放射能を無効化する? 反原発派も知っておきたい「核変換」テクノロジー ~21世紀の錬金術~

放射能を無効化する? 反原発派も知っておきたい「核変換」テクノロジー ~21世紀の錬金術~

 原発の最大の問題は放射性廃棄物だ。福島第一原発の汚染水が海洋に流れ出していたことで東京電力が再び責められているが、原発には放射性物質の問題が必ずついてまわる。発電に使用した核燃料から燃え残ったウランとプルトニウムを取り除き、再び燃料として利用するが、その際に高レベル放射性廃棄物が出る。また、原発の建物自体や廃液や廃材、作業服や部材などで放射性物質を含むものは低レベル放射性廃棄物と呼ばれる。

 原発が稼働する以上、こうした核廃棄物は必ず出るが、問題はこれら放射性廃棄物の処分方法が事実上ないということだ。

 放射性廃棄物を無害化する技術を、今のところ人類は持っていない。ではどうするかというと地下に穴を掘って、そこで保管する。家の中で出たゴミを庭に積み上げておくようなものだ。原発が「トイレのないマンション」と揶揄されるゆえんである。庭にどんどんゴミ袋は積み上がっていく。安全とか安全じゃないとかそういう問題ではなく、これはどう考えてもシステムとして破たんしている。

 日本原子力研究開発機構によると、日本にある高レベル放射性廃棄物は現在1万7000トン。さらに100万キロワット級の原発からは毎年20トンずつ排出される(今は稼働していないが)。積み上がっていく致死性のゴミの山を前に、実情を知る人間たちは茫然としていたのが本音だろう。地下に埋めるといっても、今の福島を前に承諾する自治体があるとは思えない。いくら金目のものを積んでも、だ。

 完全に手詰まりに見える放射性廃棄物問題。これをなんとかできるかもしれない技術があるとしたら? それが核変換(原子核変換ともいう)だ。

■核変換技術

 1988年、核変換によって放射性廃棄物を無害化する「群分離・消滅処理技術研究開発長期計画」、通称「オメガ計画」がスタートした。放射性物質だろうが何だろうが、原子核の周りを電子がまわるという原子の基本構造は変わらない。この原子核に強力な電子ビームや高エネルギーガンマ線を叩き込み、原子構造を変えて、毒性の低い別の物質にしてしまうのだ(ターゲットとなる核物質の種類により、使うビームの種類や反応経路は変わる)。核物質をすべて無害化できるわけではないし、基本的には半減期が何十万年という放射性物質を半減期が数百年程度の短い核物質に変えることが目的だが、白金などの安定化物質に変換できるものもある。これらは燃料電池車の触媒などに利用可能だ。核変換が実用化すれば、放射性廃棄物の量も保管期間も大幅に減ることになる。
 
 しかし電子ビームで核変換を行うには、非常に大規模な設備が必要であることや放射性廃棄物を核物質ごとに正確に分別すること、反応の制御など課題は多い。本格的な核変換実験施設の建築もこれからだ。新聞報道によれば、総工費220億円で2015年度に着工、およそ30年後の実用化を目指すという。

 30年後? 30年後、海賊王に俺はなる! ......そんなことを言われても、困る。

■常温核融合はあります! 科学のパラダイムシフトか?

 ここからが本題だ。核変換が放射性廃棄物問題の切り札であることはわかった。しかし電子ビーム方式ではあまりに気が長い。もっと手早く実用化する手段はないのか?

