令和時代、少子高齢化による労働力不足で日本経済は黄金時代を迎えるはずだ、と久留米大学商学部の塚崎公義教授は考えています。



*****



新しい時代が始まりました。

大変めでたいことです。令和時代の最初の寄稿ですから、新しい時代の日本経済について、大局的見地から考えてみたいと思います。



楽観主義者の筆者にふさわしく、明るい展望をご披露しますので、新時代の幕開けを明るい気分で祝いたい方には、ぜひともお読みいただきたいと思います。平成時代の諸問題が大逆転で一気に解決する、という話です。



なお、本稿を読んで能天気だとか非常識だとか批判する読者がいるかもしれませんが、せっかく読んでいただけるのであれば、今少し具体的に「どこがどのように間違えているのか」を考えながら読んでいただき、頭の体操に役立てていただければと思います。



■平成時代はバブル崩壊後の長期低迷期だった



平成時代の幕開けはバブル最盛期でしたが、バブルが崩壊すると長期低迷期に入りました。

人々が勤勉に働いて大量の物(財およびサービス、以下同様)を作り、倹約して物を買わなかったため、物が余り、企業が生産を減らし、雇用を減らし、失業が問題化したのです。



失業は深刻な問題です。失業者は収入が得られないのみならず、「自分は世の中に必要とされていないのではないか」といった気分にもなりかねませんから。また、失業者は収入がないので消費を手控えるため、失業者が増えると景気が悪化してさらに失業者が増えてしまう、といった悪循環ももたらします。



■失業は諸問題の根源



それだけではありません。失業者が増えると、企業は労働者を囲い込む必要がなくなりますから、正社員を減らして非正規労働者を雇うようになります。

非正規労働者の方が時給は安いですし、いつでも解雇できますから。



これを労働者側から見ると、正社員になりたくてもなれずに非正規労働者として生計を立てている人が大勢いる、ということになります。ワーキングプアと呼ばれる人たちです。特に男性のワーキングプアは結婚相手を見つけるのに苦労するらしく、独身比率が高くなっています。これも、彼ら自身の不幸というのみならず、少子化の一因だとも言えそうです。



ブラック企業も増えました。

就職活動中の学生は、内定が得られなければ「失業者や非正規労働者になるよりはブラック企業に就職した方がマシ」だと考えて入社して来ますし、社員も「辞めたら失業者だから我慢しよう」と思うので辞めません。したがって、ブラック企業は従業員を酷使し放題だったわけです。



日本経済の労働生産性も上がりませんでした。失業対策の公共投資が行われたこともありますが、企業が省力化投資のインセンティブを持たなかったことが大きいでしょう。飲食店はアルバイトに皿を洗わせる方が自動食器洗い機を買うより安かったからです。



財政赤字も膨らみました。

失業対策の公共投資が行われたこともありますが、増税しようとすると「増税して景気が悪化したら失業者が増えてしまう」という反対論が強かったからです。



■少子高齢化で労働力不足の時代に



現在は、失業ではなく労働力不足が問題となっています。直接の契機はアベノミクスによる景気拡大でしたが、それほど成長率が高くないのに労働力不足になった理由としては、少子高齢化によって労働力不足の下地が作られていたことが重要だったわけです。



少子高齢化により現役世代の人数は減りましたが、全人口はそれほど減りませんから、少数の現役世代が作った物を大勢で取り合う形となり、労働力不足となったのです。



少子高齢化が労働力不足をもたらした原因は今ひとつあります。若者が自動車を買っても全自動のロボットが作るので労働力を必要としませんが、高齢者が介護や医療を頼むと多くの労働力が必要となるので、同じ金額の個人消費でも労働力不足を促進するのです。



アベノミクス景気がいつまで続くかわかりませんが、少子高齢化は確実に続きます。10年後には「景気が良いと超労働力不足、景気が悪くても小幅な労働力不足」といった時代になっているでしょう。日本経済は長年の懸念材料であった失業問題から解放されるのです。



■働きたい人が生き生きと働ける世の中に



労働力不足の時代を迎え、失業者が減っただけではありません。仕事探しを諦めていたため失業者の統計に含まれていなかった高齢者や子育て中の主婦でさえも、「ぜひ働いてほしい」と言われるようになったのです。これは素晴らしいことです。



従来の基準では、「失業もインフレもない」というのが理想的な経済でした。平成の最後になって、それが実現したのです。まあ、日銀はインフレ率が低すぎると不満そうですが(笑)。



ワーキングプアの生活もマシになりつつあります。非正規労働者の時給は労働力需給を素直に反映して上がり始めていますし、労働力の囲い込みのために非正規労働者を正社員に登用する動きも出始めています。



ブラック企業もホワイト化を迫られています。ブラック企業のままでは学生が入社してくれませんし、今いる社員たちも次々と別の仕事を見つけて辞めてしまうからです。



こうして、働く意欲と能力を持った人なら誰でも仕事にありつき、生き生きと働けるようになったのです。これは素晴らしいことです。



■景気の波が小さくなって不況が消える



高齢者の消費は安定しています。高齢者が増えると、経済全体の消費が安定することになります。高齢者向けの仕事をしている現役世代の所得も安定するので、経済全体の消費はいっそう安定します。



一方で、現役世代が高齢者向けの仕事に従事するようになると、輸出産業が労働力不足となり、工場を海外に移転するかもしれません。そうなれば、海外の景気の波に日本の景気が影響されにくくなるかもしれません。



つまり、海外が不況になっても日本が不況になりにくい、という大変望ましい状況になるかもしれないわけです。



■日本経済が効率化



労働力不足によって日本経済の効率化が進み始めました。失業対策の公共投資が不要になったこともありますが、企業が省力化投資を本格化し始めたのです。省力化投資は経済を効率化するのみならず、鉄やセメントや設備機械などの需要増によって景気をさらに拡大することも期待されます。



今後は、高い賃金の払えない労働生産性の低い企業から、高い賃金の払える労働生産性の高い企業へと、労働者が移動していくと思われます。それも日本経済の労働生産性を高めると期待されます。



■10年後には絶好の増税の機会も



10年後には少子高齢化が進展し、景気が悪化しても失業が増えない時代を迎えるでしょう。そうなれば、増税が「気楽に」行えるようになります。さらには、「インフレ対策としての増税」も行われるようになるかもしれません。



労働力不足が賃金上昇を通じてインフレをもたらすようになると、インフレ抑制策が必要となります。増税は国会で審議して、決定して、実施して、インフレ抑制効果が出るまでに時間がかかりますから、通常の景気変動であれば、増税でインフレを抑え込むことは容易ではありません。効果が出始めた時にはすでに不況になっているかもしれないからです。



しかし、10年後にはそもそも景気の波が小さくなっているでしょうから、インフレは少子高齢化によって徐々に進んでいくでしょう。そうであれば、効果が出るまでに時間がかかる増税によってインフレを抑えることも可能となるのです。



本稿は、以上です。なお、本稿は筆者の個人的な見解であり、筆者の属する組織その他の見解ではありません。また、厳密さより理解の容易さを優先しているため、細部が事実と異なる場合があります。ご了承ください。



<<筆者のこれまでの記事はこちらから( http://www.toushin-1.jp/search/author/%E5%A1%9A%E5%B4%8E%20%E5%85%AC%E7%BE%A9 )>>