財務諸表から倒産予備軍を見分けるには、売上高急減を流動資産で凌げるか、流動比率などは適切か、在庫が増加を続けたりしていないか、といったチェックが重要だと筆者(塚崎公義)は考えています。



■倒産予備軍を見分けることで損が避けられるかも



新型コロナ不況で倒産が激増すると言われています。

取引先が倒産しそうか否か、見分けることができれば損が避けられる場合も多いでしょう。



販売先企業が倒産しそうであるとわかれば、納品と同時に代金を受け取るように取引条件を変更することで、損が避けられるかもしれません。



あるいは株式投資を行っている場合には、投資先が倒産しそうか否かを見分けられれば、早めに株を売って損を避けることができるかもしれません。



倒産するか否かは、会社ごとの個別事情によるところが大きいですし、特に銀行が資金繰りを支えるのか見放すのかといったことも大きいので、確かなことは言えませんが、何となく危なそうだから気をつけようというところを見分けることはできるかもしれません。



販売先企業であれば、頻繁に会社を訪問することで、社員の顔色とか掃除の行き届き方等から、何となく会社の雰囲気が悪化していることに気づくかもしれませんが、本稿では財務諸表から気づけることについて考えてみましょう。



■新型コロナ不況での心配は売上高急減による資金ショート



新型コロナ不況では、多くの会社で短期間に急激に売上高が落ち込みましたが、その間にも家賃や正社員の給料等の「固定費」はかかり続けています。

加えて、借金の返済期限が来れば、その返済のための資金も必要です。



そうしたことを考えるためには、たとえば「年間売上高の1割が失われても倒産しないか」を考えてみる必要があるでしょう。



流動資産(1年以内に現金になる資産)から流動負債(1年以内に返済が必要な負債)を差し引いた値が年間売上高の1割より多ければ、おそらく問題ないでしょう。流動負債の返済期限が翌日で、流動資産の回収予定が11カ月後であれば倒産するかもしれませんので、絶対とは言えませんが。



もっとも、上記の条件は大変厳しいので、これを満たしていなくても心配しなくて大丈夫です。たとえば、売上が減れば材料費も減りますから、「売上から売上原価を差し引いた残り」の1割と比べれば良いでしょう。

それ以外にも、アルバイトを出勤停止にして正社員だけで営業しているかもしれませんし、店を閉めていれば電気代等も安く済むでしょう。



それから、流動負債については、銀行が借金の返済を待ってくれたり、返済額と同額を貸してくれたりする場合も多いと思います。今次局面では、「短期的な売上の落ち込みによる資金繰り難を借り手が乗り越えるか否か」が銀行にとっても重要だからです。



この辺りについては、拙稿『銀行の融資基準が新規先に厳しく、既存先にはそれほどでもない理由( https://limo.media/articles/-/17429 )』をご参照いただければ幸いです。



そうしたことを考えても資金繰りが困難になりそうな企業があれば、それは倒産の可能性があると考えて良さそうです。



■流動比率等を計算してみる



新型コロナの話から離れて、以下では一般論として新型コロナ以前から広く言われていたことを紹介します。



まずは、決算書に継続企業の前提に関する注記(ゴーイングコンサーン注記)がある会社は危ないということです。当然のことですが。



売上が減り、赤字が増えている企業は要チェックだ、と考えている読者も多いと思いますが、それは「長い目で見て倒産する可能性が高そうだ」ということであって、倒産が差し迫っているか否かは別の問題です。純資産が潤沢にあるならば、すぐに倒産ということはないでしょうから。



反対に、黒字企業だからといって、大丈夫とは限りません。たとえば売上分がすべて売掛金となっていて、仕入れがすべて現金であれば、利益が上がっていても資金繰り倒産をする可能性もあるからです。



一般的に言われているのは、流動比率、当座比率、固定比率、固定長期適合率、自己資本比率、といった比率をチェックするべきだ、ということです。



流動比率というのは、流動資産を流動負債で割った値のことです。これが1以下だと危険だ、というのは当然ですね。



当座比率というのは、当座資産を流動負債で割った値で、これが1以上あれば、とりあえず安心だと考えて良いでしょう。当座資産というのは、流動資産の中でも現金化しやすい資産で、現金、預金、受取手形、売掛金、などの合計のことですから。



固定比率というのは、固定資産(流動資産でない資産。

不動産等)を純資産(自己資本とも呼ぶ。バランスシートの右下部分で、返済を要しない資金)で割った値のことです。これは小さいほど安心です。1以下ならば返済不要の資金で不動産等を購入しているということになるので、まあ大丈夫でしょう。



固定長期適合率というのは、固定資産を純資産プラス固定負債で割った値のことです。これも小さいほど安心です。

1以下ならば、不動産等の購入資金が純資産と長期借入金等で賄われているということですから、まあ大丈夫と考えてよいでしょう。



自己資本比率は、純資産を負債プラス純資産で割った値ですから、高い方が安全です。業種等にもよりますが、10%を下回ると危険だ、という人が多いようです。



■資産の劣化にも要注意



財務諸表には資産の質についての記載は原則としてありませんが、よく見ると、資産の質が劣化している可能性が見て取れる場合があります。



たとえば在庫が増加を続けている場合です。一度限りの増加であれば、新製品発売前に在庫を積み増しているのかもしれませんが、増加が続いているならば、製品に競争力が乏しくて売れ行きが落ちている可能性があるでしょう。



売上が落ち込んでいないのに在庫が積み上がっているという場合には、売れ残って廃棄すべき在庫がそのまま財務諸表に計上されている可能性があります。あるいは、最悪の場合には粉飾決算として架空の在庫が計上してあるかもしれません。



売掛金の増加に関しても、製品の競争力が足りないために代金支払い条件で大幅に譲歩して無理に販売を伸ばしている可能性が考えられます。あるいは、製品納入先の財務状況が悪化して資金回収に苦労しているのかもしれません。



さらには、決算期の異なる企業に頼み込んで決算前に不良在庫を買い取ってもらい、決算後に買い戻す、といったことが行われているかもしれません。最悪の場合には、粉飾決算として架空の売掛金が計上してあるかもしれません。



在庫や売掛金が増加していなくても、売上高と比較して過大である場合には、過去の負の遺産が残っているのかもしれません。売上高と在庫等の比率を同業他社と比較してみることは重要かもしれませんね。



仮払金や短期貸付金についても、在庫や売上金と同様に、増加を続けていたり高水準であったりすれば、資産の質が劣化している可能性が高いかもしれませんので、要注意ですね。



他人を性悪説で見るのは一般論としては望ましいことではありませんが、倒産寸前の企業は粉飾決算をしてでも生き延びたいというインセンティブがありますので、本稿では敢えて粉飾決算の可能性もチェックすべきだと考えているわけです。



本稿は、以上です。なお、本稿は筆者の個人的な見解であり、筆者の属する組織その他の見解ではありません。また、厳密さより理解の容易さを優先しているため、細部が事実と異なる場合があります。ご了承ください。



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