残酷度は共食い以上!? ライオンの「子殺し」の実態を獣医が明かす
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――大田区平和島にある『五十三次どうぶつ病院』の北澤功先生は、大学の獣医学科を卒業後、動物園に獣医師として勤務した経験を持つ。『獣医さんだけが知っている動物園のヒミツ 人気者のホンネ』(辰巳出版)という、動物の不思議な生態をコミック仕立てにした本が好評となっており、筆者はその編集担当として参加した。だが、同書の性質上、性的な内容やグロテスクな内容は残念ながら(R15)でボツだったのだ! とはいえ、それらのネタをお蔵入りにするのはもったいないので、ここでいくつか公開させてもらうことになった。

 動物の世界には「共食い」がある。愛らしいチンパンジーだって共食いをすることがあり、「恐ろしい」「グロテスク」などと思ってしまうが、それも自然の摂理なのである。だが、共食いどころか「子殺し」をする動物をご存じだろうか? ライオンである。動物の生態に詳しい北澤先生に聞くシリーズの第2回は「ライオンの子殺し」の話。

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■ライオンの子殺し文化

「群れの中で狩りをして獲物を持って帰るのはメスの役目なんですよ。オスはゴロゴロしているだけなのに、メスが一生懸命獲ってきた獲物を奪い去って我先に食べはじめるんです。なんだかダメ男感が漂っていますね!」と北澤先生が教えてくれた。

 ネコ科の動物は単独で生活する種類がほとんどだが、ライオンだけは群れで暮らす。ライオンの群れは「プライド」と呼ばれ、1~4頭の大人のオスと4~6頭の大人のメス、その子どもたちから構成される。その群れの中で育ったオスライオンは、群れを追い出されて放浪をはじめる。この個体を「ハナレオス」と呼ぶ。ハナレオスは、適当な群れを見つけ、その君主になるべく戦いを挑む。

「ハナレオスがその戦いに勝利しすると悲劇が起こるんです。新しい群れの赤ちゃんライオンは、自分の遺伝子を受け継いでいない存在。メスたちが大事に育ててきたまだ小さくかよわい存在の子どもなのにね。でも、新しい君主にとっては邪魔者でしかない。ときには皆殺しにしてしまうこともあるといいます」

 ライオンの子殺し……なかなか暴力的なエピソードである。

 ライオンの死因を調べると、ライオン同士の殺し合いによるものがほとんどであるというが、YouTubeにもいくつか子殺し動画が上げられているので、興味のある方はご覧あれ。子どもに向かってなんの躊躇も手加減もなく食い殺すオスライオンの姿は少々閲覧注意である。

 この残酷なライオンの子殺しは、長い間その理由が解明されていなかったが、やはり種の保存にとって重要なことであるらしい。

「乗っ取られた群れのメスは、子どもを失うことによって発情が起きます。というのは、哺乳・育児中のメスは本来発情しませんが、子どもへの哺乳が止まることでホルモン分泌が変わるのです。そうすると、群れでは前のオスよりもさらに強い遺伝子を受け継ぐ子どもが生まれることになります」とのこと。

 メスが自分の子どもが殺されることをどう思うのかはわからないが、前のオスがいなくなっても、さらに強く新しいオスが群れを守ってくれるし、父親が誰であっても自分の遺伝子は残ることになるので、自然なこととして受け入れるのかもしれない。

 きっとメスの言い分としては、「オスたちは狩りも子育てもやらないから、群れのメスで協力してやればいいわけだしね。生活力という面からオスは頼りにならないけど、用心棒としてはいてもらったほうがいいわよね」程度のものかもしれない。新しいオスがやってきて、自分の子どもを目の前で食い殺されたところでメスはどう思うのだろう?

「もちろん子どもに対して愛情はあるでしょうし、またイチから出産して子育てをし直すという労力はできれば避けたいなどとも思うでしょうが、それはそれとして、現実を受け止めていくのでしょうね」と北澤先生。

 一方、群れを追い出され辛く厳しい旅の果てに手に入れた群れでは、メスが獲物を獲ってきてくれるし、自分の子孫を残すこともできる安定した暮らしができる。群れを守るオス、群れを攻めるオスともに命がけなのだ。

 規模の大きな動物園やサファリパークのような施設ではライオンも群れを作って暮らしているが、さすがに大きくなったオスライオンを群れから追い出すことはできない。そのため動物園スタッフがもらい手を探すことになるのだが、これがなかなか大変なのだという。

「ライオンは動物園でも繁殖しやすく、この点はいいことだと思うのですが、飼育できる施設が限られています。そのため、成長したオスライオンのもらい手探しが大変なんですよ。だから、繁殖制限のために去勢することもあります。でも、去勢すると立派なタテガミが貧相になってしまうので、最近はパイプカットが主流になっているんですよ」

 百獣の王・ライオンのオスはメスに養われるお気楽人生に見えて、自然界でも動物園でも意外と安定しないハードモードなのだ。
(文=木村悦子/ミトシロ書房)

※画像は、Thinkstockより