときに行列ができることもあるこの『カッパ』、一体どんな店で、どんな魅力があるのか、ご紹介していきましょう。
昔は超怖かった「カッパ」だが……

実は筆者、若い頃にこの『カッパ』で複数回飲んだ経験があります。しかし、かつての『カッパ』は店員さんの対応が超怖かった! 暗黙の「カッパルール」(席の順序や注文タイミング)が存在し、それに反すると冷たくあしらわれ、そしてまた常連たちからも冷ややかな視線を浴びる……。そんな独特の緊張感がありました。
若い頃、こんな経験を何度か味わったことがある筆者は、「雰囲気は最高だけど、とにかく怖い店」という印象が強く、あまり頻繁に通うことはありませんでした。そして今、いいおじさんになって、久しぶりに訪れたわけですが……。
ギュウギュウ詰めの店の様子は以前と変わらずですが、昔の緊張感あふれる怖い雰囲気は一変。
この日はBGMにセックス・ピストルズなどの往年のパンクロックが流れており、スタッフの方は短パン姿で必死にモツを焼いていました。古くからの常連客を大切にする一方、若い客も受け入れる新スタイルとなった『カッパ』に、なぜだかホッとする筆者でした。
スタッフの様子を見計らってビールとモツをオーダー

ただし、店内は相変わらずのギュウギュウ詰め。カウンターのあちこちから注文が入る中、筆者はかつての「カッパルール」に準じて、スタッフの様子を見計らい「今だ」というタイミングで声をかけました。
まずオーダーしたのは瓶ビール(サッポロ赤星・600円)、レバー(170円)、カシラ(170円)。開店から2時間半ほどが経過した18時半過ぎにして、すでにいくつかの串モノが売り切れになっていましたが、なんとか好きな2串にありつくことができました。
鮮度の良さと繊細な火入れを感じる絶品レバー&カシラ

とにかく混んでおり、串モノが焼き上がる前に瓶ビールを飲み干してしまいました。続いて焼酎ロック(麦・500円)をオーダーしたところで、まずはレバーが登場。

臭みがほとんどないレバーの味・食感はまさに絶品の一言。じっくり火入れする必要があるモツ焼きであるにもかかわらず、焦げなどが少ない完璧の焼き加減。

そして、程なくしてサーブされたカシラもこれまた絶品。噛み締めると、肉の旨みが口いっぱいに広がり、その鮮度の良さを存分に感じました。これまた焼酎ロックがグングン進みます。

レバー、カシラともに筆者は塩でいただきましたが、軽く辛味を添えていただくのも良いと思いました。カウンターには『カッパ』と同じ吉祥寺では老舗にあたるラーメン店『ホープ軒本舗』とのコラボ辛味調味料「唐華」が置かれており、この辺もまた「吉祥寺ならではの感じ」で良いなと思いました。
創業者の思いを大切にする現経営者と常連客の思いに胸が熱くなる

飲んでいる最中、度々テイクアウトのお年寄りの常連さんが訪れていました。店内では飲まずにモツを持ち帰り、おそらくは“家カッパ”を楽しむのでしょう。笑顔でモツのテイクアウトを受け取るお年寄りの常連さんの様子を見ていると、「混雑している店で飲み続けるのは店に申し訳ない」「今の『カッパ』は若い人たちに譲りたい」と言わんばかり。いいですね、こういう感じ。

ちなみに、『カッパ』の創業者は台湾人だったと言います。
(取材・文◎松田義人(deco))
●SHOP INFO
店名:カッパ
住:東京都武蔵野市吉祥寺南町1-5-9
TEL: 0422-43-7823
営: 16:00~22:00、土14:00~22:00
休:月・日・祝