西九州新幹線が2022年9月23日、いよいよ開業します。
新しい新幹線が、開業効果を全面的に発揮するには、JR九州が沿線や地域の魅力を日本全国ばかりでなく世界に発信して、「新しい新幹線は、何かおもしろそうだ」の思いを社会全体に共有してもらうことでしょう。本コラムは「西九州新幹線どう売る」「西九州新幹線どう乗る」を2つのキーワードに、新幹線のサイドストーリーとして、JR九州の戦略、鉄道ファン目線でみた佐賀・長崎の鉄道の魅力をまとめました。
北陸新幹線の金沢延伸開業時、利用客は3倍増
前例で思い浮かぶのが、2015年3月の北陸新幹線金沢延伸開業。開業1年目の新幹線利用客は926万人で、在来線特急時代の前年の314万人に比べ3倍弱に増加しました(JR西日本の発表をもとにした日本政策投資銀行北陸支店のレポートから)。
「新幹線が開業すると、その効果で来訪客が増える」は、半ば常識化しています。しかし、コロナで訪日インバウンドはリスタート(再起動)状態、日本人の観光需要も回復道半ばという現状を考えれば、開業効果をマックスに高める戦略が求められます。
JR九州の古宮洋二社長も、2022年9月9日の東京会見で、「開業効果を最大化したい。観光で西九州を訪問する交流人口を増やし、1回だけでなく、リピーターになってもらう仕掛けを地域と一緒に実践したい」と発言しています。
温泉、史跡は強力な集客ツールですが……
西九州新幹線の沿線には何がある? 温泉のほか、新大村駅は大村藩城下町、諫早駅は諫早公園眼鏡橋、県都・長崎駅は出島やグラバー園などがヒットしました。
確かに、「新幹線が開業したら佐賀・長崎に行ってみよう」と考える方も多いでしょう。でもリピーターになってくれるかを考えると、もう一工夫が必要と思えます。
嬉野茶の地域振興プロジェクトや雲仙の在来種野菜直売所運営者にAWARD表彰
JR九州も、その辺はよく理解しているようです。同社の考え方を表すのが、2022年9月9日に表彰式が行われた「西九州観光まちづくりAWARD」。審査委員長を務めた古宮社長は、東京・千代田区での会見から六本木に移動して、AWARDのプレゼンターを務めました。
大賞を受けたのは、佐賀県嬉野の伝統産業・嬉野茶や肥前吉田焼で地域振興を図るプロジェクトチームの「嬉野茶時(うれしのちゃどき)」。もう一件は、長崎・雲仙で在来種野菜の直売所を運営する奥津爾(おくつちかし)さんです。
審査委員長を務めた古宮社長はあいさつで、「新幹線の開業効果を一過性に終わらせることなく、リピーター化したい」と、ここでもリピーターのフレーズが飛び出しました。
ゲストに華丸・大吉さん
AWARD表彰式にサプライズでゲスト出演したのは、JR九州の新幹線観光プロモーション「西九州開店」のイメージキャラクターを務める、お笑いコンビの博多華丸・大吉さん。
「西九州開店キャラクターの福山雅治です」のジョークで、会場を笑いの渦に包みました(ご存じの方も多いと思いますが、福山さんは長崎市出身です)。
西九州新幹線、元は「>形ルート」だった!?
コラム後半の「西九州新幹線どう乗る」に移る前に、少々のスピンオフ。「西九州新幹線はなぜ、こんなルートになったのか」を解き明かします。
武雄温泉―長崎間の線形は、大きくは「L形」(もちろんカーブもありますが)。武雄温泉から諫早に南下し、そこから西方に向きを変えて長崎にいたります。合理的な最短ルートですが、国鉄時代にさかのぼれば、起点(あくまで部分開業のです)は武雄温泉ではなく、21キロほど西方の早岐でした。
「早岐経由では期待した時間短縮効果が得られない」(JR九州)
難読駅名の一つ・早岐(はいき)は、長崎県佐世保市。そう、当初の西九州新幹線(当時は九州新幹線長崎ルートでしたね)は、佐世保、長崎の長崎県内2大都市を結ぶルートでした。
早岐経由としたのは多分に政治的理由があったのですが、民営化後のJR九州は「早岐経由では所要の時間短縮効果が得られず、収支改善効果も見込みにくい」と難色を示しました。
仮に西九州新幹線が早岐経由にだったら……、線形は「L形」でなく「>形」だったかもしれません。新幹線への初乗りをご計画中の皆さん、一足伸ばして早岐に立ち寄り、「もしもこの駅に、新幹線が走っていれば」と思いをはせるのも一興かもしれません。
かもめから乗り継ぎたい地方鉄道 その1・島原鉄道
ここから鉄道ファン目線での西九州新幹線。「『かもめ』から乗り継ぎたい鉄道」として、2つの地方鉄道を取り上げます。
一つ目は諫早を起点に、島原半島の海岸線を周回して運行される島原鉄道。現在の路線は島原港までの43.2キロですが、2008年までは島原港から35キロほど先の加津佐まで線路が延びていました。
島原鉄道は明治年間の1911年、本諫早―愛野村(現愛野)間が開業しました。この時、列車をけん引したのは国鉄(鉄道院)から譲り受けた1号機関車。のちに国鉄(鉄道省)に返還され、現在はさいたま市の鉄道博物館で保存・展示されます。
西九州新幹線開業にあやかれと、島原鉄道はさまざまな関連商品を企画発売します。島原鉄道に乗車後は、沿線の島原港または多比良港から熊本港、長洲港にフェリーで渡るのも旅のバラエティーを豊かにします。
かもめから乗り継ぎたい地方鉄道 その2・松浦鉄道
国鉄の特定地方交通線・松浦線を第三セクター転換した松浦鉄道は、長崎、佐賀の両県にまたがる西九州線(有田―伊万里―たびら平戸口―佐世保間93.8キロ)を運行します。西九州新幹線と直接の接続はありませんが、有田(佐世保線)、伊万里(筑肥線)、佐世保(佐世保線)の3駅で、JR在来線に接続します。
沿線は有田焼と伊万里焼の焼き物、松浦のアジフライ、平戸城など観光資源が豊富。鉄道ファン的には「日本最西端の駅・たびら平戸口」、レトロ車両で今年に入って改装を受けた「レトロン号」、広報担当の鉄道むすめ「西浦ありさ」といった話題があります。
西九州新幹線と島原鉄道と
最後は、本コラム執筆で見つけた西九州新幹線と島原鉄道の接点。JR九州の西九州観光まちづくりAWARDで、審査委員を務めた女優の宮崎香蓮さん。出身は長崎県島原市で、祖父は島原鉄道の役員を務めるとともに歴史研究家や作家として活躍した宮崎康平氏(1980年死去)です。
以上で、西九州新幹線のサイドストーリーは完結。JRグルーブ旅客6社と佐賀・長崎の両県などは2022年10~12月の3カ月間、大型観光キャンペーン「佐賀・長崎デスティネーションキャンペーン」(佐賀・長崎DC)を展開します。新幹線初乗りを計画中の皆さん、魅力たっぷりの西九州を存分にお楽しみください。
記事:上里夏生