
「お暑い中、今日も一日お疲れさまです。喫煙所のご利用ありがとうございます!」
ネクタイを外したサラリーマン風のオジサンが踏み台に立ち、黄色いタスキを掛け、声を嗄らしている。東京・渋谷ハチ公前にある喫煙所で、2015年4月から見られるようになった光景だ。ひと目見ただけでは、区の職員か議員に立候補した人のように見える。だが、この男は福岡から上京し、毎日ボランティアで声を上げ、ゴミを片付けている。一体何が彼を突き動かしているのか? 直撃インタビューを試みた。
【その他の写真はこちらから→http://tocana.jp/2015/08/post_7123.html】
■会社を休眠させ福岡にいる理由がなくなった
叫び続けている男の名前は込山洋(こみやま・ひろし)、41歳。神奈川県出身で、20歳で金融業界に就職し、福岡に転勤になった後、独立。しかし事情があり、今年から東京へ戻ってきたという。
――なぜハチ公前であのような活動をしているのですか。
込山 私は昔からハチ公が大好きだったんですね。でも15年ぶりに東京で見たハチ公前は、ゴミと吸い殻であふれていて、とても汚かったんです。今は世界から日本に観光客が押し寄せて、渋谷にも外国人の方がたくさんいらっしゃっているじゃないですか。キレイでクリーンな日本のイメージを持っていただきたいと思い、活動しています。
――福岡に住まれていたんですよね。東京に再び出てきたキッカケは?
込山 昨年まで福岡で会社を経営していたんですが、現在は休眠状態になっています。一緒に会社を始めたパートナーの後輩がいたんです。彼が大腸ガンで亡くなってしまって、僕も3年ほど前から鬱っぽくなってしまい、福岡にいる理由もなくなりました。そこで初心に帰るではないですが、トランクとベッドを持って上京してきたんです。
――それはいつごろですか?
込山 今年の3月20日ぐらいですかね。そこでハチ公を見に来たら、喫煙所がこんなことになっていて......。最初はジャンバーを着て、ほうきとちりとりを持って掃除していたんです。その頃は、変な人扱いをされたり、注意の仕方も拙くて、歩く人に逆ギレをされたりしていましたね。
――今や公式の人に見えますね。
込山 朝の6時から16時までは区に委託された清掃業者の方がいらっしゃいます。また、月に何度かボランティアで清掃活動をされている人もいますね。僕なんて全然です。
――そのタスキは?
込山 4月にこの活動をいつまでやれるかわからないけど、やろうと決めて、たまたま区役所に行ったら貸していただけました。
――生活リズムはどのような感じですか?
込山 朝は6時ぐらいに起きて、7時から9時まで祐天寺駅前であいさつ活動をしています。
――あいさつ活動!? それはなんですか?
込山 祐天寺のマンションに引っ越してきたときに、近所のみなさんにあいさつに伺ったんですね。するとみなさん、「あいさつはいりません」とおっしゃるんです。僕は子どもの頃から「あいさつは率先して行いましょう」「朝は元気なあいさつから始まる」というのが当たり前と教育を受けていました。そのため、この現状には違和感があり、あいさつの習慣を復活させるべく、駅前で活動を行うことにしたんです。
――それはまた特殊な活動ですね。
込山 余計なお世話と思う方もいらっしゃると思います。でも、4カ月も続けていると顔見知りになった子どもの方からあいさつをされたりしますよ。うれしいですし、住んでいる町が今より明るい町になって、犯罪防止につながればと思います。
――9時にそれを終えて、ハチ公前に向かうんですか。
込山 一度家に帰って、洗濯、掃除などの雑事をすませ、渋谷に来るのは11時ぐらいです。準備をして11時半から活動を開始します。
――何時まで活動していますか?
込山 終電が1時前なので12時ぐらいまでですね。以前は徹夜で掃除をしたり、2時、3時まで活動して歩いて帰ったりしていたんですが、続きませんでした。土日も関係なく毎日立っています。これだけやるとハチ公に愛着が湧いてしまい、友達みたいに感じることもありますよ。
――ハチ公に思い出があったんですか?
込山 新入社員の研修があったとき、人が多いハチ公前で「●●会社の込山です。今日はよろしくお願いします!」とやらされたんです。愛社精神というか何かに裏切られるまで、思い続ける気持ちは大事にしたいですね。
■10日間水だけで過ごす断食生活も経験
――食事はどうしているんですか?
込山 優しい方にパンやドリンクを差し入れしていただいたり、500円のランチなどを食べたりしています。というか私は一日一食なんです。10日間の断食を経て、大丈夫になりました。10日間水だけで過ごし5キロダイエットできましたよ(笑)。節約も兼ねていますけどね。
――断食って、本当に大丈夫なんですか。
込山 すべての欲を削っていきたいんです。金銭欲、食欲、性欲、睡眠欲。今やっていることは私自身の修行だと思っています。
――修行......。
込山 金銭欲はいまほとんどありません。食欲も食べたいものを我慢すれば大丈夫です。ホームレスの方も拾って食べていますし、落ちている飲み物や食べ物に対しても感謝の気持ちがあります。性欲も福岡に居たころは結構あったんですが、今はほとんどありません。睡眠欲は徹夜をがんばってみたんですが、これは難しいですね。
――そのストイックさ、熱心さはすごいですね。込山さんは特定の宗教団体に属していたりするんですか?
込山 いえ、特にありません。人生は波乱万丈とかいうじゃないですか。あれは欲を持っているからそうなるんです。欲望があるから破滅したりするし、食欲があるから食べ過ぎて不健康になったりするんですよ。
――なるほど。ふと思ったんですが、坂口恭平さんという都市生活の研究から、独立国家の思想を得た作家の方がいるんですが、その影響や資本主義社会に対してのアンチテーゼのような意識はあるんですか?
込山 その作家の方は知らないですし、そんな大それた考えはありません。
――いつまでこの活動を続けるんでしょうか。
込山 資金が尽きるまでですね。実は負債もあるので、年末ぐらいまでかとも考えています。ただ今は精神的な不安も抱えていませんし、やめる必要性も感じないんです。
――最後に伝えたいことはありますか。
込山 東京は日本の中心、ハチ公は世界に誇れるものなんです。渋谷は日に10万人が通るといわれています。ひとりひとりがゴミを捨てることがなくなり、いつかゴミが減れば幸せです。また、それにともない特に若い人が、思いやりや感謝の気持ちに気付いてもらえればと思います。みんな赤ん坊のときのような人間としての素直さを取り戻してほしいんです。
――あと蛇足なんですが、幽霊、UFOなどを信じますか?
込山 幽霊もUFOも見たことはありません。ただ地球って、金魚が入っている金魚鉢みたいで、どこからか別の生物が観察しているような気がするんですよね。誰かが良い行いをする人、悪い行いをする人を見ているんじゃないですかね。
込山氏の活動は、賞賛されるべき無償の社会奉仕である。だが、貯金を切り崩してまで続ける行為ではないという人もいるだろう。理解しづらいかもしれないが、本人にとっては、誰にも迷惑をかけない心のリハビリのようなものかもしれない。
もし、彼の活動に共感した人がいれば、渋谷ハチ公前でひと言「今日もがんばってください」と声をかけてみてほしい。込山氏は笑顔を返してくれるはずだ。
(写真・取材・文=松本祐貴)
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