この記事では、中盤2曲について語ったパートを紹介します。
◆Otis Clay「Wild Horses」
いろんなブルーズ歌手がストーンズの曲を歌うトリビュート・アルバムがありまして、『Contemporary Blues Interpret The Rolling Stones』っていうタイトルなのですが、黒人ブルーズをコピーすることからキャリアを開始したストーンズの持ち歌が、本場の黒人ブルーズ歌手たちにカバーされるというのは、彼らにとってはやはり感無量だったんじゃないでしょうか。
その中からオーティス・クレイの歌う「Wild Horses(ワイルド・ホーセズ)」を聴いてください。野生の馬のことですね。とても良い曲です。1971年にリリースされたアルバム『スティッキー・フィンガーズ』に入っていました。僕はその頃、新宿の小さなレコード店でアルバイトをやっていまして、このアルバムをたくさん売ったことを覚えています。アンディ・ウォーホルがデザインした、例のジッパー付きブルージーンのジャケットのやつです。「ワイルド・ホーセズ」、オーティス・クレイ。
◆Herbie Mann「Bitch」
「ワイルド・ホーセズ」と同じアルバムに入っていたのが、この「ビッチ」です。LPのB面の1曲目でした。
ジャズ・フルートのハービー・マンの演奏で聴いてください。『ロンドン・アンダーグラウンド』というアルバムに収められています。大ヒットしたアルバム『メンフィス・アンダーグラウンド』の続編、英国版ですね。ロンドンのスタジオでの録音で、マンさんはイギリスの若いミュージシャンたちと共演しています。ここでギターのソロをとっているのは、オリジナルの「ビッチ」にも参加していたミック・テイラー、かっこいいです。
さっき、ストーンズは基本的にリフ・バンドで、ビートルズはメロディー・バンドだと言いましたが、もちろんそんなに単純にぴったり割り切れるものではありません。1960年代後半を併走してきた2つのバンドは、それぞれに相手を刺激し、それぞれに影響を与えています。ビートルズにもハードなリフを持った曲がありますし、ストーンズにも美しいメロディーを持った曲があります。
ビートルズは1970年前後にあえなく空中分解してしまいましたが、ストーンズはメンバーを1人、また1人と失いながらも現役バンドとして活動し続けています。ミックとキースは今でもがっちり手を組んでいます。その2つのバンドの違いがどこにあったのか? もちろん僕にも詳しいところはわかりませんが、いちばんの原因はたぶんストーンズが「おれたちは所詮、悪ガキのロックンローラーなんだ」と開き直っていたからじゃないかと思うんです。ビートルズのように、ラブ&ピースとか、東洋哲学とか、そういうカウンターカルチャーの精神的な側面に惹かれたりすることはなかった。もちろん少しはありましたけど、それほど強い影響は受けなかった。とにかくロックンロール一筋でやってきた。それが長年にわたってバンドとしての結束を維持できた1つの要因じゃないかと、僕は思うんですが。
<番組概要>
番組名:村上RADIO~ローリング・ストーンズ・ソングブック~
放送日時:2024年10月27日(日)19:00~19:55
パーソナリティ:村上春樹
番組Webサイト:https://www.tfm.co.jp/murakamiradio/