2016年、米イリノイ州ベルビル在住のドノヴァン・バルガーさん(21歳)が不慮の事故により亡くなった。家族はドノヴァンさんの意思を尊重して、彼の臓器を提供するという苦渋の決断をした。
ドノヴァンさんは移植を待つ複数の患者に新しい命を吹き込み、短い人生を全うした。それから3年、臓器移植啓発のイベントに参加したドノヴァンさんの家族に思いがけない出会いが訪れた。『CBS News』『CNN』などが伝えている。

4月28日、MLBの臓器移植啓発デーとしてミズーリ州セントルイスで「セントルイス・カージナルス」と「シンシナティ・レッズ」の試合が行われた。臓器移植促進・サポートに尽力する非営利団体「Donate Life America」がスポンサーとなったこの試合には、臓器ドナーや受容者の家族が多数観戦に訪れた。

2016年に亡くなったドノヴァンさんの姉サバンナ・ローシュさんもその一人で、家族ら6人がドノヴァンさんの顔写真をプリントし「ブラザー、臓器ドナー&ヒーロー」と書かれたライムグリーンのTシャツを着て参加した。
野球はあまり好きではないというサバンナさんだがドナーになった弟に敬意を表し、臓器移植について多くの人に知ってもらうためイベントにやってきたという。

そしてこの日、サバンナさんらが家族の集合写真を撮っていると、1人の女性が近づいてきてこう言った。

「あなたたちはドノヴァンさんの家族ですか?」

サバンナさんは当初「弟の職場の知り合いか、学校の友達だろうと思った」そうだが、その女性が弟の心臓を移植した男性の妻であることを知った。

サバンナさんはその時のことを振り返り、Facebookでこのように綴っている。

「今日という日を一生忘れることはないわ! 本当に素敵なことが起こったの。驚いたのなんのって。
ビデオがすべてを物語っているわ。」

「私の弟が臓器ドナーになったことはほとんどの人が知っているでしょう。それで1年前、私は弟から心臓をもらったという男性から手紙をもらったの。私は返事を書いて、ドノヴァンの写真を何枚か同封したわ。せめて心臓のドナーがどんな容姿だったのか、知っておいてもらおうと思って。私はその男性に『あなたの心臓は優しさであふれているはずよ。だって弟は最高にいい子だったから』って伝えたの。
手紙には苗字や年齢、住所などドナーを特定できてしまう情報を書くことができないから、それが私にできる精一杯のことだったわ…。」

「でも今日、ドノヴァンの心臓をもらった男性に会うことができたの!」

2016年にドノヴァンさんの心臓を移植されたジョン・スエミさん(65歳)は、2011年から心臓の機能が低下し心不全で苦しんでいた。「ドノヴァンさんによって命が救われ第2の人生をプレゼントされた」と語るジョンさんはこの日、妻リズさんと娘キャサリンさん、そして2人の友人とともにイベントに参加していた。ドノヴァンさんの家族との出会いについて、ジョンさんはこう振り返っている。

「移植後、亡くなった男性の家族に『命の贈り物をありがとう』と感謝の手紙を書きました。もちろんガイドラインに従って、名前や住所を明かしませんでしたよ。そして数か月後にサバンナさんから返事をもらったのです。
ドノヴァンさんの写真が2枚同封されていたのですが、そのうちの1枚がTシャツの写真と同じだったのです。娘がそれに気づいて、妻がサバンナさんに声をかけました。本当に雷に打たれたような衝撃を受けましたよ。ずっと彼の家族に会いたいと思っていましたから。」

思いがけない出会いに、その場にいた全員が興奮し、涙でいっぱいになった。ドノヴァンさんの家族はジョンさんと順番に抱き合い、ジョンさんの中で脈打つドノヴァンさんの心臓の鼓動に耳を傾けた。サバンナさんはその時の気持ちをこのように明かす。


「心臓の音を聞いている間、私の心に静けさが訪れました。心が洗われるようで、まるで弟にハグしているかのような気持ちになりました。目を閉じて鼓動を聞くと、弟の顔が浮かんできました。あの時の気持ちは言葉では言い表すことができません。きっと弟が私たちを会わせてくれたのだと思います。」

サバンナさんは「球場に来た時には6人だった家族が9人になりました。私たちはもうひとつの家族です。
次のイベントも計画中ですよ」と語っており、ドノヴァンさんの心臓が2つの家族の懸け橋となったことは間違いないようだ。

なお、全米臓器配分ネットワーク(UNOS)によると、2019年1月から3月の間にアメリカで行われた臓器移植は9,502件で、移植待機者リストには11万1千人以上が名を連ねているという。



画像は『Savannah Chavez Roesch 2019年4月29日付Facebook「Today was a day I will NEVER EVER forget!!!!!」』のスクリーンショット
(TechinsightJapan編集部 A.C.)