高齢化社会の到来に伴い、認知症は現代日本の抱える大きな社会問題となっている。そもそも、この「認知症」という言葉自体は病名ではなく、人の記憶力や認識力に異変が表れ、社会生活に支障をきたす状態のことを指す。この認知症の原因にはさまざまなものがあるが、最も多くを占めているのが、アルツハイマー病という疾患だ。アルツハイマー病は、異常なタンパク質を作って脳を萎縮させ、記憶障害や身体衰退を引き起こす。いまだその原因ははっきりしていない。しかし、このアルツハイマー病を罹患しているかどうか、圧倒的に安く、そして簡単に検査する方法が発見され、いま話題となっているのだ。
「ピーナッツバター・テスト」という言葉をご存じだろうか。そう、これこそがアルツハイマー病を患っているかどうか簡単に判断することができる、画期的な検査法なのだ。しかもその方法とは、ピーナッツバターのあの匂いを嗅ぐだけという極めて簡単なものだ。
フロリダ大学の研究者たちによると、通常、認識力の衰退は、人間の嗅覚をつかさどる第1脳神経と呼ばれる部位にまず影響を及ぼすのだという。しかし、アルツハイマー病の患者は、この嗅覚に独特で不思議な影響が表れるようなのだ。なんと、彼らの左の鼻腔は、一様に右の鼻腔よりも嗅覚が衰えているのだという。
研究者たちによる実験は、被験者たちの左右の鼻腔をそれぞれふさいだときに、スプーンに盛られたピーナッツバターを、匂いだけでどれくらいの距離から認識することができるか計測するという手法で行われた。その結果、アルツハイマー病の患者たちは、奇妙にも左の鼻腔の嗅覚がすっかり弱くなってしまっており、平均して右の鼻腔よりも10センチ以上近付かなければ、ピーナッツバターを認識できないことが判明した。このような症状は、認知症を発症していない人はもちろん、アルツハイマー病以外の原因(痴呆など)で認知症を発症した人たちの間でも、確認されることはなかったのだという。