北朝鮮は5年間でこんなにも変わった ― 親日的な政府関係者、熱々カップル、 高層ビル群… 報じられない真実を見た写真家・初沢亜利インタビュー!

北朝鮮は5年間でこんなにも変わった ― 親日的な政府関係者、熱々カップル、 高層ビル群…  報じられない真実を見た写真家・初沢亜利インタビュー!

 写真家・初沢亜利さんが新作写真集『隣人、それから。38度線の北』を発表した。東京・六本木の山崎文庫にて9月15日まで写真展も開催されている。2016年から2018年にかけて撮影された写真で構成されたこの本は、2012年の『隣人。38度線の北』以来の北朝鮮を撮った作品集である。


■確実に豊かになってきた北朝鮮

『隣人、それから。38度線の北』を見て驚いた。とりわけピョンヤンの街が想像以上に発展しているように感じたからだ。

 立ち並ぶ高層ビルに食品があふれる百貨店。世界各国の銘酒が並ぶバーでは人々がくつろぎ、洋菓子店のショーケースには日本のケーキ屋かと見紛うようなお菓子が並ぶ。巨大な廃墟のようだった柳京ホテルは着々と整備が進み、世界有数のホテルを思わせる外観だ。

【その他の写真はコチラ→http://tocana.jp/2018/08/post_17940_entry.html】

「ピョンヤンは目に見えて変化しました。市内は高層ビルの建設ラッシュの真っただなか。その様子は、中心部の一歩外から眺めると一目瞭然です。目算で車の量は3倍増えて、日本やドイツの高級車もよく見かけました。外国人が多く訪れることから『北朝鮮のショーウィンドウ』と言われるピョンヤンとはいえ、経済制裁で追い詰められ核開発に予算を使っていたらこんなに余裕があるわけがない。一体何が起きているのか? と驚きました』(初沢)

 人々の生活も変わった。レストランで顔を寄せ合いささやく若いカップルや、モーターボートで水上結婚式を行う新婚夫婦。セグウェイに似た電動二輪車に乗る青年たち。明るく小綺麗な衣服を身につけたOLたちは公園でくつろぎ、フードコートでスナック菓子を食べ食べ読書している少女の姿は日本の郊外型スーパーで目にする風景そのまま。自由で豊かな雰囲気が伝わってくる。

「世界162か国と国交があって、すべての国がアメリカや日本のように敵視しているわけじゃないから、本気で北朝鮮に制裁するつもりなんてないんですよ。経済制裁は機能していないと考えざるをえません」(初沢)

 地方はどうなのか? 『隣人、それから。38度線の北』には、日本の報道では知ることのできない、地方を写した写真も含まれている。

 街の広場で餌を食む牛や雪の積もった田畑の水たまりで歯を磨く若い男。凍った川の上を自作のソリでスケートに興じる子供たちの姿は、映画で見た1950~60年代の日本の田舎を彷彿させる。決して豊かな印象は受けない。しかし、ひどい貧困も感じない。

「その印象は正しいと思います。地方は確かに貧しい。でも、少しずつ状況はよくなっています。北朝鮮の地方というと、1990年代後半に日本で頻繁に流れた飢餓状態に近い映像のインパクトが強くていまだに影響力を持っています。しかし、今はあの状況にはありません。日本と比べたら圧倒的に貧しいけれど、もはや生存が脅かされるレベルにはない。そのことはきちんと言いたい」(初沢)


■北朝鮮の案内人たちは親日家

 巻末の初沢さんの滞在記には、普段私たちが接している新聞やテレビなどでは報道されない内容が含まれている。北朝鮮政府の案内人と初沢さんのやりとりがその一例だ。日朝関係について本気で議論したかと思えば軽口を叩き合う互いの様子は、敵対国の国民同士でありながら、国家的利害を超えた親密ささえ感じさせる。

「北朝鮮の案内人たちは大の親日家。数ある外国の中から日本を選んで大学で学んだことそのものが、仕事で日本に関わりたい気持ちの表れで、国交正常化の時代が来たら日本の大使館で働きたいという理想があってのこと。なかには植民地支配時代にその人の親世代が日本人によくしてもらったエピソードを持っている人もいます。『日本人は優しかった』とか『助けてもらった』という話を聞く一方で、教科書には逆のことが書かれている。そのことが、日朝関係に関わる仕事をしようと思ったきっかけだ、という案内人もいました。日本語、日本文化を学び、仕事で出会った日本人と対話するなかで日本人を体感する。その過程で日朝関係を動かしたい、国交正常化させて自分も日本に行きたいと思うわけです」(初沢)

「彼らには彼らの都合があって、政府には政府の許せることと許せないことの一線がある。そのギリギリにあるグレーゾーンで、海外からのカメラマンに何を撮らせるかは案内人の判断に委ねられていて、そこには案内人の日朝関係に対する思いの深さが表れます。根底にあるのは、お互いの国が理解し合えるよう、共にやっていきたいという意思。だから『一緒に頑張りましょう』みたいな感覚なんです」(初沢)


