ググっても出てこない、青酸カリの本当の話

ググっても出てこない、青酸カリの本当の話

 毒物に関しては生理学を一通りやった上で、アレな実験をだいたいやり、いろんな毒物も実際に味見をし、そして全国で有害図書指定を受けつつも、シリーズを通し15万部を越えた文部省不認可教科書こと、『アリエナイ理科ノ教科書』(三才ブックス)まで上梓した身としては、毒の話...といっても、ググってすぐに出てくるようなことをまとめるようなことはしませんので、多少ご期待してくれてもいいのよ...!

 というわけで、今回のお題は「青酸カリ」。ミステリーには定番のこの毒ですが、その実体はどんなものなのでしょう? ついでに味なんかについても触れてみようと思います。

【その他の画像はコチラから→http://tocana.jp/2015/12/post_8039.html】

■青酸カリの歴史

 まずは、青酸カリというのは俗称で、化学の世界では「シアン化カリウム」(KCN)と表記されます。

 青酸カリという字面から、ドラマなどでは青っぽい粉で表現されることがありますが、実際は面白みのない白い粉で、舐めるとメタリックな苦扁桃フレーバーが...といっても伝わりにくいでしょう。端的にいえばアルミホイルと甘味のない杏仁豆腐を口にいれたような味、とすれば想像しやすいでしょうか。

 この青酸という言葉は、もともと顔料として15世紀あたりから使われていたプルシアンブルー(のちにいくつかの青色顔料に分類される)が由来となります。

 ゆえに、印刷のCMYKの青はシアンと呼ばれるわけです。

 これは組成式を見ると FeK[Fe(CN)6] や Fe(NH4)[Fe(CN)6] といったモノです。一昔前は腐らせた牛の血を錆びた鉄鍋で灰と一緒に混ぜ、ときおり鍋を叩きながら煮詰めるという方法で作られていました。生成に必要な鉄分は錆びた鉄鍋を叩くことで、酸化鉄が中に入り込み反応していったという、こんな方法どうやって思いついたのかは時代のみが知るといったところでしょうか。そして、水酸化ナトリウムなどの強塩基とプルシアンブルーを混合すると、水酸化鉄(III)とシアン化合物イオンが得られ、そこから蒸留などを経て、シアン酸こと青酸が作られるのです。

 ちなみにプルシアンブルーは、セシウムイオンを吸着する不思議な性質を持っており、福島第一原子力発電所が爆発して、放射性セシウムが日本中にばらまかれた時に話題になりました。

 話は戻って、この化合物プルシアンブルーのCNという部分こそ、青酸カリのCN部分なわけです。青酸の状態では反応性が高すぎて不安定なため、カリウム塩やナトリウム塩にしたものが、青酸カリウム(シアン化カリウム)、青酸ソーダ(シアン化ナトリウム)となります。

■青酸カリは身近な毒だった?

 話は近代になり、シアン化合物は多くの化学工業の分野で活躍していくのですが、戦後は町中にメッキ工場などがあちこちにあり、今とは考え物にならないくらい薬品がズボラに管理されていました。そのため、くすねて持ち帰ることが可能だったので、「身近な毒」となったのです。故にミステリーにも採用されていたわけですネ。

 それが時代を経て、青酸カリの毒性だけが一人歩きして、ミステリー小説や漫画の中で、入手方法は不明だけど悪い奴が使う毒というよくわからない状況になってしまったといえます。もちろん現在、メッキ工場はなかなか町中にありませんし、あっても薬品の管理は厳重で、簡単に忍び込んで盗む...なんてことは非現実的。そしてなにより青酸カリは毒殺に向いていないという「最大の問題」もあったのです。果たしてみなさんはどれほど青酸カリについてご存知だったしょうか

■実は毒殺に向いてない青酸カリ

 青酸カリは実は毒殺に向いていない。

 そんな馬鹿な、アガサ・クリスティのミステリー小説はもちろん、多くの推理サスペンスでも大活躍し、その上、実際にルイ14世の時代には青酸を使ったであろう毒殺事例が多数確認できます。それだけのバックボーンがありながら毒殺に向いていないとはどういうことなのでしょうか? 

 まず、青酸ガスは非常に致死性の高い猛毒ですが、反応性の高いガスでもあるので、しばらくすると空気中のアンモニアやその他有機物なんかと反応して毒性を失ってしまいます。

 アガサ・クリスティのミステリーの中では、ラジオの中に封印された青酸ガスが、音楽のハイライトで共振して割れ、青酸ガスが部屋に充満して死ぬというトリックが出てきます。

 まず人を殺すくらいの分量は小さなアンプルに1気圧で封印できる程度の少量では無理で、青酸ガスの致死濃度である300ppm(部屋の空気に0.03%混合しなくてはいけない)に達するためには、仮に6畳くらいの部屋を想定しても十数グラムの液化ガスを封入しなくてはいけないことになり、ラジオの中に搭載するのは、相当な技術というか金がかかります(笑)。

 しかもとんでもない圧力がかかったアンプルがラジオの音楽の共鳴で割れ、それ以外では割れないようにしなければいけないんで、これは現代のテクノロジーをもってしても厳しいと言わざるを得ず、まさにフィクションと言わざるを得ないわけです。

 いや、だからこそフィクションなんですが(笑)

