読鉄全書 池内紀・松本典久 編 東京書籍【鉄の本棚 23】その32

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伊集院静「夏の終わる駅」(2002年)

ふだんからテレビ・ラジオは天気予報とニュースしか見ないのと本を読まないために伊集院静さんと伊集院光さんの区別が初めて分かりました。故夏目雅子さんのダンナさんだった方ですね。

高校生の頃、澁澤龍彦さんの著作で「アクチュアルなものへの嫌悪」を擦り込まれたので生きている作家で新刊を読むのは金井美恵子さんと関川夏央さん、矢作俊彦さんくらいです。世の中の流行とかトレンドとかは皆目分かりません。日常生活に特段不便はありませんし。

読鉄全書 池内紀・松本典久 編 東京書籍【鉄の本棚 23】その32

一読、情緒的な文章に少したじろぎました。伊集院静さんは茨城県近代美術館で熊谷守一の展覧会を見ます。

守一の次男、陽が四歳で死んだ日、画家は突然絵筆を取って我が子の死顔を描く。当時、創作を中断していた画家は「この子が世に残すものが何もない」と思って筆を取るのだが、「描いている内に、”絵”を描いている自分に気付き、嫌になった」とやめる。激しい筆致だが、我が子の表情にはやわらかさがうかがえる。
〈中略〉
近しい人、肉親の死は、人間に憤りを起こさせ、深い哀しみを与える。中でも我が子の死に遭遇した親の心情は計りしれないという。私は、その絵を見ていて、三十二年前の夏の、弟の通夜の顔を思い浮かべた。ちいさな毬のように背を丸めて、ぼんやりと弟を見つめる母がいた。本書 p.470

美術館の後、伊集院静さんは常磐線で仙台に向かいました。震災前ですから夜ノ森駅で列車交換をしています。車窓にひろがる美しい光景に見とれながら

今年の盆、母の寝所に弟は戻ってくれただろうか。本書 p.471

極度に乾いた筆致で見事に叙情的な作品を残した直木賞作家立原正秋さんも韓国出身。早稲田文学の編集長として吉田知子さんや古井由吉さんを世に出しました。伊集院静さんも在日韓国人二世です。二人にはキリッとした情緒というか共通する清冽さがある様に感じます。

読後感が良いので、伊集院静さんの作品、読んでみたくなりました。

読鉄全書 池内紀・松本典久 編 東京書籍【鉄の本棚 23】その32

(写真・記事/住田至朗)

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