近ごろ話題になっているのが、テラスハウスに出演していたプロレスラー木村花さんの死。22歳という若さでこの世を去った木村さんは、インターネット上に寄せられた自身への誹謗中傷に傷つき、“この世を去る”という決断を下してしまうほど追い詰められました。



「木村さんの気持ち、すごく分かります。」取材時、そう語った遠藤晴美さん(仮名/31)もインターネット上の誹謗中傷で心を病んだ経験があるそう。彼女は一体どんな中傷を受け、どうやってトラブルを解決することができたのでしょうか。



■ネット上に書いた些細な言葉が火種に…



2匹の愛犬と暮らす遠藤さんはペットシッターやドッグトレーナーといった資格も所有している、生粋の愛犬家。これまでの飼育歴や知識を活かして犬の魅力をもっと伝えたいと思い、メディアを立ち上げました。



「飼い主とペットのトラブルは気持ちのすれ違いで生まれてしまうから、正しい飼育法やしつけ法などを配信することで両者の溝を埋め、殺処分を減らしたいと思ったんです。」



そんな目標があったため、晴美さんは自身の記事に「正しい」という言葉をよく使用していたそう。より多くの犬が幸せになりますように…。

そう願いつつ、「正しいしつけ法」「正しい接し方」「正しい散歩の仕方」などと表記していました。



「自分ひとりで運営していたメディアだったので、アクセス数はそれほどよくありませんでしたが、ある日いきなりアクセス数が増えて。最初は嬉しかったんですが、問い合わせ欄から中傷メールが来るようになったので、どこかの掲示板に晒されたんだなって気づきました。」



それ以降、晴美さんのもとには1日50通近い中傷メールが届くように…。中傷の多くは晴美さんが紡いだ「正しい」という言葉に反応したものだったそう。「そんなに正しい情報を言いたいなら、その下手な文で本でもなんでも書けばいいじゃないですか」「正しといっていってるわりに、文章読みにくいですよねー」「常にあなたは正しいんですか?何様です?(笑)」。暴力的な言葉が止まない毎日に、晴美さんの心はどんどん病んでいきました。



「毎日メールを受け取っていると、文の書き方でひとりの人が何回も送ってきているなって分かったりもしてきて…。『正しい』っていう言葉が、まさかこんな風にうがった見方をされるとは思いませんでした。」



しかし、苦しい状況下の中で晴美さんは、誹謗中傷相手に返信をしていたそう。「問い合わせ欄ではメールアドレスを入力するようにしていたので、受け取るメールにはアドレスが記されていました。もちろんでたらめのものもあったけれど、何通かは届いた。不快な気持ちさせてしまったことや言葉不足だったことを謝り、私の想いを伝えさせていただきました。」



■毎晩10時に届く中傷メールで精神を病んで



そうした対応を続けうちに、中傷メールは1日10~20通程度にまで減少。しかし、新たな悩みのもとになっていたのが、毎晩10時に届くようになった中傷メール。

「平日や休日など関係なく、いつも10時きっかりに送られてきました。1通の時もあれば、2~3通連続で来ることもあって。内容は『まだあんなへたくそな文章書いてるんですか?』っていう筆力に関するものから『気持ち悪い』というただの悪口まで様々。」



その相手のメールには毎回同じアドレスが記されていたため、晴美さんは何度も返信しましたが、それでも翌日の10時には必ず中傷が届くのが日常に…。決まった時間に届く冷たい言葉は強いストレスになり、顔面神経麻痺を発症。メールが届く時間が近づくと腹痛に見舞われ、号泣。いつしか、返信を通して和解する気力も失っていきました。



■中傷相手にあえて謝罪



しかし、そんな日々を続けるうちに、ふと中傷相手に心当たりがある…と思うように。「まだ、掲示板にメディアが晒される前、1度だけ問い合わせ欄からしつけ関係の記事へ指摘がきたことがあって。その相手に私は自分の考えを押し通しました。返信は来なかったのですが、よく考えてみれば、メディアが晒されたのはそれから間もなくだったなって気づいた。」



そこで晴美さんは中傷相手に謝罪文を送りました。「もしかして、以前しつけ関係の記事にご指摘をしてくださった方でしょうか?その節は私が至らなくて不快な思いをさせてしまい、申し訳ございませんでした。もしかしたら、これからもメディアを通じて嫌な思いをさせたり、これは違うと思うことがあるかと思います。

その時はまたぜひ、ご指摘ください。色々な考え方や捉え方があること、今回とても勉強になりました。ありがとうございます。」



このメールに対し、中傷相手は「なんのことですか?それ私じゃないですよ。でも、この度は大人げないことをしてしまい、申し訳ございませんでした」と返信を寄せ、それ以来中傷メールは来なったそう。



中傷を受けても晴美さんのような対応がとれる方は少なく、通常は一方的に罵倒されることがほとんど。言葉のナイフを向けられた時、私たちは一体どうやって自分を守っていけばいいのでしょうか。



言葉には人を殺す力も生かす力もある。だからこそ、自分の口から出る言葉に責任を持つ。ネット社会を生きる私たちはそんな決意を胸に抱きつつ自分の言葉にも意識を向けながら、誹謗中傷問題を考えていけたらいいですね。