追悼、野坂昭如! 『火垂るの墓』よりも圧倒的に後味が悪い傑作小説とは?

追悼、野坂昭如! 『火垂るの墓』よりも圧倒的に後味が悪い傑作小説とは?

「焼け跡闇市やみいち派」を自称した作家で、元参議院議員の野坂昭如(のさか・あきゆき)が9日心不全で亡くなっていたことがわかった。

 自身の戦争体験を基に書かれた『火垂るの墓』で直木賞を受賞。その後、高畑勲監督のもと、スタジオジブリがアニメ化したことで、老若男女が知る大作家となった。ちなみに、映画の公開時、『火垂るの墓』と『となりのトトロ』は2本立てで同時上映されていた。筆者が見た時の上映は「火垂る」→「トトロ」であったが、ネットなどの情報によると「トトロ」→「火垂る」の会場もあったようだ。

 おそらく、幼少期に『火垂るの墓』を見た子どもたちは、大人になっても戦争に対する考え方の一部に野坂イズムが残り続けていることだろう。戦争によって罪のない人々が死に、どこにでもいる普通の人間が、悪魔にもなる――。そして、戦争期間中まさに"餓鬼"として生きた記憶は戦争が終わった後も残り続ける。その残酷さを強烈に表現した"救いのない"作品が『アメリカひじき・火垂るの墓』(新潮文庫)に収録されている短編『死児を育てる』だ。

■短編『死児を育てる』で描かれた戦争

 この話は、主人公である久子が、かわいがっていたはずの2歳の実子(伸子)を絞め殺した場面から始まる。警察に「なぜ殺した?」と問われる久子は、夫と出会い、伸子を生んだところから回想し始める。しかし、伸子にミルクを与え始めた頃を思い出したとき、実妹文子との記憶を思い出す。

 昭和18年の春。久子が小学校5年生の時、文子が誕生。久子は文子をかわいがった。しかし、小型爆弾の破片で母が即死すると、久子の心は不安定になり、泣く文子を失神させるまで殴るなどの虐待が始まる。挙句の果てには、文子の分の配給まで自分で食べ、栄養が必要な2歳の妹には重湯しか与えなくなる。

「私は、自分が生きるためには、文子などどうでもよかった」(p.156より引用)
 
 そして、広島と長崎に原爆が投下され、終戦間近の昭和20年8月13日。警戒警報が発令されると、急に母親の死が久子の脳裏にフラッシュバックし、妹を土蔵に置いたまま、死んだ母の影を追ってほんの束の間、彷徨い歩く。そして土蔵に戻ると、文子の体はねずみに食べられ、血まみれで死んでいたのだった。

「妹の命を奪った、文子を殺したことを、私は鮮明に覚えていた。皮肉なことに、それは自分の産んだ伸子の成長とともに、文子の死んだ年に近づくにつれ、予感が次第に形を明らかにし、伸子は、私の罪をそのあどけない笑い顔や、たどたどしい言葉つきで、するどく指弾する(中略)タイムマシーンがあったら、ここにあるクッキーやあめやゴーフルや、あの土蔵で最後は泣くこともできずに寝たっきりだった文子に届けてやりたい」(p.156より引用)

 久子が伸子を殺してしまった理由は、成長するにしたがって、伸子の顔が文子に見えたからだったのだ。最後に久子が刑事に語る台詞があるが、その救いのなさはぜひ作品を読んで知ってほしい。
 
 野坂自身、神戸の空襲後に、1歳4カ月の妹を栄養失調で亡くしている。妹の肌はあせもとシラミでまだらだったそうだ。この時の記憶と、もっと妹をかわいがっておけばよかったという後悔のもと小説化されたのが『火垂るの墓』である。しかし、野坂の妹に対するトラウマは『死児を育てる』のほうがより残酷でストレートに表現されているのかもしれない。愛していたはずの肉親を自分が思い描いていたように大切にできない悲しさと孤独。戦争があぶりだす人間の残酷な本性を描いた傑作をいまいちど読んでみてはいかがだろうか。

※画像は、『アメリカひじき・火垂るの墓』(新潮文庫)

あわせて読みたい

TOCANAの記事をもっと見る

トピックス

今日の主要ニュース 国内の主要ニュース 海外の主要ニュース 芸能の主要ニュース スポーツの主要ニュース トレンドの主要ニュース おもしろの主要ニュース コラムの主要ニュース 特集・インタビューの主要ニュース

びっくりニュースアクセスランキング

びっくりランキングをもっと見る

コメントランキング

コメントランキングをもっと見る
2015年12月10日のびっくり記事

キーワード一覧

このカテゴリーについて

世界のびっくり事件や仰天する出来事などついつい気になる情報をお届け中。

通知(Web Push)について

Web Pushは、エキサイトニュースを開いていない状態でも、事件事故などの速報ニュースや読まれている芸能トピックなど、関心の高い話題をお届けする機能です。 登録方法や通知を解除する方法はこちら。