■じゃあ飲ませる方向で

 いやいや、もっと古典的な青酸カリを毒として食べ物や飲み物に混ぜればいいじゃん......という声が聞こえてきますが、これもまた難儀です。

 青酸化合物は独特のフレーバーがあり、無味無臭なんてのはウソ、お世辞にも美味しいとはいえません。杏仁豆腐のような風味とメタリックな味は誤魔化しきれるには結構きついものがあります。

 またシアン化化合物は非常に分解しやすく、空気中の二酸化炭素を吸収して反応、無毒な炭酸カリウムへとどんどん変わっていきます。故に、実験用試薬でも結構な生もの扱いで、開封後は早めに使うことが推奨されています。

 毒殺犯が、紙に包んだ青酸カリを隠し持ってサラサラと入れているシーンなんかが、ミステリーに登場しますが、紙包みなんてして毒殺のチャンスを伺いずっと携帯してたら、気が付けば無害なんてこともあり得るわけです。

 加えて致死量も問題です。

 猛毒かと思われていますが、その致死量(LD50)はおよそ5mg/kgとされています。なんだたった5mgで死ぬじゃん......! とか早合点してはいけません。

 5mg/kgつまり体重が60Kgの成人男性なら5mg×60kgで300mgとなります。300mgといえば指先にこんもりあるくらいの分量です。

 しかもこの数字は、LD50(半数致死量)というもので、10人中5人は死ぬかも......という数値であり、つまり死亡率は50%。では確殺には倍量でいいのかというとさにあらず、しかもこのLD50の値はラットでの数値であり、人間に対して確実ともいえないわけです。

 そうなってくると、さらに10倍は盛らないと確殺とはいきません。

 その分量なんと3g(笑)

 1円玉3枚分です。小さじ一杯満載あります。しかも一切の分解されていない新鮮な状態であるという但し書き付きです。

 そんな分量をいれれば飲み物でも一口で怪しい味になりますし、それだけのものを飲ませることができるなら、そもそも別の猛毒がぜんぜん選択肢として出てくるわけです。

■未解決帝銀事件と青酸

 さて、そんなダメだしばかりの青酸カリですが、もう少し別のシアンを持つ化合物だと、いっきに殺しに特化することができます。

 その最たる例が、帝銀事件で使われた毒。

 昭和23年に東京都豊島区の帝国銀行に、赤痢感染者が来店したので、予防薬を飲んでくれと、役所から来たと言う男の指示のもと、署員が薬を服用。薬として配られたのは非常に飲みにくい1液と、少し苦い2液。このふたつの液体が合わさると初めて毒性を持つという青酸バイナリーなわけです。

 数分後、飲んだ職員はすべて死亡し、犯人は悠々自適に金をもって逃げた......という、戦後の未解決事件の1つです。

 ここで使われたと言われているのが、シアノヒドリンの1つであるアセトンシアノヒドリンという物質。2液にはおそらく重曹のような弱塩基が含まれていたのではないかといわれています。

 粉末の青酸カリに比べて液体で保存性が高く、胃の中で即毒性を発揮する(胃酸と反応して青酸ガスが出る)青酸カリより安定性が高く、複数人に飲ませても、2液目を飲ませて初めて胃の中で青酸を発生させて殺すことができるというトリックが仕組めるというものです。

 この方法を用いれば、複数人に飲ませても最後の人にのませ終わるまでに最初に飲ませた人が倒れ出して怪しまれることが避けられる......というものです。

 ただこの物質も凄まじいマズさで、薬と偽って飲まされたからこそ、服用に至ったわけで、現代ではまったく通じないといえます。

 なにより青酸系毒物の所見は極めて分かりやすい状況証拠を残し、そこから毒物の鑑定が行われ、犯人の絞り込みがなされると、法医学と捜査科学が発達した現代では、やはり無理難題の産物であるといえます。

 まぁ、毒を使った犯罪というのは、非常に足の付きやすい犯罪であるといえます。

(文=くられ)

※イメージ画像:Thinkstockより

あわせて読みたい

TOCANAの記事をもっと見る

トピックス

今日の主要ニュース 国内の主要ニュース 海外の主要ニュース 芸能の主要ニュース スポーツの主要ニュース トレンドの主要ニュース おもしろの主要ニュース コラムの主要ニュース 特集・インタビューの主要ニュース
「ググっても出てこない、青酸カリの本当の話」の みんなの反応 3
  • 名無し 通報

    犯罪者、不審者、死刑者、白井美和しらいみわ 白井美和の社員番号45017

    5
  • NANA M 通報

    ググってこれが出てきました

    3
  • じろ 通報

    研究業務で使用経験あります KCN+HCl→KCl+HCN CN⁻は胃粘膜吸収15秒で症状、3分で死亡 仰せの通り毒殺に不向き 追記、青酸ソーダのないメッキ工場など、クリープを入れないコーヒーと同じ

    0
この記事にコメントする

びっくりニュースアクセスランキング

びっくりランキングをもっと見る

コメントランキング

コメントランキングをもっと見る
2015年12月4日のびっくり記事

キーワード一覧

このカテゴリーについて

世界のびっくり事件や仰天する出来事などついつい気になる情報をお届け中。

通知(Web Push)について

Web Pushは、エキサイトニュースを開いていない状態でも、事件事故などの速報ニュースや読まれている芸能トピックなど、関心の高い話題をお届けする機能です。 登録方法や通知を解除する方法はこちら。