【死刑囚の実像】死刑より「拘置所職員からのいじめ」を恐れる大量殺人犯――加古川7人殺害事件

【死刑囚の実像】死刑より「拘置所職員からのいじめ」を恐れる大量殺人犯――加古川7人殺害事件

――人を殺した人と会う。死刑囚の実像に迫る。

 今月25日に最高裁で開かれる加古川7人殺害事件の被告人、藤城康孝(58)に対する上告審の判決宣告は日本の裁判史のひとつの節目になるかもしれない。というのも、現在、死刑判決を受けて上訴(控訴もしくは上告)している被告人は藤城を含めて全国に14人いるが、藤城以外の13人は09年5月に始まった裁判員裁判で裁かれている。つまり、藤城は上告を棄却されて死刑判決が確定すると、「旧裁判制度のもとで生まれた最後の死刑囚」になる公算が高い人物なのだ。

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 筆者がこの藤城と収容先の大阪拘置所で面会したのは1年半以上前のことだが、その時のことは今でも忘れがたい。

■身の毛もよだつメッタ刺しの凶行――「加古川7人殺害事件」

 兵庫県加古川市で母親と一緒に暮らしていた藤城が両隣の家で暮らす伯母や隣人ら計7人を相次いで殺害したのは04年8月2日のこと。深夜3時ころに被害者らが就寝中の家に侵入し、金づちで頭部を乱打したり、骨すき包丁でメッタ刺しにするという身の毛もよだつ凶行だった。

 さらに藤城は7人を殺害後、「事件を報じるテレビに汚い家が映らないように」という特異な考えから自宅に火を放ち、全焼させる。そして犯行後は自ら命を絶とうと車を運転して壁に激突させ、助手席に火をつける。しかしガソリンに引火して一気に燃え上がり、驚いて車から逃げ出したために警察に捕まったのだった。

■藤城康孝被告からの手紙の内容

 藤城はその後、神戸地裁で09年5月、被害者らに見下されていたことなどを恨んで犯行に及んだと認められて死刑判決を受け、大阪高裁の控訴審でも死刑判決が支持された。そして現在、最高裁の判決宣告も間近に迫っているのだが、筆者が藤城に関心を抱き、取材依頼の手紙を出したのは控訴審が終わって4カ月後ほどたったころだった。ほどなく藤城から届いた返事の手紙には次のようにしたためられていた。

 〈私は今一部の職員から挑発や嫌がらせを受け続け、精神的苦痛からとてもとても片岡様の望みに応じ兼ねます。弁護士さんや視察委員会(...略...)に苦情の手紙を出すのが精一杯で、自分の裁判の事より職員からのいじめの方が気になるほどでして、誠に申し訳ありませんが、取材は辞退致したく思います。〉

 要するに取材を断られたわけだが、死刑か否かを争っている自分の裁判より気になる「職員からのいじめ」とは一体......。改めて藤城への関心を深めた筆者は「いじめのことだけでも話を聞かせてほしい」と再度手紙を出し、大阪拘置所まで面会に訪ねたのだった。

■具体性のない「いじめ被害」

 面会を断られることも覚悟していたが、藤城は面会室に現れた。Tシャツに短パンというラフな格好。身長は160センチあるかないかという感じで、手足はやせ細っている。それ以前に雑誌で見た写真では険しい顔つきだったが、この時は穏やかな表情になっており、印象を率直に記せば「芸人の間寛平に似た普通のおじさん」。そうと知らなければ、大量殺人犯にはとても見えない人物だった。

 藤城は面会室に現れた際、軽く会釈したものの、椅子に腰をおろし、アクリル板越しに筆者と向かい合うと、なんとなく落ち着かない様子だった。しかし、強引に面会に訪ねた非礼を詫びつつ、手紙で訴えていた「職員からのいじめ」がどんなものなのかを尋ねると、ジェスチャー付きで切々と「いじめ」の被害を訴えた。

 「弁当を買いますやろ。職員がそれを(小窓から)房に入れる時、上下や横に揺するんで、中身がどっちかに寄ってるねん」
 「わしが(房内の)トイレで用便しよったら、房の前の廊下を何度も行ったり来たりして、ジ~と見てくるんや」
 「わしは病気の後遺症で言葉がちゃんとしゃべれへんのやけど、『そんなしゃべり方しかできんのか』と言われるねん」

 たしかに藤城は滑舌が悪かったが、それを差し引いても、藤城の話は意味が分かりにくかった。本人は、「弁護士にいじめのことを相談する手紙を書いたら、職員らに逆恨みされて、余計ひどいことになっとるんですわ」と真顔で言うのだが、どんないじめを受けているのかの具体的なイメージが全然湧いてこなかった。

■妄想性障害は否定されているが...

 藤城は事件前、近所の人たちが立ち話をしているだけで悪口を言われたと思い、突然怒鳴りつけるなどのトラブルを頻発させ、地域で怖がられる存在だったとされる。裁判では第一審、控訴審共に完全責任能力があると認められたが、実はその判断は際どいもので、精神鑑定を行った2人の医師のうち1人は藤城が「妄想性障害」だという見解を示していた。筆者は本人に会い、裁判では否定されているこちらの鑑定結果が実は正解ではないかという疑念を抱かざるをえなかった。

 しかし藤城は翌日にもう一度面会に応じてくれたものの、それ以後は何度訪ねても面会拒否。そして昨年12月、以下のようにしたためた、はがきをくれたのを最後に音信は途絶えたままとなった。

〈何度も手紙ありがとうございます。片岡さんの心尽くしを受けておきながら誠に申し訳ないですが、面会は辞退致したく思います。どうかお元気で頑張って下さい。〉

 「心尽くし」とは、おそらく筆者が最初に面会した際、飲み物などを差し入れしたことを言っている。こういうことを律儀に気にするのも藤城の性質なのだろうと思った。

 今年3月、最高裁であった最後の審理。被告人の出廷は認められない最高裁の法廷で、3人の弁護人は改めて藤城が妄想性障害に陥っていることを主張し、死刑の回避を求めた。しかし壇上の裁判官たちが心を動かされたようには見えず、死刑判決は覆らないのだろうと確信した筆者は複雑な思いにとらわれた。精神的に変調をきたしていることがあれほど明らかな人物をこのまま死刑にするのもどうかと思う一方で、今も藤城本人にとっては自分がこのまま死刑になるか否かより、「職員からのいじめ」の方がはるかに重大な問題なのだろうと思ったからである。
(取材・文・写真=片岡健)

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