
2014年に発生し、現在も進行中のクリミア危機の最中に、ロシアの「捕虜」となったイルカたちがいた。ウクライナの高官がたたえた、物言わぬ彼らの忠誠心と、その最期――。
■東ヨーロッパの要衝、クリミア
黒海に突き出したクリミア半島は、東ヨーロッパを支配する上での要衝である。同地はモンゴル帝国、オスマン帝国、ロシア帝国、ソビエト連邦、そしてナチスドイツと、歴史の変遷に伴い多様な勢力の影響下におかれた。
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ソ連が崩壊を迎えた1991年、クリミア半島の主権は平和裏にウクライナへと移り、息つく暇もない支配者の交代劇は、ひとまずの終息を迎えたかにみえた。
が、影響力低下を危惧するロシアが、混乱を誘引して強引に半島を手中に収めたのは、それからわずかに年月をおいた2014年のことである。
いわゆるクリミア危機により、プーチン大統領は西側諸国からの圧力と引き換えに、黒海艦隊のための理想的な港を確保した。この時、軍港の接収にあたったロシアの兵士たちは、保管された兵器と軍需物資のみならず、ある風変わりな収穫をも得ていたようだ。
■餓死を望んだイルカたち
今月15日、ウクライナの高官であるボリス・バビン氏は、ウズベキスタンのメディアに対し、悲痛な知らせがあると訴えた。その知らせとは、クリミア危機に伴い、ロシアに捕獲されていたバンドウイルカたちが、飢えにより死に絶えたというものである。
イルカたちが餓死に追いやられたのは、ロシア兵による虐待の結果というわけではない。同氏が語るところによれば、イルカたちはウクライナへの忠誠心を示し、侵略者が提供した食べ物を口にすることなく、自らの意思で命を絶ったという。
果たしてそのようなことが起こり得るのか? プロパガンダめいたバビン氏の主張には疑問を感じるが、イルカたちの来歴をたどれば納得できる部分もある。
彼らは野生のイルカでも、ショービジネスのために駆り出されるイルカでもなく、高度に訓練された、軍用のイルカなのである。必要とあれば、爆弾を軍艦の船底に設置したり、頭部に固定した水中銃で敵国のダイバーを殺傷したりすることもできる。通常、彼らは特別な笛を通じてトレーナーと連絡を取り合うが、ロシア人たちがこの笛を用いても、イルカたちは協力を拒み続けたそうだ。
■軍用動物の歴史
このように、生き物を軍事目的に利用しようとする試みは、古くから続けられてきた。
紀元前から20世紀初頭まで、乗用馬は戦場の中心に君臨していたし、カルタゴのハンニバル将軍は、ローマとの戦いに戦象を投入した。第一次大戦では伝書鳩が命令書を抱えて飛び、力持ちのロバが負傷兵を運び、伝令犬が電話線を引きながら機関銃の射撃をかいくぐった。
そうした構図は海においても同様で、優れた知能と運動能力を有するイルカは、1960年代にアメリカ海軍に目をつけられ、研究の対象となった。
とりわけ、音の反響によって周囲の状況を読み取るエコロケーションの能力は、機雷の位置の特定や潜入者の発見に威力を発揮する。同海軍は現在も一定数のイルカを配備しており、演習などの折にふれて、訓練の成果が披露されている。
このたび餓死してしまったイルカたちは、冷戦のさなかにあったソ連が、1973年にアメリカに負けじと設立した軍用イルカ部隊の名残である。その後、91年に部隊はウクライナの所属となるものの、前述の通り、彼らには困難な運命が待ち受けていた。
元は同じソ連を形成していただけに、イルカたちがロシアの支配を嫌がって死んでしまったというのは、皮肉というほかない。
■噛み合わない主張
対するロシアの当局者は、バビン氏の発表を否定し、偽りと断言している。
接収したイルカは全て民間に払い下げられたか、そもそも2014年以前に自然死していたというのが彼らの主張だ。また、イルカたちは接収の時点でさしたる訓練も受けず、非武装化されていたため、忠誠心に左右される事態に陥いるはずもないという。
両者の主張は噛み合わないが、バビン氏は自らに向けられた一部の嘲笑に反論すべく、国内のメディアに発言の真意を打ち明けた。
「私は一握りの哺乳類が、トレーナーや他の理由のせいで苦しみ、死んでしまったということだけを問題にしたかったわけじゃない。いま、我々は何かを語るべきなんだ。残念ながらたった数年のうちに、海洋を含むあらゆる分野で事態の打開を迫られているわけだから」(ボリス・バビン氏)
同氏が軍用イルカを引き合いに出したのは、周到に考えた末、政治的な狙いがあってのことだ。
イルカたちの死について正確に知る術はないが、人と強く絆を結んだ動物は、飼い主との別れに耐えられず、実際に命を絶つことがあるという。これは犬などにも見られる傾向で、イルカの場合は給餌の拒否、水中での呼吸の停止といった行動につながるようだ。
生きるも死ぬも飼い主次第。仮にイルカたちが自殺に追いやられたとしても、それは美しい忠誠心の話ではなく、動物の性を利用する飼い主がまねいた悲劇に他ならないことを覚えておきたい。
(文=Forest)
※イメージ画像は、「Thinkstock」より
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シーシェパード、出番だぞ。逝ってこい。糞ロシアなら躊躇なく発砲しれくれる。
動物の命をなんだと思ってるんだ。 動物を幸せにすればいいのに。
これは美談ではありません。 忠誠心?ライターさん大丈夫?