少子高齢化の進行を背景に、「終活」に関心を寄せる人が増えていますね。2020年7月10日からは、自筆の遺言書を法務局で保管できるようになったことなどをきっかけに、より具体的な「終活」をイメージし始めた、という人も多いかもしれません。



「自分が亡くなったあと、家族が困らないため」
「自分自身が、より良い人生を送るため」
終活の目的を大きく2つに分けると、こんな感じになるでしょうか。



前者は、自分のお葬式やお墓についての希望、相続トラブルを避けるための準備、モノの片づけ、といったことがイメージしやすいですね。そして後者については、「煩わしい人間関係を整理したい」と考えている人、結構多いのではないかと思います。



「姻族関係終了届」という制度を知っていますか?



ちょっと耳慣れないかもしれませんが、“死後離婚”とも呼ばれるもので、これも、終活の一つではないかと筆者は感じています。



そこで、義家族との関係を「整理」した、A子さんのエピソードをみていきましょう。きっかけは、夫の死を通じて彼女が経験した、とあるできごとでした。



■夫の死で考え始めた「義実家との今後」



A子さん(東京都・55歳・会社員)は、45歳のとき同じ歳の夫を心筋梗塞で突然亡くしました。いわゆる「過労死」でした。



地方の田園地帯でのんびり育った夫は、大学進学で上京し、そこでA子さんと出会いました。その後、地元でのUターン就職を望む両親を振り切り、東京の大手企業に就職し、A子さんと結婚。一男一女をもうけました。



夫の両親は健在で、当然ながら息子の早すぎる死に大きなショックを受けていました。

ところが葬儀の後、親戚一同を前に、義父がA子さんをこう責めたのです。



「地元に戻って就職していれば、あいつは過労死なんてしなかったはずだ。東京の娘と結婚なんて、俺は最初から反対だった。旦那の健康管理ひとつもできないなんて、長男の嫁失格だ。息子を返せ!」



この言葉に深く傷つけられたA子さんは、その後、法要などの場で義実家の面々と会うたびに、動悸や過呼吸に悩まされるように。



「夫が亡くなっても、この人たちと戸籍上のつながりを続けていかねばらないのか思うと…」



そんな苦悩を親友に打ち明けたA子さんは、「姻族関係終了届」なるものの存在を初めて知ります。



■「姻族関係終了届」って?




「姻族関係終了届」は、「配偶者の死後に提出し、姻族との関係を終了する手続き」です。姻族とは、結婚によって親族になった人たちのこと。簡単にいうと、配偶者と血のつながりがある人たち、ということですね。



民法上「親族」とみなされるのは、3親等以内の姻族です。そのため夫(/妻)が亡くなった後、その両親を扶養する義務などが生じる可能性があるのです。



「妻の家族とは険悪な関係だった」「義家族から嫁いびりにあっていた」といったようなケースはままあります。

そうした場合、介護やお金の援助は勘弁!という人は多いでしょう。そこで、「決意表明」のような意味合いで「婚姻関係終了届」の提出を検討する人が増えているようです。



届出には提出期限がなく、届け出後も、亡くなった配偶者の相続人としての地位や、遺族年金の受給権も変わりません。提出するさいに、配偶者の親・きょうだいなどの同意は要らず、姻族関係の終了を義家族に通知されることもありません。



■急増する「死後離婚」



では、「姻族関係終了届」はどれくらい出されているのでしょうか。法務省の「戸籍統計 統計表( http://www.moj.go.jp/housei/toukei/toukei_ichiran_koseki.html )」より、その推移をみていきましょう。



「姻族関係終了届」届け出件数の推移

  • 1998年度…1629件
  • 1999年度…1824件
  • 2000年度…1797件
  • 2001年度…1834件
  • 2002年度…1769件
  • 2003年度…1799件
  • 2004年度…1793件
  • 2005年度…1772件
  • 2006年度…1854件
  • 2007年度…1832件
  • 2008年度…1830件
  • 2009年度…1823件
  • 2010年度…1911件
  • 2011年度…1975件
  • 2012年度…2213件
  • 2013年度…2167件
  • 2014年度…2202件
  • 2015年度…2783件
  • 2016年度…4032件
  • 2017年度…4895件
  • 2018年度…4124件

(参考:「種類別 届出事件数」戸籍統計 統計表( http://www.moj.go.jp/housei/toukei/toukei_ichiran_koseki.html ) 法務省)



1998年以降ゆっくりと増え、2000件前後で推移していましたが、2016年に4000件を突破。2008年~2018年の10年間だけに注目すると約2.3倍に増えていることになりますね。



決断に迷う人も・・・

さて、「姻族関係終了届」の存在を知ったとき、A子さんの心は揺れました。



「義実家との関係は今すぐにでも解消したい、でも、これを子どもたちが知ったらどんな気持ちになるかしら・・・」



結果的に、葬儀で起こった光景を見ていた子どもたちが「お母さんの気持ちがそれで落ち着くなら良いと思う」と背中を押してくれたことで、彼女は義実家との関係を終了させることを決めました。



先述のとおり、姻族関係が終了したことが、義実家に知らされることはありません。とはいえ、我が子の心情や、祖父母との今後の関係を考え、あえて「姻族関係終了届」の提出を踏みとどまった、という人もいるようです。



■さいごに



さて、「姻族関係終了届」の届け出者については、「男女比」が分かるデータは未公表です。

とはいえ、日本人の平均寿命の男女差は約6歳(男性81.25歳・女性87.32歳※)。妻の方が年下、もしくは夫婦同年代、といった場合、夫が先立つケースが多くなるでしょう。となると、女性からの届け出の比率が圧倒的に高いということが想像できますね。



家族のスタイルや夫婦の生き方は、今後ますます多様化していきます。終活を意識する人が増える今、「死後離婚」がどのように認知され、その数がどのように推移していくのか、注目していきたいものです。



【参考】
【姻族( https://kotobank.jp/word/%E5%A7%BB%E6%97%8F%E9%96%A2%E4%BF%82%E7%B5%82%E4%BA%86%E5%B1%8A-1272036 )】 世界大百科事典 コトバンク
【死後離婚( https://kotobank.jp/word/%E6%AD%BB%E5%BE%8C%E9%9B%A2%E5%A9%9A-1749258 )】 知恵蔵miniコトバンク
「戸籍統計 統計表( http://www.moj.go.jp/housei/toukei/toukei_ichiran_koseki.html )」法務省
※日本人の平均寿命「平成 30 年簡易生命表の概況( https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/life/life18/dl/life18-15.pdf )」厚生労働省