ことし8月、トミー・ジョンさんが83歳で亡くなりました。野球ファンの方は、この名前を聞くと「トミー・ジョン手術」を思い浮かべるかもしれません。
「トミー・ジョン」は医師ではなく、選手の名前
でも、そもそも「トミー・ジョン」って、誰なんでしょうか。生前のご本人に直接会ってインタビューしたことがある、サンケイスポーツの田代学さんに聞きました。
サンケイスポーツ 田代学さん
お医者さんの名前ではなくて、大リーグのピッチャーの名前になります。僕はトミー・ジョンさんに会ったのは2013年、1974年に手術受けてるんで、もういいおじいちゃんでした。当時は大リーグの連載していて、いろんな方にアポを取ってた。トミー・ジョンさんは僕のメールに電話をすぐにくれて、ゴルフ場の周りに住まれて、そこにおいでっていうことで、ゴルフ場のレストランでインタビュー。本当にフランクな方で、手術痕を見せてくれっていう風に頼んだら、彼は左ピッチャーだったんで、左肘を見せてくれまして、25センチぐらいありまして、まあそれも測らせてもらったんですけど、そういうことを今回、訃報に際して思い出しました。
1974年、ドジャースの投手だったトミー・ジョンさんは、左肘の靱帯を断裂。当時は、投手としての復帰は極めて難しいケガでした。そこでチームドクターのフランク・ジョーブ医師が、体の別の場所から「腱」を取ってきて、切れた靱帯の代わりを作る手術を行いました。トミー・ジョンさんは1年のリハビリを経て復帰。その後も長く現役を続けました。
なぜ「ジョーブ手術」ではなく「トミー・ジョン手術」なのか
でも不思議なのが、手術したのはジョーブ医師なのに、なぜか「トミー・ジョン手術」と呼ばれていること。自分が考えた手術なのに、ジョーブ先生、これ嫌じゃなかったんでしょうか。実は田代さん、ジョーブ医師にも生前、直接取材していて、そのあたりを本人に聞いたそうです。
サンケイスポーツ 田代学さん
なんでご自身の名前をつけなかったんですかと伺ったら、トミー・ジョン、彼のその勇気に敬意を表して、彼の名前を手術の名前につけたんだと。これだけの実績を残しているお医者さんだと、「俺はすごいんだ」っていう自分の実績を誇示する方も多いと思うんですけど、すごく控えめで…。当時はこの手術受けると、投手生命が絶たれるかもしれないっていう手術だったので、ジョーブ博士はトミー・ジョンさんに、「もしかしたら、メスを入れると、再起できないかもしれないよ。その可能性は1%しかないかもしれないよ」っていう風に聞いたんだっていう話も。じゃあそれを受けさせてくださいという話になったということです。
こうして、それまでなら選手生命を絶たれかねなかった投手にも、復帰の道ができました。日本でも、村田兆治さん、桑田真澄さん、ダルビッシュ有選手、大谷翔平選手など、多くの投手がこの手術を受けています。
トミー・ジョン手術、高校生・大学生にも増えている
このようにやはり、どうしても有名投手の名前が浮かびますが、最近ちょっと様子が変わってきたようです。国内で100例以上のトミー・ジョン手術を手掛けている、福岡ソフトバンクホークスのメディカルアドバイザーで、医療法人尽心会「百武整形外科病院」副院長の光井康博さんに聞きました。
福岡ソフトバンクホークス メディカルアドバイザー 光井康博さん
<イメージ>プロ野球選手が受けるっていうイメージが一般的に強いと思うんですけども、最近高校生や、大学生でも手術が増えているのが現状。やはり小学生の頃から、ピッチャーをエースの子が多いんで、だんだん投げすぎでじん帯がですね、伸びたり、質が悪くなって、強度が落ちていく。
特にレベル高い、球速が速い選手は、出力が高くて、一球でパチンと切れてしまう。もし手術した場合は完全復帰まで一年近くかかりますので、なかなか高校のたった一年間、リハビリの期間取られたらもう台無しになっちゃいますよね。かわいそうですよね。
特に高校3年生の場合、最後の夏の大会を終えてから、手術を選ぶケースもあるそうです。
ちなみに、切れた靱帯の代わりに何を使うのか。よく使われるのが、手首の「長掌筋(ちょうしょうきん)」という腱です。親指と小指をくっつけて、手首を少し曲げてみてください。手首の真ん中に筋が浮いてきます。これを採って、肘の靱帯の代わりにするそうです。この長掌筋は、生まれつきない人もいます。その場合は、ひざの裏の腱を使います。
球速アップで肘への負担も増加 「対策しないとまずい」
今では「治せるケガ」になった一方で、光井さんは今の野球を見ていて、「対策しないとまずい」と感じていることがあるそうです。
福岡ソフトバンクホークス メディカルアドバイザー 光井康博さん
間違いなく増えてます。毎年増えてるような印象。年々平均球速も間違いなく上がってる。今ソフトバンクホークスの一軍で投げてる選手で150キロいかない選手ほぼいないんで、それだけ以前と比べたら肘の負担は増えるのは間違いない。今後も障害としては内側のじん体の障害は増えると思います。やっぱり栄養ですね。体、皆さんほんと大きくなってきてるんですよ。最近の高校生、大学生も、プロじゃないのに、以前のプロ野球選手みたいな体されてる人もたくさんいらっしゃいますので、スピードもっともっと速くなる時代が来るんじゃないかな…。でもそういう時代が来ると肘の障害が増えてくるんで、僕は何か対策しないとまずいんじゃないかなと思ってますね。
治療方法はこの50年で大きく進歩しました。最近は、残っている靱帯を修復して、人工のテープで補強する方法も出てきています。ただ一方で、投げるスピードに人間の「肘」が追いついていない。
トミー・ジョンさんの手術から始まって、救える選手はずいぶん増えましたが、これからは「予防方法」も考えていく必要がありそうです。
(TBSラジオ『森本毅郎・スタンバイ!』より抜粋)

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