深刻な人手不足問題を抱える物流・製造業で近年導入が進んでいる“協働ロボット(通称:コボット)”。人間と相互作用するための感知技術や制御システムを備えており、周辺環境を把握しながら安全に作動することが可能だ。
しかし、人間との相互作用を完璧に実現することは困難である。“同僚”である人間や、作業で扱う部品を正確に感知する協働ロボットが誕生するには、感知技術のさらなる進歩が必要になる。また、共同作業をよりスムーズに行うためには、操作性も重要だ。
そんななか、米国の協働ロボット企業であるWorkFar Robotics(以下、WorkFar)は、“知覚力”のあるヒューマノイド「Syntro」を発表した。SyntroはAI搭載の人型ロボットで、遠隔操作を行うオペレーターの意図を簡単に実行する。
遠隔操作タイプの知覚ロボット「Syntro」
2020年設立のWorkFarは、工場・生産施設向けのヒューマノイドを設計している米国スタートアップ。同社のヒューマノイドはハードワークや長時間作業、重い荷物の上げ下ろし作業に適しており、人間による操作を通じて生産性を高め、製造効率を加速する。
Image Credits:WorkFar Robotics
今回WorkFarが発表したSyntroは、協働ロボットや自律移動ロボット(AMR)ソリューションとは異なる遠隔操作タイプの知覚ロボット。さまざまなテクノロジーを活用し、環境に関する情報をオペレーターに送信する。Syntroは頭、腕、手、胴体を備えており、高さは5フィート8インチ(1.7メートル)で重量は240ポンド(108kg)、積載量は44ポンド(20kg)だ。バッテリーサイズは1.2 kWh(アップグレード可能)で、1回の充電で6~10時間(交換可能なバッテリー使用時)稼働する。
ARオーバーレイで遠隔地の環境を確認可能
製品パッケージにはSyntro本体のほか、有名ブランドのVRヘッドセット、WorkFar VRボディスーツ・グローブ・シューズのセットが含まれている(訓練された人間のオペレーターもオプションで付けられる)。それぞれのテクノロジーを組み合わせることで、Syntroの“知覚”を実現しているのだ。
Syntro本体にはカメラ2台、マイク3本、3Dライダー、コンピューター・ビジョン、そのほかセンサーなどを搭載。
オペレーターはVRゴーグルを装着し、手の届く範囲にあるモノを強調表示したARオーバーレイにより、遠隔地の環境を確認することが可能だ。また、グローブには「ハプティック(触覚)・フィードバック*1」と「フォース(力覚)・フィードバック*2」の両方が組み込まれている。
例えば、ロボットに箱を持ち上げるように指示すると、オペレーターは装着したグローブを通じて動作の実行・完了を感知できるのだ。
リアルタイムに感覚を伝えるこの技術について、WorkFarのリリースでは、産業分野以外のさままざなシーンで活躍する可能性を秘めるものだとし、「一般の人が地球の遠く離れた場所にいる友人や家族と交流したり、握手したりできる日もそう遠くないかもしれない」と述べている。
*1 ハプティック・フィードバック…遠隔地にある物体に「接触」したときのグローブの振動感覚
*2 フォース・フィードバック…グローブをきつくすることで物体の表面の圧力を伝える。オペレーターの指が、存在するはずの物の表面を超えて物体「内部」に入らないようにする
人間が作業内容を指示、AIが実行方法を指示
また、優れた操作性もSyntroの大きな特徴だ。腕を1本(または2本)を動かすだけでオペレーターの仕事はほぼ終わり、ロボットの仕事が始まるという。Syntroに搭載されたAIが、対象物の形状や大きさを識別し、安定を維持しながら荷物を手に取る・持ち上げる方法を決定するといった細かい作業を担当してくれるのだ。
人間がロボットに「何をすべきか」を指示し、搭載されたAIがロボットに「どのようにすべきか」を指示する……こうしたシームレスな相互作用により、オペレーターは反復性ストレスによる怪我や重いものを持ち上げることによる身体的損傷のリスクを回避できる。
参考・引用元:
WorkFar Robotics 公式サイト
WorkFar Robotics パンフレット
PR Newswire
(文・Haruka Isobe)