「研究」はこれまで、私たち人類の進歩に大きく貢献してきた。研究なくして、今の生活や環境はないといっても過言ではないだろう。

しかし日本において、近年話題になっているのが「科学研究の衰退」についてだ。研究予算の不足、論文数及び研究者の減少……。実はスタートアップ界隈では、こういった「研究」の課題解決にチャレンジする企業が出てきはじめている。今回取り上げる株式会社InnerResourceもそのひとつだ。

「研究者が研究に没頭できる世界をつくる」というミッションを掲げ、研究支援に取り組む同社は、研究の未来をどのように見ているのか。代表の松本剛弥氏に話を伺った。

研究とは、「わからない」から解放される取り組み

研究者を雑務から解放し、研究に没頭できる世界をつくる! In...の画像はこちら >>
――今日は御社が取り組む「研究支援」について伺いたいのですが、そもそも「研究」と聞くと、どこか遠い存在というか、自分には関係のない話のように感じてしまうんです……。

松本氏:そう考えている人は多いと思います。「研究が何の役に立つのか」がわからないと、その先にある「研究力の低下」などの社会問題にも関心が持てませんよね。

でも本当は敷居の高いものではありません。そもそも研究というのは興味から始まるものですし、その延長線上に研究者がいるということに気付いてほしいんです。

――どうして私たちは研究に対して敷居が高いと感じてしまうんでしょうか?

松本氏:いろんな要素がありますが、メディアの影響は少なからずあると思います。研究についてクローズアップされるときって、「受賞」か「不正」がほとんどなんです。

研究者がノーベル賞を受賞したニュースは見たことがありますよね? 研究者の不正行為についてのニュースも見たことがあると思います。ですが「こんなに凄い研究が」とか「こんなものを解決するためにこんな研究がされています」などのニュースはなかなかクローズアップされない。こうなるとどんどん「研究」は遠い存在になってしまいます。

――では松本さんの場合は、なぜ研究が「身近な存在」になったんですか?

松本氏:私の場合は、家族の難病指定がきっかけです。当初は原因不明、解決策不明との告知で、10年くらい経ってからそれが難病だったことがわかりました。

当時は暗闇にいるような感覚でしたね。「わからない」って言われちゃうと、打つ手もないですし、漠然とした不安しか残らないんですよ……。

今、私たちが当たり前のように受けている医療というのは、何年も何十年も前の研究が元になった治療法なんです。これは医療に限った話ではなく、私たちが「わかる」のは研究者が「わからないこと」を研究したからなんですよね。

私たちが「研究支援」に取り組んでいるのは、今の研究を支援することが、未来の「わからない」をなくす活動に繋がると考えているからです。

――私たちも無意識のうちに研究の恩恵を多大に受けているんですね。

「研究費の獲得」ではなく「研究費の有効活用」に着目

研究者を雑務から解放し、研究に没頭できる世界をつくる! InnerResourceが着目した課題点
――日本における研究分野では今、さまざまな課題があるように感じますが、その点についてはどのようにお考えですか?

松本氏:よく言われているのは研究費の予算不足ですよね。実際、ノーベル賞をとった研究者ですら、予算の低さに嘆いています。

これに対して、国だけに任せていてはいけないと、研究者を支援するサービスも出てきているんです。研究費獲得に特化したクラウドファンディングサービスの「academist(アカデミスト)」や、不採択になった研究費申請書の再評価をする「 L-RAD(エルラド)」など。

――では御社が取り組む「研究支援」はどの領域なのでしょうか?