 三菱重工の岩村康弘博士らはパラジウムと酸化カルシウムでできた薄膜に、セシウムを添加、そこに重水素ガスを透過させるとセシウムがプラセオジウムという別の金属に変わることを突き止めた。同じくストロンチウムはモリブデンに、タングステンは白金に変わったという。薄膜に重水素のガスを透過させるだけで核変換が起きたのだ。電子ビーム施設のような大規模な装置やエネルギーを使わず、ごく単純な(あくまで電子ビームに比較して、である)装置で核変換が起きたのである。

・一度は詐欺扱いされた常温核融合
 
 この三菱重工の研究の基礎となったのが常温核融合だ。1989年3月、英国サウザンプトン大学のマーチン・フライシュマン博士と米国ユタ大学のスタンレー・ポンズ博士が室温での核融合反応=常温核融合を確認したと発表、大ニュースとなった。そのやり方はなんと水の電気分解。重水を白金とパラジウムを電極にして電気分解すると、パラジウムが水素原子を吸着(パラジウムには水素を吸蔵する性質がある)、高密度で集まった重水素原子が核融合反応を起こすという。本当であれば、過去数十年の核融合研究が吹っ飛ぶが、米国エネルギー省の主導で行われた追実験ではそうした反応は見られず、同年11月に説得力のある証拠は見つからなかったとのレポートを発表する。新発見に興奮した社会は一変、フライシュマンとポンズを詐欺師扱いし始めた。

 日本でも物理学会は常温核融合を完全に否定した。だが、化学畑にいる者からしてみれば、たかが電気分解の変型である。それなりに基本的な設備があれば、検証できる。だから日本でも検証研究を始めた学者は何人も出たが、当時の世間の扱いは"胡散くさい"。「日本の敗戦はエネルギー問題と考え、日本が自前のエネルギーを用意することが国として絶対不可欠と考える、戦前の大陸派右翼的な人々が関わっている」という話であり(だから三菱重工が研究していたりする)、まったくの鬼子扱いだったのだ。

・常温核融合プロセス内で起きる核変換

 常温核融合の際に、電極で核変換が起きる。常温核融合は、金属内部で起きる極微の核融合反応と考えられている(現在のところ、メカニズムは不明)。その結果、金属の原子構造が組み替えられ、別の金属が生まれる。パラジウムの電極の表面には、微量ではあるがケイ素・カルシウム・チタン・クロム・銅・コバルト・白金などが確認された。電極に金を使ったところ、なんと金が鉄に変化し、溶液中に鉄が澱となって沈殿するということもあったという。

 さらに100円玉や電池に使うニッケルにドリルの刃や戦車の鋼板に使うタングステンを混ぜると、金やプラチナができたというから、錬金術の世界だ。

 常温核融合やそこから派生した技術を使えば、理屈上、放射性廃棄物を無害化することは可能になる。もちろんマイクログラムの世界からトンの世界へ処理能力を上げるには、非常に高いハードルはあるが、不可能ではない。三菱重工では10年後の実用化を目指すとしており、こちらの方が電子ビーム方式よりも安くて早い。

・アンドレア・ロッシ/ニッケル原子と水素原子の核融合

 しかし完全に否定された常温核融合が今さら? こうなるとSTAP細胞だって本当になかったのか言い切っていいものか悩ましいが、常温核融合が再評価されているのは事実。それも世界的にそうした動きがある。その最先端がアンドレア・ロッシのE-Cat(Energy Catalyzer=エネルギー触媒の略)。ニッケル粉末にリチウムを加えたものと水素を反応させ、2014年3月時点で32日間の連続反応を観測、毎時1.5 メガワットの発電に成功したという。ロッシは、この反応を自ら「ロッシ効果」と名付けるなど売名行為が先行している気配があり、いつまでも基礎研究の域を出ない進行状況にスポンサーが降りるなど、なかなか香ばしいことになっているのだが......。

 常温核融合が発電技術に使えるかどうかは不明(発生する熱量が不安定過ぎて、発電には使えないという研究者も)だが、核変換が起きていることは確定したと言っていい。果たして原発が恒久的な発電システムになるのか、社会の厄介者としてこれから何百年何千年も付き合う危険な粗大ゴミとなるかは、核変換という現代の錬金術にかかっている。
(文=川口友万/サイエンスライター)

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