■豊かと言われる隣国、日本への素朴な疑問

 北朝鮮の日本担当の政府関係者と初沢さんとのやりとりのなかドキッとした一文があった。『日本はどうしてアメリカから独立しないのか?』という案内人からの問いかけだ。

「直球のような質問に一通りの返答はしました。以前、ある自民党の議員から『いまだ日本は敗戦国なのだ』と言われたことがあります。敗戦国ゆえにアメリカに握られている軍事的、経済的な部分、日本人がそれを選択せざるをえなかった事情、一方で手に入れた経済発展がもたらした豊かさがどれだけ我々にとって大切だったかを、彼らは実感としてわからない。そして次には『豊かになったのに、なぜ1年に3万人近くもの自殺者が出るのか?』という質問が飛んできたのです」(初沢)

 問いかけの裏には、案内人たちの、資本主義経済や民主主義に対する一定の関心がある。

「『資本主義経済、民主主義は社会を、人を幸福にするのか?』と彼らは真面目に考えています。豊かな隣国である日本を見ると自殺者は多いし、1票の権利を行使する者は半数に満たず、安倍一強の独裁体制のような状況になっている。『なぜ?』と聞きたくもなりますよね」(初沢)


■「共感」を軸に北朝鮮を撮る

 そもそも、初沢さんが北朝鮮を撮ろうと思った理由には、異なる政治体制を持つ日本の隣国への純粋な興味と、新聞やテレビの一方的な報道に感じた違和感があった。

「北朝鮮に対する違和感に焦点を当てた一方的な報道ばかりが流れ、それを受けた日本人の反応も一方的でした。でも、共感できるポイントもあるはずだと思っていました。私は資本主義社会を手放しで肯定する気もないし、その恩恵を受けて育ってきた者として否定する気もない。ただ、我々が正しくて彼らが悪だと入り口で決めたくはなかった。実際に自分で見て、触れて、丁寧に考えたいと思いました。初の訪朝時はカメラを持たずに行き、そこで感じたことから、違和感ではなく共感を軸に撮ろうと決めたのです」(初沢)

 日本のマスコミの報道の傾向は、初沢さんが『隣人』のプロジェクトを始めた8年前から変わらない。むしろ、その一方向性は加速しているように感じる。なぜなのだろう?

「『経済制裁が効いていてほしい、北朝鮮は貧しくあってほしい』という心情で見ているから現実の変化が捉えられないのだと思います。その証拠に、マスメディアの取材で『北朝鮮は豊かになっている』と言うと『豊かなのはピョンヤンだけ。地方では相変わらず餓死者が出ているのでは?』と反論される。ピョンヤンの経済発展は認めざるをえないが地方はいまだに飢えている、と思いたいのでしょう」(初沢)

 政治的な部分では、テレビも新聞も「核で日本の安全を脅かす無法国家」「不安定で予測不能な独裁制の敵国」という見方がほとんどだ。確かに、それも北朝鮮という国の一面だし、核武装と拉致問題という国家犯罪が両国間に横たわるゆえの当然な反応だとも思う。

 とはいえ、違った視点からの報道がもっとあっていいはずだ。しかし、日本国内で流通する情報に多様さはない。

「北朝鮮の立場に一定の理解を示すニュアンスの報道がない理由はバッシングへの恐れでしょう。『あんな国を許すのか?』『この売国奴め』というような国民、視聴者からの批判が怖くてできないのだと思います。マスメディアは本質的に視聴者が見たいものを見せるものですからね。そのうえ、北朝鮮に対しては自民党から共産党までどの政党も批判的です。そこに個人で切り込むことは、結構な戦いだと思っています」(初沢)


■2週間で撮り切ることの困難さ

『隣人、それから。38度線の北』は、北朝鮮の何気ない日常が写された写真集だ。その点でも稀有だと言えるのだが、ずば抜けて凄い点がある。それは、取材環境のシビアさから考えてありえない、写真の質と量だ。

 北朝鮮では旅行者1人につき政府の案内人が2人と運転手1人に車1台が付く。行きたい場所や取材内容を伝えるとコーディネート、通訳をしてくれるわけだ。とはいえ、これら3人は監視者でもあり、カメラマンが他国と比べて好きなように歩き回って撮影することは難しい。

 そのうえ、3回の訪朝での実質的な撮影期間は2週間足らず。あらかじめお膳立てされたコマーシャル撮影ならいざ知らず、何が起こるか予測できないストリートスナップの手法でわずか2週間で写真集1冊ぶんの写真を揃えることは、並みのカメラマンでは無理だ。

 政治体制の異なる国で、不自由な常時監視のもと、時には列車や自動車などの走行中の乗り物の中から動いている被写体を的確に捉えるには高い集中力と撮影技術が不可欠。加えて、これという被写体に出会う「運」も才能のうちだ。この本は、あらゆる意味で、初沢さんだからこそできた仕事だと言えるのではないか。