松本氏:私たちが解決する課題は、「研究者がうまく研究費を使えていない」というものです。

研究者の方々は「いかに研究費を獲得するか」については熱心なんですが、それを「どう使うか」には意識が向いていないと思うんですよね。お金が足りないからこそ「うまく使うこと」に目を向けるべきだと考えました。

――研究費の有効活用に着目した、と。

松本氏:あとは、「研究時間の創出」というのもあります。

今、実際の研究現場では、試薬・機材・機械の購入、その書類管理や、試薬など物の管理をはじめとした事務作業に膨大な時間を費やしてしまっているんです。ルール上必要な相見積を取るのにFAX・メール・電話など様々なツールを駆使していたり、購入前に何段階かの承認フローがあったり、購入後は管理するのにまた一苦労、みたいな。

しかも、こういったことの履歴を紙などのアナログな方法で管理していたりするんですよ。

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――最先端の研究を行う反面、そういうところはアナログなんですね……。

松本氏:つまり現場では、少ない予算にも関わらず研究費の有効活用がうまくできいない。

そして、研究以外の事務作業などの時間が多く、研究に使う時間が少なくなってしまっているんです。

これらの問題を解決するために、私たちは研究のためのクラウド購買管理ソフト「reprua(リプルア)」を開発しました。

――改めて、repruaについて簡単にご説明いただけますか?

松本氏:repruaは、研究業界に特化した次世代型のクラウド購買・試薬在庫管理システムです。購買業務から購買後の管理業務までを一括して行うだけではなく、限られたリソースを最大限活用出来するためのサポート環境を提供しています。

最大の特徴は、購買管理に関して「研究者の利用料が無料」ということです。そもそもが、研究費の有効活用を目的にしているので、研究者側の無償利用は当然ですが……。

あとは、「使いやすくシンプルなUI」を意識しましたね。実際に研究者の方に使っていただくと、マニュアルを見なくても直感的に操作ができると評判です。

実績としてバイオ・創薬ベンチャーだけではなく、大手製薬会社や国立の研究機関でもご使用頂き、主に使用者が口コミで紹介してくれているというのもrepruaの特徴のひとつかなと思います。

やっぱりお客様が「広めたい」と思ってくれるプロダクトを提供できることは凄く嬉しいですね。

官民連携で研究を盛り上げていく姿勢

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――素朴な疑問なんですが、松本さんは過去の経験から、自らが「研究者」になろうとは思わなかったんですか?

松本氏:考えたことはありました。でも私が実現したかったのは極論「世の中から『わからない』をなくしたい」ということだったんです。

何かひとつのことを研究したいという考えではなかったので、研究者ではなく、全研究者をサポートする立場になろうと思いました。

――では、そこから「研究費の有効活用」に絞ったのはなぜなのでしょうか?

松本氏:絞った訳ではありませんが、まず最初に取り組むべきはそこだろうと思ったんです。

先ほどお伝えしたように他にも研究支援に取り組む会社は増えてきています。また、大手企業やVCなども研究への投資が多くなってきているように感じます。そしてもちろん、国としても世界と技術力で戦うためにさまざまな施策を考えています。

そんな中で自分たちにできることは何か、まだ誰もやっていないことは何かを考えた結果、repruaのサービスに至りました。

官庁、ベンチャー企業、大手企業と、それぞれ立場はありますが、一緒になって研究力を高めていける取り組みができるかどうかが重要だと考えています。

――それぞれが補完し合う関係になる、ということですね。では最後に、松本さんが考える理想の世界について伺えますか?

松本氏:未来から「わからない」という絶望をなくしたいと思います。

そのためには、研究者がもっと研究に打ち込める環境を整える必要がありますし、そのためのソリューションをこれからも提供していきたいです。repruaはその第一歩ですね。

研究者を雑務から解放し、研究に没頭できる世界をつくる! InnerResourceが着目した課題点
松本剛弥(まつもと・たかや)
1986年生まれ、長崎県出身。
Inner Resource創業者。
外資系金融機関勤務時に家族が難病指定を受け、医療業界への貢献を考え始める。
研究者に対し研究物品を提供する商社に転職し業界を知るも、課題を多く感じ、自身での起業を決意。
「研究者が研究に没頭できる世界をつくる」をビジョンに、研究者を助けるサービスを手がける。

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