追悼、野坂昭如! 『火垂るの墓』を見た外国人1,500人以上が大絶賛した理由とは?
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 直木賞作家の野坂昭如が、今月9日に死去した(享年85歳)。作家としての活動のみならず、歌手活動や"元祖プレイボーイ"としても脚光を浴び、さらに『朝まで生テレビ』や『ビートたけしのTVタックル』(ともにテレビ朝日系)への出演など、さまざまな分野で活躍した異才だった。あの童謡「おもちゃのチャチャチャ」の作詞者も野坂である。

 そんな彼の代表作が、自身の戦争体験を題材とし、後にアニメ映画化もされた小説『火垂るの墓』だ。70年前、戦時下の日本を必死に生き抜こうとした幼い兄妹の最後の姿を描いた悲劇的作品だが、実は『火垂るの墓』が当時の日本にとっては敵国であったアメリカをはじめとする世界中の人々にも最高の評価をもって受け入れられ、感動の涙を誘っていることはあまり知られていない。

■詩的かつ叙情的に戦争の悲劇を伝えた

 巨大オンライン映画データベース「IMDb」では、アニメ映画『火垂るの墓』(英題:Grave of the Fireflies)について500件近いユーザーレビューが寄せられており、それらの多くは戦争の悲惨さに心を痛めたというもの、兄妹の愛に感動したというもの、またアニメ映画としての完成度を称えるものとなっている。しかし中には、ハリウッド映画の巨匠スティーブン・スピルバーグ監督の『プラーベート・ライアン』と比較し、「(血が吹き出したり内臓が飛び出るなどの)暴力的な描写よりも、ずっと詩的かつ叙情的に戦争の悲劇を伝えているという意味において(芸術的に)優れている」という声も寄せられている。さらに、「今まで観てきた映画の中で"もっとも素晴らしい"映画」と評価するユーザーが非常に多いことにも驚かされる。

■「人の心を武装解除する」強力な反戦のメッセージ

 アメリカの大手オンラインショッピングサイト「Amazon.com」で『火垂るの墓』のDVDソフトに寄せられている1,000件近いカスタマーレビューも、稀に見る高評価の連続となっている。「穏やかで詩的だが、他に類を見ないほど強力な反戦のメッセージが込められており、アニメという枠を超越している」「戦争映画は血みどろのものばかりだが、これは違う。まるで観る人の心を武装解除しているかのようだ」などの意見が並ぶ。どうやら、ハリウッド映画のような直接的な表現手法に頼らずとも私たちの心に突き刺さる、『火垂るの墓』のパワフルさが、非常に新鮮に感じられるようだ。

■アメリカ映画界の大ボスも最高評価

 アメリカでもっとも高名かつ信頼されていた映画評論界の大ボスが、ロジャー・イーバート氏(1942~2013))である。その厳しさから、彼は映画界で非常に恐れられる存在だった。イーバート氏の考察は、映画作品の完成度や芸術性のみならず、その映画の社会的価値までも考察する極めて鋭いものであり、絶大なる影響力を誇ることでも知られている。

 そんなイーバート氏が、生前に自身のサイトでアニメ映画『火垂るの墓』を批評しているが、ここでも与えられた評価は最高点だ。彼は作品に携わった人々を"詩人"と称え、私たちの想像を掻き立てて感情移入が促されるという意味において、実写映画化よりもアニメ映画化が正しいと指摘。視覚的リアリズムを追求する以上に、本質的な意味でのリアリズムを実現していると評価していた。そして、悲惨な物語であっても個々のシーンに偉大な美が込められており、「これまでに製作された"もっとも素晴らしい戦争映画"のリストに入るだろう」と締めくくっている。

 いかがだろう。戦時中の日本国内、しかも幼い兄妹の体験という野坂昭如の半自伝的小説でありながら、時代と文化の壁を軽く飛び越えて人々の心を揺り動かす『火垂るの墓』――。このような事実は、まさに『火垂るの墓』が戦争の"本質"を突いた芸術作品であり、そして同じような境遇で苦しむ子どもが、まだまだ世界にいることを示しているのではないか? この世がおしまいになる前にノーリターンとなってしまった野坂昭如だが、彼が作品に込めた願いは、死後も"世界中の"人々の心のなかで生き続ける。
(編集部)

画像は『シャボン玉 日本』(毎日新聞社)より