いつも見かける謎のおっちゃんが木庭スカウトだった

いつも見かける謎のおっちゃんが木庭スカウトだった
正田を高く評価していた木庭スカウト
       

【正田耕三「野球の構造」(20)】野球においてドラマが起こるのは、何もグラウンド内に限ったことではありません。社会人野球の新日鉄広畑(現日本製鉄広畑)時代のことです。

 都市対抗の予選や地方大会では、選手たちはスタンドで弁当を食べたりします。そのため熱心に観戦しに来てくれるファンの顔を覚えたりもするのですが、その中の一人に、どこの球場でも見かける物静かなおっちゃんがいました。

「よく来ていますよね」「ええ」「野球、お好きなんですね」「ええ。どうですか調子は?」「ぼちぼちですね」

 謎のおっちゃんとは、顔を合わせると、そんな会話をしていました。こちらから立ち入った話はしないし、おっちゃんも踏み込んだことは聞いてこない。その60歳手前ぐらいの謎のおっちゃんと再会するのは、ロサンゼルス五輪が行われた1984年の11月。そう、その人こそ「スカウトの神様」とまで言われた、広島の木庭教スカウトだったのです。

 ここでプロ入りの経緯についても触れておきましょう。ロサンゼルス五輪で金メダルを獲得した僕ら全日本メンバーは20人中16人がプロに進みました。84年のドラフトだけでもヤクルトに入団した明大の広沢克己、法大の秦真司をはじめ、社会人から巨人に宮本和知、阪神には嶋田宗彦と計9選手がプロ入りしたのですが、広島から2位指名を受けた僕はお断りするつもりでいました。

 広島以外にも巨人など複数球団が興味を持ってくれていたようです。それでも会社からは「残ってほしい」と言われていたし、もともと僕はプロ野球選手になりたかったわけではありません。社会人時代の個人的な目標は、ベストナインに選ばれること。当時の二塁はアクロバティックな守備をする東芝の宮崎剛さんが常連で、何とか自分が…との思いだけでした。


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