■写真家は自身の立場を意識する必要がある

 2015年にTOCANAで紹介した『沖縄のことを教えてください』(赤々舎)と同様に、初沢さんの写真は北朝鮮で邂逅した目の前の事物をそのままに切り取っていて、報道写真によくある過剰にドラマチックな演出はない。

 写真というメディアには、眼前の事象をフラットにイメージ化できるという特性がある。ゆえに絵画、小説、映画といった他の芸術と比べて、そのままでは作家の意図が表れにくい。

 初沢さんはこの写真の持つ性質、言い換えれば「写真だからこそ表現できること」に自覚的だ。そして、見る者にとってよくも悪くもバイアスとなりうる撮り手の思い入れを排除するための工夫を撮影の随所に組み込んでいる。

「撮影はパンフォーカス(写真の全面にピントを合わせる設定)で横位置、モノクロと違って加工しにくいカラーで行います。理由は写真に『中心』を作りたくないから。中心があるということは、写真家が被写体の価値の序列を勝手に付与すること。逆に言えば、中心がない写真は写ったもの全てが等価値であることを表します。偶然に写り込んだ多様な価値観が1枚の写真に混在していることが重要だと考え、目の前の事物を等価に写したい私にとって、このスタイルは必然なのです」(初沢)

 しかし、「フラットに撮るだけでは足りない」とも考えている。

「写真家は自分の立ち位置に敏感である必要があります。沖縄と同様に、日本と北朝鮮についても過去に植民地として支配し、いまだ謝罪も終わっていない加害者側と被害者側の直線的な抑圧的構造があり、そのうえで写真家は『写真を撮る』という、ある種の収奪もしている。二重の抑圧があるわけです。自分の属する社会と写真を撮る社会との関係、そして、どの位置に立って撮ったのかは写真に写らない。だからこそ、きちんと言及していかなければならないのです」(初沢)

「被写体の側から大事なのは、どんな姿勢で何をどう考えて撮っているか。それによって許せるか否かも決まってくる。抑圧なり搾取をしている側としての自覚があって、その責任のもとに丁寧に表現し、継続的かつ繊細な心遣いで発言し続ける必要がある。写真集を作ったあとのありかたも含めて、写真家には被写体への責任が問われるのです」(初沢)


■写真家・初沢亜利の現代的意義

 今、私たちが生きる世界は様々な問題を抱えている。そんな時代に写真は、写真家は何ができるのか? この問いに対して初沢さんから返ってきたのは予想外の答えだった。

「写真の力については半信半疑にならざるをえません。1月に亡くなった評論家の西部邁さんはご自身の言論、作家活動について、『何も変えられなかった。無意味だった』という一言を残して死んでいきました。それはある種、私を含めた表現する側のエゴかもしれないけれど、1冊の本で世の中は動かないし、変わらない。映画なら、地味なドキュメンタリーでも数千人は映画館を訪れる。一方で、写真集を数千部売ることは本当に、本当に難しい。正直な話、北朝鮮のことをもっと広く伝えようとするならば、写真以外の手段のほうがいいんじゃないかと思うこともある。ここ5年くらいは揺れています」(初沢)

 なるほど。「写真の力」を無邪気に信じられるほど純情ではいられないのが現実ということか。

 しかし、あえて言いたい。初沢さんの写真は、現代を生きる私たちにとって必要なんじゃないかと。

 フェイクニュースが蔓延するポストトゥルースの時代は、感情的で恣意的な一部の利害関係者の主張が私たちの行く末に多大な影響を与えかねない。民主主義社会において、その脅威と争いながら未来を作っていくためには、個々人が自分の頭で思索し行動することが必要だ。そのベースには、多様な価値観を提示してくれる情報が不可欠である。

 目の前の世界を構成する要素を全て等価値に、ありのままに提示する初沢さんの写真こそがそれなのだ。人間の憎悪と敵意が歴史を作ってきたことはまぎれもない事実であり、歴史の積み重ねの上にある「いま、ここ」の現実は強固で動かし難い。だからこそ、そこに単身斬り込む初沢亜利という写真家は稀有な存在だと言える。

 ぜひとも、『隣人、それから。38度線の北』を手に取ってほしい。あなたがそれまで抱いていた北朝鮮観を心地よく揺さぶり、そこに生きる「隣人」のイメージをアップデートしてくれるはずだ。

(文・渡邊浩行/YAVAI-NIPPON)


※画像は、『隣人、それから。38度線の北』(徳間書店)

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「北朝鮮は5年間でこんなにも変わった ― 親日的な政府関係者、熱々カップル、 高層ビル群… 報じられない真実を見た写真家・初沢亜利インタビュー!」の みんなの反応 1
  • 匿名さん 通報

    嘘臭え。TOCANAも北系か。

    0
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