現実空間とデジタル空間を融合させる技術「空間コンピューティング」の発展が著しい近年。Apple Vision Proをはじめ、AR/VRに対応した複合(MR)デバイスがエンターテインメント、教育、医療など多様な分野で活用されている。
しかし、市販のAR/VRデバイスの画面では、ユーザーが空間内に表示された物体(オブジェクト)を手の届く範囲に近づけようとすると、輻輳調節競合(VAC)が発生することがよくあるという。
このVACとは、現在のAR/VRシステムでよく見られる問題で、空間内で表現された奥行と物理的な距離との食い違いによって脳が混乱し、吐き気・眼精疲労を引き起こすというものだ。
英国ケンブリッジに拠点を構えるVividQは、独自のコンピューター生成ホログラフィック(CGH)技術でVACによる制限を克服し、「仮想世界と現実の区別がつかない世界」を実現しようとしている。
ケンブリッジ大学研究所でのブレークスルーが起源
Image Credits:VividQ
VividQは2017年に設立されたディープテック企業。英国ケンブリッジのほかロンドンにもオフィスを構えており、台湾や日本にリモートチームを置いている。VividQの起源は、2016年にケンブリッジ大学フォトニクス研究所で科学上の大きな進歩を達成したところにまで遡る。その後、この大きなブレークスルーを商業化し、ホログラフィーを消費者向け電子機器に導入するためにケンブリッジにオフィスを設立した。
それ以来、同社は急速に成長し、JVCKenwoodを含む大手OEMと提携して、高度なソフトウェア・ハードウェアソリューションをAR/VR、自動車用ヘッドアップディスプレイ、その他の消費者向け電子機器に統合している。
オブジェクトを現実世界にシームレスに固定
VividQの主力製品は、同社のハードウェア開発キット「Cobalt HDK」をベースにしたARヘッドセット「Cobalt AR」とVRヘッドセット「Cobalt VR」だ。
Image Credits:VividQ
Cobalt ARでは、VividQのホログラフィック技術を用いてアバター、敵、キャラクター、収集品、風景などの仮想オブジェクトを10cmから任意の距離まで表示する。
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実際のオブジェクトと仮想オブジェクトに同時に焦点が合うように設計されているため、VACによる視覚的な不快感、目の疲れ、吐き気を防ぐことが可能。プレイ時間を長くするだけでなく、没入感をもたらすというメリットもある。
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なおホログラフィック画像は任意の距離に投影でき、オブジェクトやキャラクターをユーザーの現実世界の環境にシームレスに固定できる。仮想オブジェクトを手のひらに載せたり、目の前のテーブルから掴んだり、さらには自分の手にデジタル効果を適用したり…といったことも可能だ。さらに、サードパーティのトラッキング技術と組み合わせることで、ハンドヘルド・コントローラや周辺機器なしで、快適で自然な手やジェスチャーによるインタラクションを実現する。
高解像度でリアルな3Dオブジェクトを表示
Image Credits:VividQ
一方、Cobalt VRでは、高解像度でリアルな3Dでデジタル・コンテンツを配信。現在のVRデバイスよりも高い解像度で、3Dホログラフィックオブジェクトを表示する(通常15~40 ppdのところ、CGHでは60 ppd)。
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ホログラムはユーザーの視力に合わせて調整可能なため、メガネの調整や処方箋の用意は不要。ヘッドセットのかさばりや重量を軽減できる。
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またCobalt ARと同様に、ユーザーは吐き気を感じたり、空間認識能力に影響を受けることなく、自然に焦点を移して、オブジェクトを手の届く範囲に持ってくることが可能だ。750万ドルを追加で調達、総資金調達額は3,000万ドルに
今年8月、VividQはシリーズA資金調達で750万ドルの追加調達を完了し、総資金調達額が3,000万ドルを超えたと発表した。
同社は日本と米国のゲームおよび自動車業界のOEM顧客へのサービス提供で成功を収めており、来年には米国のリーダーを雇用し、米国オフィスを開設する予定だ。
また、新たな資金調達ラウンドによりVividQの製品開発ロードマップを加速させ、既存・新規のグローバルビジネスパートナーに独自のテクノロジーを提供できるようになるという。
参考・引用元:VividQ
(文・Haruka Isobe)