咄嗟の事件や事故を目の前にして、はたしてどれだけの人が躊躇うことなく救助活動ができるだろうか。このほどフランスのパリで、22歳の男性がマンションのバルコニーから転落寸前の男児を見事救出した。
市内18区で起こった迅速な救出劇を見た人々からは、男性を“パリ18区のスパイダーマン”と呼ぶ声があがっている。地元メディア『Le Parisien』をはじめ、英メディア『The Independent』『Metro』などが伝えた。

“パリ18区のスパイダーマン”が、市内にあるマンションの5階バルコニーから転落しそうになっている男児(4歳)をあっという間に救出した。

マリ共和国出身のマモウドウ・ガッサムさん(Mamoudou Gassam)はその建物の前を通りかかった時、人だかりを目にしてバルコニーのフェンス外側に子供がぶら下がっている姿を見た。群衆のひとりが撮影した動画を見ると、必死に5階バルコニーフェンスにしがみついている男児を救うべく、マモウドウさんは1階からフェンスに手足をかけて上に上にと登っていく姿が捉えられている。外の騒ぎを察したのか、やがて男児の家の隣に住むカップルが出て来て、仕切り壁の横から男児を支えようと手を伸ばす姿も見受けられる。


マモウドウさんはわずか30秒ほどで5階に辿り着くと、フェンスに跨り男児を引っ張り上げた。子供が無事に救助されたことを見届けた群衆らは歓喜の声をあげた。パリ市消防署が現場に駆けつけた時は既に男児が救出された後であり、消防署スポークスマンは「体を鍛えた身軽な男性が勇気を出してくれたことにより、子供が無事に救われました」とコメントしている。

マモウドウさんのこの勇気ある行為はたちまちパリ市内に広がった。アンヌ・イダルゴ市長は自らマモウドウさんに連絡をし、勇敢な行為を称賛するとともに子供を救ってくれたことへの感謝の気持ちを伝えた。その時市長は、マモウドウさんがマリ共和国から数か月前にパリにやってきたばかりの移民であることを知った。
マモウドウさんは母国を出た後にリビアで1年以上過ごし、その後2014年に諸手続きを経てイタリアに合法的に滞在した。2017年9月からフランスに長く暮らす兄を頼って入国していたが、同国には不法に滞在していたようだ。

パリでこれからの人生を過ごすことを願っているマモウドウさんへの支援を約束したアンヌ市長は、「彼は夢を持ってパリにやって来たばかりです。彼の英雄行為は全ての市民にとって手本となるものですから、市としても彼がフランスで落ち着けるようにサポートしていきたいと思っています」と話している。また、この件を知ったフランスのエマニュエル・マクロン大統領は5月28日の朝、マモウドウさんを大統領官邸エリゼ宮へと招待し彼の勇気ある行為を称えた。マクロン大統領からは、パリ消防旅団(BSPP)の仕事とフランスの市民権が与えられることになったという。


マモウドウさんは地元メディア『Le Parisien』に、「子供を助けたい一心でやったこと。無事に救助できてよかった」と語っている。なお警察の調べで当時、男児の両親は自宅にいなかったことが明らかになり、父親は育児放棄で一晩拘留され9月には裁判所に出廷を命じられている。父親は男児をひとり家に置いて買い物に出たついでにポケモンGOに夢中になり、予定していた時刻よりも帰宅が遅れてしまったと事情聴取で述べているようだ。男児の母親は、この時パリ市内にはいなかったとされている。

この件以降、マモウドウさんは“パリ18区のスパイダーマン”というニックネームで呼ばれるようになった。
ニュースを知った人からは「他の群衆は何をやってたんだか…」「隣から支えている人、もっと真剣に救助に加担すればいいのに…」「片手でひょいと子供を救い上げるのが凄い! 本当に彼はヒーローだね」「世の中にもっとこういう人がいればいい」「結局、国を支えているのは懸命に働いている移民たちの力だと思う。だから国も強くなっていくんだよ」「この英雄行為はメダル授与に値するな」といった声があがっている。



画像は『Metro 2018年5月28日付「Mamoudou Gassam who climbed building in Paris to save child on balcony is declared a hero」(Picture: Habib Bibou/Facebook)』のスクリーンショット
(TechinsightJapan編集部 エリス鈴子)